忌朝
続きです。
彼女にとって、日光とは往々にして憎むべき忌まわしき存在であった。日中の柔らかな日差しの中、眠気を堪えつつ座る本来は学業に励むべき机の硬さはえも言えぬ苛立ちを誘った。
退屈なだけの時間をひたすら繰り返す昼間に、ただひたすら焦燥感だけが募る。
周囲に集まってくる級生たちは皆、そんな彼女の様子を認め、またか、とため息をつく。
そうして、彼女が気だるげに孤高を貫いていると
「茉莉、またそんなだるそうにして……」
と声をかける少女がいた。彼女……いや、茉莉はその声に反応し、むくりと突っ伏した状態から顔を上げる。
「なんだ、燈華。昼休憩にわざわざ違う教室にまで来て」
声をかけてきた、彼女自身が燈華と呼んだその少女の姿を認め周囲を見回す。
燈華は、つい先月に出会ったばかりの違う学級に所属する少女である。
そんな突如として現れた少女を、先ほどから茉莉を遠巻きに疎んじていた級生たちが、何か得体のしれないものを見るような目で見る。
そんな視線に臆することなく、燈華は茉莉へと親しげに話しかけ続けた。
「……また、そんな顔をして、寝不足? 夜更かしするのはあまり―――」
話す彼女の顔を眺めながら、茉莉はぼんやりとお腹が空いたなぁ……と聞き流していると
「……美味しそうだ」
とっさに口からそんな言葉が漏れた。あまりにも小さなつぶやきだったはずのそれを耳ざとく拾った燈華は、え、という顔をして
「何が!?」
茉莉が目を向けていた方に視線を送る。しかし、何も見つからなかったのか不思議そうに首を傾げた。茉莉は、自分が今、何を言ったのかわからなかった。
……これは、まて、目の前の燈華に対して思ったのか?
自分の言ったことを熟考し、出した結論に愕然とする。自身が作り出した芸術品……料理、というべきか、に対してならそのような感想が出ても違和感はないものである。しかし、それが自身の一番気に入った人物に対して出るのはどうなのか、と心内で悶々とする。
「……茉莉、難しい顔をしてどうしたの?」
そんな内心の葛藤を知ってか知らずか、燈華はこちらを覗き込むようにして見つめた。煽れに対し、内心さらに複雑な心境が沸き上がる。
「あ、あ、あぁ。なんでもない」
若干どもるようにごまかすと、ふーんそうかー、と納得のいかない顔で燈華が身を離した。
昼休憩が終わる鐘の音が鳴り響き、また、いつも通りの退屈の日々に戻るのであった。
彼女の忌み嫌う太陽はすっかりと闇に沈み、おもむろに白衣を纏った彼女は今日も街へ繰り出す。今日も仕事だ、と怠そうにつぶやくその後姿を認めるものは、誰もいなかった。
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