暴行だと自白!現場には大量の血痕。嘘の自白から真実を暴け
これは、暴行罪を取り調べた事件ファイルである。
今後このようなケースが無きよう、厳重に捜査すべき教訓として書き記したものだ。
2016年 10月13日 15時23分
警察に1本の電話が入った。
暴行を行ったから、捕まえに来て欲しい。
場所は逆探知ですぐに判明。警官を出動させた。
現場は銀行だった。後頭部に血液が付着した男性と体に血液が付着した男性の2名である。
両名とも血の量はひどかった。立っていられるのもおかしいほどであった。銀行の床にも付着していた。
ただの暴行ではないことが明らかだった。
救急車の手配をするよう言ったが、両名も拒否。
体に血液が付着した男性が、これは返り血だと供述。俺が自白した。取調べを受けるから後頭部の男性は場所が場所なだけに先に帰してほしいと申し出た。この提案に応じて先に後頭部の男性を行かせた。
自白した者は、春富士 たかと(はるふじ たかと) 22歳 無職
供述内容は以下の通りである
銀行で激しい討論になり、相手の行動についカッとなってしまった。
鈍器のようなもので相手の後頭部を殴打した。
予想外の出血をさせて大変な事をしたと思い、警察に通報、自白した。
討論の内容や凶器については黙秘された。現場には凶器らしいものはなかった。
しかし、取調べを行うと服の中から拳銃を発見した。これが凶器ではないかと推察した。
すぐにその拳銃を調査した。指紋が付着しており春富士と一致した。他に指紋の付着は検出されなかった。
拳銃には弾丸が1つも装填されておらず、現場に残っていなかった。
そこで被害者の体から弾丸が発見されると思い、調査した。しかしどこを調べても弾丸は無かった。
続いて血液を調べた。返り血、後頭部の血液、現場の血液。すべて同じものだと判明した。
弾丸が気にはなるが、どこか春富士が隠したものとみて捜査はここで終了。春富士に殺人未遂として逮捕した。春富士は大人しく認め、裁判にも弁護人はいらないと拒否。
12月20日 10時00分 裁判所
検察官、裁判員、春富士、被害者 他に傍観するもの数名がいた。
自白したこともあり、裁判もスムーズに行われた。
その実刑の重さを調べるべく、論点は被害者の怪我の程度に論点が集まった。
ここで初めて被害者の怪我の程度について触れられた。
調べたところ、被害者の怪我の後も手術の痕跡も無いという。
カサブタのような後も見られなかった。
拳銃で撃たれたのに外傷なしはおかしい。
そこで血液が被害者であるか、DNA鑑定を行うことにした。裁判はここで一度打ち切りとなった。
後頭部の血液と被害者のDNAを鑑定した。結果被害者のものではないと判明した。
春富士のDNA鑑定も行った。しかし、春富士のものでもなかった。
誰の血液なのか不明。
銃弾の行方、不明の血液、外傷のない被害者。本当に殺人未遂なのか疑問が生じた。
黙秘され続けた討論の内容にも注目すべきではないかと調査することにした。
すると、被害者から犯人は俺だと自白した。
自白内容は以下の通りだ。
あの日、俺は銀行強盗をしようとした。拳銃を従業員に突きつけて金を要求した。
そしたら春富士が止めに入った。
「銀行強盗やるなら、俺を殺してからにしろ」
春富士は携帯電話を取り出したんだ。
「今やめるなら、警察には連絡しない。帰るか殺すか選べ」
俺は拳銃まで用意して脅迫までしてしまったから、後には引き返せないと思った。
腹部を狙って撃った。少しよろめいて血もついた。だが、奴は倒れなかった。
続けて発砲した。何度も何度も。どんどん血はついたが全然死ぬ気配がなかった。
怖くなった。逃げ出した。そしたら後頭部を何かで殴られた。
「発砲で異常に気づいたものがいる。もう遅い。捕まりたくなかったら俺が身代わりになる。言うとおりにしろ」
わけが分からなかった。だけど、銀行強盗が上手くいかないことだけは分かった。
俺は奴の言うとおりにした。
後頭部に血を付着させた。そして拳銃を奴に渡した。拳銃の弾はもうないのは知っていた。
渡しても恨まれて殺されないことだけはないと分かってたから。
奴は念入りに拳銃をふき取った。そして自分の指紋を付着させたまま自分の服にしまった。
銀行の従業員には、もうこのようなことがないように指導すると説明し、起こったことを話さないことを約束させた。その後で、警察に奴は連絡した。後は知ってのことだと思う。
この自白を元に捜査が再開された。まずは春富士の体を調べた。こちらも傷跡が発見されなかった。
服も再度確認した。すると特殊な材料で作られていることが判明。
防弾チョッキの役割があることがわかった。試しに拳銃で衝撃を与えた。
すると、血がにじみ出た。血液の正体はこの服であることが判明した。
被害者に外傷が見られなかったこともこれで説明がついた。残る疑問は弾丸である。
現場を再度捜索しても何も出てこない。春富士を再度取調べすることにした。
すると、春富士の体内から弾丸が発見された。どうやら弾丸を飲み込んだようだ。
弾丸は取り出された。すべて血痕がついていた。線条痕、服の血液ともに一致した。
これを春富士に問い詰めるとようやく真相を話してくれた。
真相を簡潔に書くと以下の通りである。
被害者は銀行強盗を行い、金を要求。
春富士が止めに入り、撃たれる。
撃たれはするが、防弾チョッキになっている服で無傷。さらに血液がにじみでる。
被害者は驚き、逃げる。逃げて背中を見せたところにペットボトルで後頭部を殴る。
拳銃の指紋をふき取り、わざと春富士が付着させ、拳銃を腹部にしまう。
血液を被害者の頭部に付着させるため、服や床に飛び散った血を押し当てる。
落ちている銃弾をすべて拾い、春富士が飲み込む。
その後、警察に連絡。暴行を加えたと供述。
警察が来る間に銀行員を説得。
後頭部に血のある被害者を逃がし、自白した春富士を逮捕。
春富士の動機
普段から、犯罪を防止するためにこの服を着用している。
そしたらたまたま今回の事件に遭遇した。
最初は許すわけにもいかないとやめさせるつもりで話した。
説得すれば、撃たれずにすむ自信もあった。だけど、上手くいかなかった。
何発も撃って逃げるものだから、ついむきになりそばにあったペットボトルで殴った。
殴った自分が許せなかった。どんなヒーローでも暴力を振るっちゃいけないと思ってたから。
いっそ捕まりたかった。それで相手が犯罪をやっていることを隠して捕まることに決めた。
そうでもしないと、捕まることなんて出来ないと思った。
被害者の動機
最初は、捕まらなかったことに嬉しく感じた。暴行罪にしてしまったがそんなことなど関係ないと思ってた。奴なら上手くごまかせると信用もしていた。たいした怪我もしたわけじゃなかったから。
ところが、殺人未遂まで話が進んでいた。それも奴は素直に受け止めていた。わけが分からなかった。
本気で俺をかばおうとしているのが伝わった。だけどそれが苦し紛れなのは俺にはわかってた。
自白しようとも思った。あんな奴を犯罪者にしちゃいけないと思った。だけど、その時俺は名乗り出ることは出来なかった。
ことの発端を聞かれて、もう時間の問題だと思った。自白する決心がついた。弾丸もそのうちちゃんと調べられると思った。まさか、飲み込んでたなんて知らなかった。
銀行強盗を行った俺も許せないが、それ以上に俺をかばった奴をかばってやれなかった俺が情けなく思う。奴を見習って、罪を償って出来ることなら犯罪を防ぐ立場になってこれからを生きるつもりでいる。それが多分、奴が望んでいることだと思う。
捜査員
大量出血して平然と立っている2人をもっと怪しむべきだった。
何が起こったのか話してくれない不自然さには違和感を感じた。
自白を裏付ける根拠もそれなりにあった。もうそれで解決する簡単な事件だとばかり思ってた。
被害者を加害者がかばうケースもあるが、初対面でかばうケースは想定外だった。
捜査不足だった。