電話
リリリリリリリリーーーーーーン。リリリリリリリリーーーーーーン。
がちゃり。
「もしもし、俺だけど」
「悪いね、急に。でも話がしたかったんだ。大した話じゃないんだけどさ」
「この前のことだけど、俺にも孤独の意味がわかったよ。孤独ってのがなんなのかってことね」
「俺はある本を読んだわけ。本の書名は明かさないけど」
「読んでる最中はそんなに心に来るものじゃなかったんだ。ふぅん、って感じで。へーぐらいに思ってた」
「でも読み終わると、不思議に心にしんと沁みた。いい本だったよ。何か心に来るものがあった。まだその感触は残ってる」
「で、俺はその本を置いて外に散歩に行ったわけ。もう夜だったし、まだ寒かったよ。でも歩きたい気分になった」
「その本にはたしか、主人公がアドレス帳を見ながら電話をかけようとするシーンがあったんだけど、俺も電話したくなったんだ。誰かと話がしたかった。その本のことを話したかった。こういう本を読んだよって」
「そこで俺は絶望したね。もちろん俺にだって電話をかけれる人間はいる。友人はいるよ。でもさ、本に感動したんだってだけで、なんか電話しづらかったんだ」
「身近には話せる人もいなかったしさ。ただ俺はその本と、その本を読んだ感触みたいなのを誰かに伝えたかったんだ」
「しょうがないから、散歩しながらコンビニでアイス買ってぶらぶらしながら食ったよ」
「その時、俺には孤独の意味がわかったね。とても素晴らしい本を読んで、その事を誰かに伝えられないこと、それが俺にとっての孤独。ほんと、久しぶりに孤独を実感した」
「でもまぁ、大したことないんだ。その後別の用件で友人と電話したら、すごい面白いホットな話題になってどうでもよくなったしね」
「だから、俺の孤独なんてジャンプでいうと0.5冊分なんだ。ジャンプ0.5冊分の孤独。でも俺はジャンプの作品は2、3割しか読んでないから、ジャンプでさえ俺の孤独を癒せないんだ」
「………………………………大した話じゃないけどね」
「悪いね、急に。でも救われたよ。多少救われた。ジャンプでいうと0.2冊分は救われた。そんなもんだよ、だいたい。それじゃ」
がちゃり。
ツーーーーー、ツーーーーー、ツーーーーー。