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EATER―異能者達の宴―  作者: ケロっち
とある女子高生の日常
8/16

過去と現在と未来の交差

《―過去―幼い少女の物語》


幼い頃の私は、とても表情に乏しい子供だった。


どんなに周りが笑わせようとしても

どんなに周りが私という存在に無関心であっても

どんなに世界から孤立しても

どんなに苛められても


私は、笑うどころか、怒ることも、泣くこともしなかった。

周囲の人々は…とりわけ、子供よりも大人達は…それを不気味がり、過剰に反応した。

子供は、自分の世界にある異物を追い出そうと、存在を無視し、それでも邪魔ならば否定するために苛めるだけだ。


だが、大人は理解がある分、性質が悪い。

初めは、「どうかしたのか?」、「言いたいことはない?」と、気にかけるフリをする。


そうしなければ、常識的に自分が間違っている気がするから。

しかし、そのうち、自分の持つ常識に当てはまらないと知ると、今度は理解できないから腫れ物を扱うように接し、最後は存在さえも認めなくなる。


自分の世界から、視界から、異色を取り除くのだ。

幼いながら私は、本能的にどうしてかを理解し、酷く傷つき、最後は表情だけでなく、心さえもなくなり、単なる木偶となろうとしていた。

疲れてしまったのだ。


周りから無言の刃で心を抉られる事に。

そして何より傷ついていることを相手に伝えられない、あまりにも不器用な自分自身に。

ついに死のうと決意し、ふらりと家をでたある日の事。

私は、一人泣いている同い年の女の子を見つけた。

普段なら、どうせ傷つくだけだと分かっているから自分からは関わらないのに、彼女と会った時だけは、何故か関わってもいいと思い、声をかけた。


「なんで…泣いてるの…?」

「わたし、一人ぼっちなの…だれも、遊んでくれる人、いないの…」


いつぶりかも分からない会話だった。

私は、彼女との会話に新鮮味を感じ、どうせ死ぬのなら、その前に気休めでも彼女を元気づけたいと思ってしまい、会話を続けてしまう。


今思えば、あれは自分を見ているようで、放っておけなかったのかもしれない。

しかし、最初は単なる気まぐれであったはずが、彼女を放っておけなくなり、最後には死のうだなんて気は毛ほどにも思わないほど、会話に熱中してしまっていた。

やがて、子供ながら責任というものを考えず、私は彼女と指きりをしてしまう。


『それじゃあ、約束ねぇ。

 いえとかもはいつまでもいっしょ

 どっちも、ぜーったいいなくならない

ゆびきりげんまん

嘘ついたら針千本のーます!

指きった!』


指きりが終わると、しばらくして彼女は不意に泣き出す。

どうしてか分からなくて戸惑い、「何で泣いてるの?」と慌てて聞く私に、彼女はくしゃくしゃの泣き顔で答えた。


「だって、かもがやさしすぎるから…私には、もったいなさ過ぎるから」


この時、私は初めて、笑うことができた。

困ったような、嬉しいような、そんな不器用な笑顔。

放っておけない程頼りない、初めての友達への苦笑。


でも、衣恵は、そんな笑顔しかできない私を友達と呼んだ。

初めての、そして最高の友達と、言ってくれた。

無論、私にとっても、衣恵は……




《―現在―》


ここで、急速に私の意識は鮮明なものへとなっていく。

まるでジェットコースターに乗っているかのように、今日一日の出来事が頭に浮かんでは消えていく。

最後、倒れていた衣恵が起き上がった所で、私は意識を取り戻す。

若干、自分が死んでいないことに混乱しつつ目を開けると、そこには見慣れた親友の顔があった。

もっとも、いつもからは想像が出来ない泣きそうな顔だったけれど。

でも、今の私にはどうでも良いことだった。

無二の親友が無事だったのなら、それだけで満足できてしまう。

思わず、口からは安堵のため息が漏れる。


「良かった…衣恵、助かったんだ…」


しかし、衣恵は魔逆のようで、いきなり私の頭をこれでもかというくらい強く殴りまくる。

全く容赦というものを知らない攻撃に、当然のごとく耐えられるわけも泣く、私は悶える。


「うっ、うぐぁ!! ちょ、ちょっと、衣恵痛いって!」

「うるさい! この、カモの馬鹿アホドジすかぽんたんのドSな鬼畜生!」


何がなんだか分からないが、あんまりだと思い、私は反撃しようと衣恵の両手を掴んで止める。

すると、いつの間にか、衣恵は泣いてしまっていた。


「な、なんで泣いてるの!?」

「あたりまえじゃん! 加百は馬鹿だ! ウチなんかのために!! 危険な真似して!」

「なっ! 人がどんな気持ちでいたと思って…!! きゃっ!」


激怒しそうになると、いきなり衣恵は私を強く抱きしめる。

それも、尋常な力じゃない。

容赦も何もない、全力でだ。

あまりの力に、私は息ができなくなる。


「い、衣恵! 苦しい! 苦しいから! 許して!」

「ダメ! 絶対に許さない! もう、こんな事しないって誓うまで絶対に!」

「わ、分かったから! うっ、くるし……」

「ぐす…本当…?」

「本当に本当!」


必死に首を縦に振ると、衣恵はやっと解放する。

彼女の顔は、目覚めたときよりもさらにくしゃくしゃになっていた。

普段はふざけているけれど、本当は衣恵はとても友達思いで、私自慢の親友なのだ。


ただ、あんまり心配しすぎると今みたいになるけど。

初めて彼女と会った時のように、私が苦笑していると、衣恵とは異なるすすり泣く声があることに気づいた。


それも、決して綺麗とは言えない、男の声だ。

声の発する方へ視線を向けると、衣恵を助ける際に協力(?)してくれた謎の長身男がハンカチ片手に滝のような涙を流して「いい話ですね。 いい話です。 これは、グランプリ級です…」とか言っていた。


そのあまりの異様さにジト~とした視線を送ると、男は慌てて涙を拭き、ハンカチをしまった。

さらに、何事もなかったかのように、咳払いをする。

この男…やっぱりかなり変人なんじゃないかと思う…。


「お、おっほん! えーと、お二人とも。 そろそろ宜しいでしょうか?」

「はぁ、いいですが……」


半ばあきれつつ、何がいいのか分からないまま返事を私がすると、衣恵は対照的に鋭いま眼差しを男へと向ける。


「うるさい、このゲジゲジ」

「ちょ、衣恵!?」

「あはは、いやはや、衣恵さん、そんなに怒らないで」

「お前に発言権はない。 いや、息する権利さえ存在しない」

「いやはや、本当に悪かったと」

「あ、息したよね? 今、権利ないのに、したよね?」

「……泣いても、いいですか?」


先程とは別の意味で滝の涙を流す男。

一方、衣恵は下等生物でも見るかのような目で男を見ていた。

私でも見たことない目だった。


いや、まあ、なんとなく衣恵が怒ってる理由は分かるけどさ。

しかし、このままだと話が一向に進みそうもないので、仕方なく助け舟を出すことにした。


「衣恵、落ち着いて。 で、なんですか、謎の男さん」

「……赤石屋といいます。 えっとですね、鵜飼加百さん。 貴方に話さなければならないことがあります」


話さなければならないこと…そのワードに、私も敏感に反応する。

同じく、私も赤石屋とかいう男に聞きたいことが山ほどあるのだ。

そして、きっとそれは相手と同じことについて。


「奇遇ですね、私もです。 今夜のこと、全部、説明してください」


相手をにらみつけながら言うと、慌てた様に衣恵が口を挟んできた。


「カモ! そんなこと、どうでもいいじゃん! それよりも早く帰ろ? 明日も学校だし。 あ、それに、ケーキもおごってもらわないといけないんだ! ほら、そんな細かいこと気にしないで……」

「衣恵、私は、当事者として何がどうなっているのか知る権利がある。 このままじゃ、私、いつもの生活になんて戻れない」


自分で言っていて、少し馬鹿らしくなりつつ、一応は主張する。

だって、いつもの生活もなにも、こんなことに巻き込まれて、今までどおりなんて出来るわけがないから。

知ろうが知らまいが、関係ないのだ。


でも、どうせなら納得して巻き込まれたい。

意図が伝わったのか、赤石屋は「衣恵さん、話しますよ?」とでもいうかのように、衣恵にアイコンタクトを送る。


衣恵は少し目を泳がせると、黙って目を背けた。

赤石屋は肯定と受け取ったのか、静かに話し始める。


「それでは、貴方にお話します。

 イーターと呼ばれる化け物、魔物と

 それを狩る者、エクソシスト

 そして、神と神々の導

 それらと、貴方の関係を……」


こうして、異常が日常に、日常が異常に


平凡が非凡に、非凡が平凡に


私の日常が、変化し始めた……。


更新長らくしてなかったので、2回分投稿します。

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