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EATER―異能者達の宴―  作者: ケロっち
とある女子高生の日常
5/16

変化する日常

「うっ、くぅ! はぁはぁ……」

 

すっかり暗くなった道に、荒い息遣いと引き摺る音が異様に木霊する。

身体はまるで自分のものでないかのように重くなっていた。

時刻は約19時半。

一般的に言えば、まだ薄暗い程度の時間帯だけど、曇りなのか、まるで夜かのよう。


それは、まるで私の今の気分……。

自分の手に持つパンパンに膨れた四つのスーパー袋を見ると、勝手にため息がもれる。

いつの間にか歩みも止まり、私は一人空を見上げ立ち尽くしていた。

疲労…その二文字がのしかかり、動くことも、動く気も起きない。

と、いうのも衣恵と別れてタイムセールに向かったは良いものの、まるでトライアスロンかのような目にあったのだ。


「大体、なんで今日に限って四店ともセールの時間が近いのよ!」


誰にもぶつける事のできない怒りが口をついて出る。

気まぐれな母が私に頼んだ買い物自体は良い。

タイムセールで激安になるという品であるジャガイモ・にんじん・缶詰・ソーセージをそれぞれ買ってくるだけだから。

問題は、その量と時間だった。


まず、最初の一店。

タイムセール開始と同時に群がる主婦という名の猛者が雪崩かのようにワゴンに殺到し、潰されるかと思った。

この時点で、じゃがいも2kg(500円)をゲット!

しかし、主婦の雪崩にさらされたことで身体はボロボロ、おまけに次の店のタイムセールまで残り数分といった感じ。

それでも何とか間に合うも、店内に入るなりすでに大乱闘が始まっていた。

さらに、次も、その次も同じような感じだった。


私の持つ総重量は最終的に10kg超におよび、歩く度に身体が悲鳴をあげるような状態に。

思わず、母に向かい怨みを口にしてしまいたくなる程で、、もう動くなんて到底無理。

でも、だからとこのまま路上に突っ立っている訳にもいかない。


「はぁ、どうしたもんかなぁ……」


なんだか、一人こうしていると、寂しくなってくる。

それに、春なのに風は少し肌寒く、まるで世界にたった一人だけになってしまったかのようで不安になってくる。


「あ、あはははっ…なに考えてるんだろ、私。 ちょっと、怖がりすぎだっての…」


だが、勿論一人だから答えてくれる人などいない。

ただ、一人、ここに、いるだけ……。

そう、いつもならこの時間帯、一台くらいは通るはずの車も、ジョギングをするおじさんも、犬も猫も! どれも存在しない。

こんなこと、ありえない。


勿論、絶対にない訳じゃない。

たまにはあるかもしれない。

でも、今はなぜかとても不自然に感じてしまう自分がいた。

何で? どうして? 皆どこにいったの!?

そんな疑問が一瞬にして頭を埋め尽くし、あるはずもない答えを求め、混乱の渦へと思考を落としていく。

と、その時、親友の言葉が、浮かんだ。


『その顔は目も口も鼻も――糸で縫いつけられて』


『―っていう、噂が最近あるんだって』


『最近は夜道危ないからねぇ』


背筋がぞっとした。 全身の毛が逆立つ。

途端に、疑問が恐怖へと変化する。

いつもとの不一致が意味を持ち自分の思考を麻痺させる。


「ま、まさか…ね…?」


口では否定をするものの、内心は真逆。

でも、どうしても認めたくなくて、認めたら何も出来なくなってしまいそうで、思わず後ろを見たい感覚に襲われる。

きっと、気のせいなら、私は安心する。

私の見える範囲で、異常は人通り以外ないのだ。見えないのは後ろだけ。

だとすれば、後ろさえ何もないことが確認できれば、いい。

物音がしないのだから、何もないはず。

だから、ほら、後ろを振り向いて……。


「……な、なんだ、なにもないじゃん」


結果、後ろには何もなかった。

なんてことはないことなのに、なんだか一世一代の賭けをしたような気がする。

まあ、私が賭けに負けるなんて、よほどのことがない限りありえないけど。

安心すると、なんだか逆に可笑しくなってしまう。

こんなことにビクビクしていたなんて。


「ふっ、ふふ、あはははっ!」「ひゃはっ!」

「っ!?」


一瞬、心臓が跳ね上がる。

気のせいか、他人の笑い声が聞こえた気がする。

でも、そんなはずはない。

だって、私は、後ろを確認したはずだから……。

そう、あと、確認していないのは…上だけ…。

恐る恐る私は、顔を上へと向ける。

そして、そこにあったのは……



目も鼻も口も縫い付けられ


紫色に変色した縫い目から赤い雫が今にも垂れそうな


私と同じ顔…いや、私の顔がそこにはあった。


もう一人の私は、壊れた玩具のようにケタケタと笑う。

口から血を溢れさせながら、まるで嬉しいかの様に。


「あひゃひゃひゃはっ! みぃつけた…ひゃは…!」

「あっ、ああっ、あああぁああぁあぁあ!!」


次の瞬間、もう一人の私の口が勢い良く開いた……。


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