女子高生の日常2
―放課後―
ワイワイと賑やかな教室の中、私はホクホク顔で鞄の中に教科書をつめていく。
一日の授業が終わり、フリータイムになったということもあるが、なにより臨時収入が嬉しくて、感情を隠すことができない。ついつい、鼻歌を歌ってしまったりなんかもしてしまう。
何しろ、一万円。学生生活において、この金額はとても大きい。
私の欲しいもので携帯電話やゲーム機といった高額なものを選ばなければ、余裕でお釣りが出る。
感情を隠せという方が無理があると思う。
でも、衣恵は横で苦笑いをしていた。
「カモ、あんた、いつも稼いだときは楽しそうだね」
「ん?当ったり前!博打なんて楽しんだモン勝ちでしょ?」
「そーいえてしまうアンタが羨ましい。 ウチなんて、賭け事苦手だから、あんまり勝てないし。 流石、『嵐の女帝』と呼ばれるだけあるよね、カモって」
そう、私はここ富真学園において、一部の人から『嵐の女帝』と呼ばれている。
というのも、賭場で今まで不敗の実績をもっているからである。
ちなみに、この賭場を通称『コロシアム』と呼び、校内の3箇所に不定期で開催されている。
勿論、賭場とは博打を行うためにある場所な訳で、非公式だったりする。
しかし、一部先生も参加していたりするため、特に検挙されることはない。
そのせいか、チェスだろうが、将棋だろうが、麻雀だろうが、チンチロだろうが腕に自信さえあれば、特にジャンルは問わずできる。
私みたいな博打好きでなくても、気軽に参加できるのだ。
と、こんなことを考えていると、ふと思い出したくないことを思い出してしまった。
「あ…やばっ…」
「カモ? どうしたの?」
「えっ…? あ、うん…よくよく考えてみると、今日お母さんに帰りに買い物頼まれてたんだよねぇ…」
一瞬、衣恵の表情が固まる。
「へ、へぇー。ちなみにカモさんや。 買い物ってどのくらいかかりそう?」
「ん? 買い物自体はあんまり量はないんだけど、タイムセールだから…」
「タイムセールかぁ。そりゃ、厄介だねぇ。 んじゃあ、もしかして、今回スウィーツは?」
「あはは。ごめん、ちょっと、無理かも」
苦笑いしつつ、頭をさげて謝る。
いくら自分がおごってあげる立場とはいえ、約束をやぶったのはこっちだし、きっと彼女のことだから、すでにケーキのためにオナカの準備をしているはず。
案の定、衣恵は肩をがっくりと下げ、目に見えるかのような落ち込みオーラを放ち、「終わりじゃ…世界の終焉がきたのじゃ…」とか、何処かのRPGの長老が言いそうな言葉をはいていた。
しかし、私の親友はそんなことでへこたれはしない。彼女が立ち直れないことは、あまりないのだ。三秒後には、いつものテンションで会話に復帰してきた。
「ま、まあ、それなら仕方ないよねぇ! ウチも、なんとなく、予想はできていたさぁ!」
「その割には、三秒くらいまるで世界の破滅みたいな表情してたけど?」
「…カモさんや」
「…何?」
「世の中には、黒を白、白を黒と言わなければならないことがあるんDA!」
「いや、これ、そんな大事だっけ?」
「大人になればわかる!」
「あんた、私と同い年じゃない…しかも、私の方が誕生日早いし…」
「カモ、あんた意外とS?」
私の友人は滝のような涙を流した。
もっとも、こんなやり取りが私達二人なりの会話だったりする。
時たま疲れを感じることはあるけれど、衣恵とこういう話をしていると、落ち込んでいる時励みになるし、真面目な話の時は彼女は真剣に相談にのってくれるのだ。
自分でいうとちょっと照れくさいけど、一緒にいると楽しいのだ。
「ふぅ、それはともかく、今度おごってあげるから我慢して」
「あ、Sは否定しないんだ」
「……おごらないよ?」
「マジすんません、それだけは簡便してください。ウチのMP的な何かが減るからぁあ!」
「冗談よ。 ま、ともかく、ごめんね」
申し訳なく思っていると、衣恵はきょとんとした顔をする。
そして、おもむろに私の顔をつねってきた。
むにぃと頬が伸びて、非常に痛い。
「いっ!ちょ、ちょっほ!なにふんほほ!?(ちょ、ちょっとなにすんのよ!?)」
「あ、ごめんごめん。 いや、カモの偽者かと思って」
笑いつつ、衣恵は頬から手を離してくれた。
話してくれた今でも、ちょっと頬がジンジンとする。
「偽者ってなによ、偽者って!」
「いや、だって、普段こんなにしょんぼりしないからさぁ。 まあ、これはこれで、カモデレってレアなシチュエーションだから私的には天からのご褒美なんだけどね」
「カモデレってなによ、カモデレって」
「それは、世界の三大元素の一つといわれるもので、カモから生成されます。 普段賭け事とツンと天然で構成されているカモですが、一定の周期で…具体的に言うと衣恵調べでは、1賭け・8ツン・1天然の割合比が成立すると10回に一回程度の確率でデレます。このデレがカモデレと呼ばれるもので、一部の男子と私にとってはご褒美です」
なんだか分からないけど、とても疲れそうな気がしたので、スルーすることにした。
それに、そろそろタイムセールのある店にいかないと間に合わないし……。
「あ、ごめん、いそがないと」
「ん?あれま、意外と時間経っちゃってたんだ」
衣恵が携帯を出して時間を確認する。
時刻は十七時半。間に合いはするけど、ゆっくりは出来なさそうだ。
「えっと、それじゃあ、そろそろ行くね?」
「ああ、うん。 ねぇ、カモ」
「ん? 何?」
「お姉さんからの忠告! 買うもの買ったらさっさと帰ること! 最近は夜道危ないからねぇ。 カモ、可愛いから襲われちゃうかもよぉ?」
「あはは、忠告ありがと。 じゃあ、また明日!」
私が手をふりながら駆け出すと、カモもいつものように、まるでひまわりみたいな笑顔で手を振り返してくれた。
きっと、明日も明後日も今日みたいな日々が続くんだろうなぁ。
そう、この時の私は思っていた。
今まで自分が生きてきた日常が、永遠に続くものだと信じて……。