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EATER―異能者達の宴―  作者: ケロっち
とある女子高生の日常
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女子高生の日常

「―っていう、噂が最近あるんだって」


春風が優しく頬を撫でるお昼休み、私、鵜飼ていし 加百かもの前で親友はお弁当をつつきながら言う。

私は、内心『なんで食事時に食欲減少のお手伝いをするような話をするのだろうか』と思いつつ、顔をしかめる。


「衣恵。 いきなり、なんでそんな話なの?」

「いや、急に今日のカモの弁当見てたら、思い出してさ」


少し隙間のある自分の弁当を見てみる。

話を聞くまで食べていたとはいえ、まだ食べ初めてからさほど経っていないから、大半のおかずが残っていた。

ちなみに、お弁当の中身はロールキャベツ、しらたきと昆布、レタスのサラダにアン○ンマンポテトetc…

昨日のあまり物が多々あるものの、お弁当の中身と話の接点を見つけられないでいた。

そのせいで、つい素直に疑問を口にしてしまう。


「…どこが?」


衣恵は苦笑いしつつ、皆大好きアンパ○マンポテトをひょいっと私のお弁当からつまみ上げる。心なしかアンパ○マンの顔は残念そうに口をへにょへにょにしたような気がする。


「ちょ、ちょっと! アン○ンマン返してよ!」

「カモ~。これ、どーみえる?」


衣恵に言われて、渋々アンパ○マンポテトを見る。

でも、やっぱりアンパ○マンはアンパ○マンだった。


「な、なによ。 どーみても、かわいいヒーローじゃない」

「はぁ~。カモ、アンタ鈍すぎ。 ウチのさっきの話、思い出しながらもう一度見てみて」

「むぅ~」


ちょっとムキになりつつ、再度見てみる。

小さくて丸いふっくらと美味しそうな顔。所々にふやけて出来た凹凸が、愛嬌を誘う。

おまけに、出来たばかりならにっこり顔だけだけれど、こうしてふやけると凹凸がぎざぎざにも見えて、色んな表情に見えてくる。

たとえば、気弱な顔、ちょっとムキになった顔、ちょっとした笑顔……。

と、ここであることに気づいた。

そういえば、口のところのふやけた感じ、口を縫いつけたようにも見えないことはない。

もっとも、とても食欲が無くなる想像だし、無理をすれば似てないこと無い程度だけど。


「衣恵、もしかして、くちのところの?」

「そう、正解! でも、ヒントがなきゃだめだったので、商品は没収で~す」


言うが早いか、口に入れるのが早いか、衣恵は遠慮なく弱気なアンパ○マンをはむはむと食べてしまう。

咀嚼し終わると、悪びれもせず、にっこり笑顔で「うん、うんまい!」の一言。

…それ、元々は私のだったんだけれど。

でも、もうないものは仕方ない。それに、衣恵といればこんなことはザラだ。

苦笑しつつ、すっぱりと諦めてお弁当を食べるのを再開する。

まあ、さっきの話のせいで、残りのアンパ○マンポテト、食べづらくなったけど。

やがて、二人とも食べ終わったころには、最初の話の事など二人とも忘れてしまっていた。

衣恵がお弁当を片付けながら、私にしか聞こえないようにぼそりと口にする。


「まだ、お昼休み30分あるけど、今日は、狩るの?」


私は、お弁当に蓋をしながら「当然!」という。

予想した答えだったようで、衣恵はくすりと笑った。


「そっか、じゃあ今日の帰り、どっかでケーキでも食べよっか?今日、ウチの部休みだし」

「うん! 今日はおごるよぉ~?」

「そういうのは終わってから言えっての~」


とはいいつつ、衣恵の顔も笑っていた。

きっと彼女も分かっているからだと思う。

ことさら、私は狩ることにだけは長けているということを――



―15分後―


普段授業では使われていない空き教室に、男女含め十数人の姿があった。

それぞれ手にジュースの缶を持ったり、菓子パンを持ったりと様々だが、全員教室の中心でチェス盤を挟み向かい合う二人の男女を見ていた。

男子の方は金髪にピアス、おまけに着崩した学生服という、お世辞にも校風を守っているとは言いがたい服装の三年生。

対し、対峙している女子は加百である。

不適な笑みを浮かべ、加百はそっと男子のキングの前にクイーンを置く。


「チェックメイトよ」


男子は苦々しげな表情を浮かべ、がっくりとうなだれる。


「まいり…ました…」


途端に、加百の笑みは、不敵なものからかわいらしい女子のものへと変わる。


「やったぁ!勝った! 先輩、今日はありがとうございました。」

「あ、いや、こっちこそ…まさか、チェス部副部長の俺が負けるとはな。 お前、ウチの部活にこないか? 今じゃ不良のたまり場になってるが、君ほどの戦力があれば、きっと全国を――」


言い切る前に、加百はスッと男子の前に手を出す。

それは、好意のものではなく、否定のもの。

静かに、しかしはっきりと加百は言った。


「すいません、全く興味ないです」

「そ、そうか…残念だ…」


ただでさえ落ち込んでいた男子が、さらに落ち込む。

そして、ため息をつき、男子が席を立とうとする。

が、加百が彼の手をつかむ。

思わず男子がうろたえると、まるで氷のように冷たい目で顔だけは笑いながら加百は言った。


「先輩、ダメじゃないですかぁ。しっかり置いて行ってください。賭け金、一万円」

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