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EATER―異能者達の宴―  作者: ケロっち
怒涛の訪問者
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受難③ 放課後 教室掃除にて


掃除…それは学校生活における義務…。

掃除…それは逃れらる事の出来ない必要悪…。


一度は誰でも思ったことがあるはず「こんなもの、めんどくさい」と。

でも、だからとサボれば、最終的には自分にマイナスになると、誰しもが経験から理解しているはず。

例えば、よりにもよって珍しく適当に掃除をやった時に限って先生の目に留まってしまったり。


あるいは、適当にやったがために、次やる時状況が悪化していたり。

無論、私達のクラスも論外ではない。

だが、私の目の前にたった一人、そんな運命と戦う少女がいた。


彼女の名前は、ディーヴァ。

私の師匠であり転校生、そしてクラスメイト。

師匠は、教室のドアを顔を真っ赤にしながら押さえつける。


余程の力なのか、ドアがギシギシッと絶え間なく音をたてる。

それは掃除の義務という運命との格闘。

しかし、運命は簡単には逃がしてはくれない。


段々とドアがスライドしていき、向こう側の光景があらわとなっていく。

勿論、本来、義務は目に見えるものではなく逃げようと思えば、一時的には逃れられる。

が、こと掃除に対しては、そうは行かない。

何故なら、掃除には掃除の使徒『衣恵』がいるのだから。


「ふぬぬぬぬ!」

「うんぐぐぐぐ!!」


二人は、ドア一枚を隔て、引かず退かずの完全に均衡したバトルを繰り広げていた。

それは、時として攻防を招くほどのもので、いつしか観客が出来上がる程。

具体的に攻防の様子を一部紹介すると……



ドア一枚越しに向かい合う二人、互いの力は完全に相殺し合い、二人の中央に据えられたドアは潰れてしまいそうな程の悲鳴を上げる。

だが、そんな事などお構いなしに二人は全力で互いの力をぶつけ合いながら、会話をする。


「し、師匠っ。 いい加減、観念してください。 いいですか、掃除は学校生活における義務なんです! やらなければいけない事なんです…よ!」


そう言うと、衣恵は一気にドアを引く。

一瞬だけ開いたドアの隙間にすかさず衣恵は半身を滑り込ませると、師匠に向かって目では追えないほど高速の掌底を放つ。


掌底は綺麗に師匠の腕の隙間を抜け、顎を打ち据えようとする。

しかし、顎へ触れる紙一重の所で師匠はくるりと回転して避け、遠心力を利用しドアを叩きつけるかのように押す。


たちまちドアは弾かれるかのようにスライドし、衣恵の体を壁との間に打ちつけようとするが、床がへこみそうな程の蹴りで衣恵は何とか元の位置へと戻る。

この間、約0.1秒。

何処の最強格闘家の戦いだと言いたくなるけれど、実際にそうなのだから仕方ない。



ともかく、こんなやり取りが掃除が始まってからずっと続いている。

気のせいか、時間が経つにつれて観客が増えてきているような気がする。


おまけに、何処からか「賭けるなら今だよぉ! 倍率は転校生が1.8倍! チャンピオン衣恵が1.1倍! 引き分けが大穴の倍率9倍だぁ! 掛け金は一口100円から受付中だ!さあさあ、賭けたかけたぁ!」とか呼子の声が聞こえる。


どうやら、この二人の闘い、賭け事にまで、なってしまったらしい。

これは、なんと言うことか……。

私は、呆れるやら、疲れるやらで、もう傍観者の立場にたっていた。

口を開いても、出るのはため息のみ。


本当に、私の平穏な学校生活はどこへいってしまったのだろうか。

一瞬、数日前の自分の生活がとてつもなく懐かしく感じてしまう。

勿論、懐かしくとももどれはしない。


結局、この状況をどうにかするのは私しかいないのだ。

私は、ゆっくりと師匠に近づいていく。

しかし、師匠は気づいた様子もなく、衣恵との口論が白熱していた。


「ふんっ! 義務だなんだと意味を一方的に与えるから、国民の自己判断能力が衰える!

国民の衰えは、国家の衰えだ! 最終的には国家の損益になると何故気づかない、衣恵よ!」

「それは…詭弁ですよ、師匠…!」


もはや、二人が何の話をしているのか分らなかった。

話が明らかに掃除をするかしないかから、国政をどうするかに切り替わってしまっている。

確かに大切な話かもしれない。 が、そんなことの前に、もっと大切なことがある。


私のクラスは、掃除は五人一組でやることになっている。

でも、今日は二人は偶然にも生徒会の関係で掃除の時間はいない。

残りは三人。


さて、その内二人がこんな争いをしていたら、掃除は誰がやるでしょう?

うん、簡単だね。 私です、私。

私は、一向にやめない師匠に近づき、静かに肩を叩く。


「……師匠」

「な、何じゃ! 今ワシはいそが…くっ! このままでは…!」

「…師匠」

「えーい!なんじゃ、五月蝿い!」


半ばキレつつ師匠は振り向く。

が、次の瞬間、彼女の顔は真っ青になる。

でも、私はかまわない。

師匠の両肩をしっかりと掴むと、個人的には至極落ち着いて、冷静に言った。


「いいから、掃除やれ」

「は、はいっ!」


ちなみに、この件以降から、私は二つ名が『嵐の女帝』から『氷河の女帝』に代わったらしい。

何故なのだろうか?


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