怒涛の訪問者
「どうして、こんなことになったんだろう」
私は、自分の席で頭を抱え、今日だけで幾度となく繰り返した質問を口にする。
ここはホームルーム後の教室。
一昨日までの私だったなら、いつものように衣恵と前日見たドラマやあった出来事で、会話に花を咲かせている時間だ。
しかし、今となっては正反対で、私は花を咲かせるどころかしおれていた。
原因はいくつかあるけれど、多くは…というか、殆どが自分の前の席が原因だった。
私はちらっと前の席を見る。
昨日までは私の席があったはずのそこには、高校生とは思えないぐらい小さく低い背中があった。
褒め言葉でいうなら、可愛らしい…悪い言葉でいうなら、小学生とかぐらいの大きさ。
椅子の大きさに比べ、体格が明らかにあってはいなかった。
おまけに、こちらの気など知ったことではないのか、前の席の奴は音程を総無視した鼻歌を歌っていた。
その姿はクラスメイトを和ませ、いつもはガヤガヤとしたにぎやかさなのに、今日はどこかほんわりとした雰囲気になっていた。
私も何も知らなければ、ほんわか一緒にできたかもしれない。
でも、至極残念なことに、私カモは目の前に座る奴が何者かをしっている。
だって、私の目の前に座っているのは、私と衣恵の師匠なのだから。
ドッとした疲れが身体も気持ちも重くなりつつ、私は制服を着た師匠の肩を叩く。
すると師匠はまるで尻尾を振る子犬のように、嬉しそうにじゃれてきた。
「おお! なんじゃカモよ! わしに用があるのか!」
「えーと、用というか、なんというか…師匠、何で、学校に来てるんですか?」
「何でとは薄情じゃのぅ。 わしとしては少しでもお前の側にいたいから……」
「いや、師匠。 そういう言い方をすると、いらぬ誤解を生んじゃうので、もう少し違った言い方とか、ないですか?」
「二人は一緒でないと死んでしまうとか?」
「いやいや、どんだけ二人して依存してんですか。 言いたい事は理解できるけど……」
軽くツッコミを入れると、師匠はまるでハムスターのように頬を膨らませる。
不覚にも外見相応な彼女の可愛らしい行動に、一瞬和んでしまった。
しかし、当の本人は知ったことではないのか、腕を組んで拗ねてしまう。
「なんじゃなんじゃッ! 衣恵もカモも! 大体、これもお前のためなんじゃぞ!」
「それはそうなんだけど……」
私は、苦し紛れに苦笑いしてしまう。
というのも、師匠が学校に来ている理由――それは、私を守るためなのだ。
昨日確かに私は自分の身を守れる程度の能力をつけるため、師匠の弟子になった。
だが、当然弟子になったからといっていきなり力が付くわけはない。
力をつけるにしろ、つけないにしろ、当分の問題としては一般人程度の能力しかない私をどうにかしてイーターから守る必要がある。
今までは衣恵が多くの時間一緒に行動することによって対応していたけれど、師匠がいうには一回能力が目覚めてしまうと、必然的に以前よりもイーターの目に留まりやすくなってしまうらしく、今までの方法のみでは対応しきれない。
そこで、あの後師匠を含め、四人で話し合った結果、出たのが、衣恵以外にも能力のある者が私を守るというものだった。
一人で足りないのなら、二人でという事らしい。
でも、昨日の時点ではそこまでしか話はしておらず、最後は師匠が明日には何とかするという事で決着がついてしまった。
しかし、まさか、こんな手段でくるとは…全く予想だにしていない事態だった。
おまけに、態々転校してきた海外からの帰国子女という設定までつける念の入れよう。
むしろ、私を護衛することより、スクールライフを満喫したいがために転校してきたのではないかとさえ思えてくる。
ちなみに、私と同じく衣恵もこれには驚いたようで、話を聞くなり「ちょっと気持ちの整理がつかないや、えへへっ」と死んだ魚のような目で言うと、トイレにこもってしまった。
あの時、私も現実逃避をしていればよかったと、今更ながら思ってしまう。
とはいえ、現状は変わらない。 師匠は、椅子の上に立つと、自らの胸を力強く叩く。
「ともかく! わしに任せておけ! 大体、学業なんぞわしにとっては、造作も無い事じゃ!」
「その、自信が逆に心配なんだけどね…ハハハッ…」
今後起こるであろう事態を考えると、私は乾いた笑いしかすることが出来なかった。
もっとも、この不安は、悪い方向で現実のものとなる。
こうして、私と衣恵にとって、長く疲れる一日がはじまった……。




