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EATER―異能者達の宴―  作者: ケロっち
始まる日常は非日常
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新しい日々の始まり3


人間、誰しも初体験があると思う。

初めて話した言葉、初めてできた友達等々、必ず出来事には初めが存在する。

勿論、私加百も色んな初めてを経験してきた。


喜怒哀楽、色々な思いをその度にしてきて、おかげで人間として成長できたと思う。

でも、今回の経験に関しては、正直いらなかった。

そう、年下の子に襲い掛かられるという、経験だけは。

私は、目の前で死んだカエルのように引っ繰り返りながら目を回す少女を見て、ため息をつく。


「な、なんなんだか……」


気づけば、嫌な汗を全身にかいていた。

それに、右手がジンジンと痛んだ。

いくら子供とはいえ、人間に襲いかかられることに私は慣れていない。


彼女が襲ってきたとき、つい、本当につい自己防衛で反射的に彼女の顔を平手打ちしてしまったのだ。

やった後の今となれば、気が動転していたとはいえ、年下に平手なんて決して褒められた行動ではないと思いつつ、反面していなければどうなっていたのかという不安もあり、実に複雑な心境だった。


とはいえ、殴ってしまったのは事実。

見たところ昨日出会った化け物の類とも違うようだし、手当ての必要がある。

彼女の奇行を思い出し、背筋に寒いものが走るが、ここはぐっと我慢する。


もっとも、何もなさそうな部屋だから、手当といっても限られる。

仕方なく、まずは気がつくかどうか、顔を軽く叩いてみることにした。


「おーい、大丈夫ですかー?」


膝に彼女の頭を乗せ、軽くペチペチと叩く。

しかし、反応はない。

かわりに、私が叩き飛ばした方の頬がほんのり赤くなっていて、少し罪悪感が強まる。


もう少し、手加減しても良かったのかもしれない。

でも、これで起きないとなると、多少困ったことになる。

これでも私は、『神々の導』とかいう不思議パワーを持ってはいるけれど、それ以外はいたって平均的な一般人だ。意識を失った人の起こし方なんて全然しらないのだ。


昨日のような超回復ができれば話は別なのかもしれないけれど、休み時間に衣恵に聞いたら、「あれは赤石屋の能力があったからできたこと」との回答をもらってしまった。


実際、自分でも今やろうとしてできる自信はなかった。

状況的には、一人で解決するのは不可能に近いと思う。

無意識の内に私は天を仰ぎ、シミ一つない天井を眺めながら呟く。


「うーん、どうしたものかなぁ」

「とりあえず、キスしてみると起きるかもしれないのぅ。 白雪姫的なノリで」

「いや、それはないから。 大体、白雪姫はそういう魔法をかけられたのであって、決して気絶していたからキスされたわけじゃ…って、あれ?」


不意に、膝の上の少女の目が開く。

さらに、コレでもかというくらい厭らしい笑みを浮かべると、私の太ももをスリスリと…それも、コレでもかというくらい顔を押し付けてしてきた。


一瞬にして氷つく私の身体。

しかし、少女は「知ったことではない」とでも言うかのように、今度はクンカクンカと匂いを嗅いでくる。


途端に、足から頭へと悪寒が駆け巡る。

あまりの旋律に私が言葉も出ず、口を魚のようにパクパクさせていると、少女はシスターがしてもいいのかと思えてしまうほど悪どい笑みを浮かべる。


「ほほぅ、今度は抵抗してこないのか。 ついにワシのこのラブリーキュートさに抵抗する気も起きなくなったのかのぅ? まあいい、今のうちに一番美味しいところを……」


彼女は一人納得すると、じゅるりと舌なめずりをし、メイド服のスカートへと手をかける。

そして、ゆっくりとスカートを上げていく。

やがて、スカートの先にあるものが見えようとした時、私は正気に戻った。


慌てて彼女の手からスカートの端を叩き落とし、絶対見られてなるものかと両手で隠す。

批難してくるかと思いきや、少女はこれまた厭らしい笑みで悪代官御用達な台詞を吐いた。


「ぐふふっ、抵抗しても無駄じゃ、無駄じゃ!」

「いつの時代!?」


彼女の荒いボケに思わず突っ込んでしまうも、私は少しでも距離を置こうと後ずさる。

でも、相手も楽しんでいるのかニタニタと笑いながら同じペースで近づいてきた。

耐え難いあまりの恐怖に、私はコレでもかという位大きな声で叫んだ。


「あ、あんた誰なの!? 私をどうするつもり!!」


すると、少女は不思議なものでも見るかのように首をかしげると、さも当然のことのようにいった。


「誰も何も…師匠だが? …なんのジョークだ?」

「えぇっ!?」


数秒、彼女の言った意味が飲み込めないでいると、「ああ、そうか」と納得し、向こうが説明を始める。


「さては衣恵の奴、説明しとらんな。 はぁ、全くあれ程言っておいたのに」

「な、何がですか?」

「仕方ない、自己紹介からはじめよう。 ワシはディーヴァ=アルク=バレイン。 衣恵と享也の師匠にして上司。 そして、今日からお前の師匠じゃ! 気軽にディーヴァ様と呼ぶが良い」

「えっ、ええぇええぇえええぇ!? 師匠!?」


私が半ば混乱しながら驚くと、少女ことディーヴァ様(本人が希望のため)が胸を張る。

その姿は威厳とかというよりも、どちらかというと可愛らしく、まるで実妹を見ているかのようなのほほ~んとした気分にさせてくれる。

信じがたい現実に唖然としつつ、私は恐る恐る挙手をする。


「あのぉ~」

「ん? 何じゃ?」

「ちなみに、私の師匠っていうのは?」

「ああ、今ワシが決めたのだ。 お主、ドストライクだからの」

「いや、私一言もエクソシスト…でしたっけ? それになるなんて…」

「えっ、ならないの?」


途端に、ディーヴァ様(面倒なので、以下師匠)は、目に溢れんばかりの涙を溜める。

直感が告げた、これはヤバイぞと。

慌てて、なんとかフォローをする。


「い、いや、ならないというか、気がないというか…いきなりだったから…」

「いきなりじゃ…ダメ…?」


彼女はうるうると瞳を潤ませ、上目遣いで私を見つめてくる。

一体、私が何をしたって言うんだろうか?

大体、さっきと態度があまりに違いすぎでは!?

若干、理不尽さを感じつつ、断るわけにもいかずなんとなく首を横にふる。


「いやいや、そんなことはないですけど」

「じゃあ、考えてくれる?」

「ま、まあ、考えるくらいなら」

「ついでに、私のこと嫌わないでくれる?」

「も、勿論!」

「じゃあ、弟子になってくれる?」

「合点承知!って、あれ?」


つい乗せられ、返事をしてしまうと、先程の姿は何処へやら、師匠はしてやったり顔で、親指を立てる。


「弟子、ゲットだぜ!!」

「…なんで、こんなことに…」


出来てしまった年下の師匠の横で、私は一人へたりと座り込む。

そこに騒ぎを聞きつけ、衣恵達が現れたのは、それから数分後のことでした――

ちなみに…師匠にきいたら、享也→明石屋のことらしい。

彼の思いの外カッコイイ名前に私が驚いたのは、秘密だ。


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