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EATER―異能者達の宴―  作者: ケロっち
始まる日常は非日常
11/16

新しい日々の始まり2


「うっ…」


私が目を覚ますと、真っ先に目に飛び込んできたのは、白い天井と純白のシャンデリアだった。

一瞬、最後の記憶との差異で頭が混乱する。

さっきまで…少なくても、記憶が飛ぶまでの間は、私は学校の教室にいたはず。

年季の入ったお世辞にも綺麗とは言いがたい教室だから、少なくとも天井はくすんでいたし、シャンデリアなんかあろうはずもなかった。


にも関わらず、ここにはある。

となると、まさか…。

私は、ゆっくりと視線を下にスクロールさせる。


すると、そこには見事な白と黒のヒラヒラが目に入った。

まさしくゴスロリチック。否定のしようがない程にコスプレ。

一気に偏頭痛が頭を襲う。


間違いない。あの後、私は無意識のまま着替えさせられ、衣恵達の上司……もとい、師匠の元まで連れてこられたらしい。

なんと言ったら良いのか……怒りやら、呆れやら、色々と混ざり合って物凄く疲れてしまった。

しかし、まあ、なってしまったものは仕方ない。


部屋を見回してみると、幸い誰もいないものの、着替えの一着も置いていそうにはなかった。

せいぜいあるものは、私が寝かされていたベッドと椅子、あとは部屋の入り口と窓程度。

衣装棚とか、クローゼットくらい、あってもいいのに……。

ともかく、現状から考えると、ここで着替えるわけにはいかなくなった。


本当は恥ずかしさのあまり脱いでしまいたい位だけれど、着れる物がないのだから、いくら人がいなかろうと今脱ぐわけにはいかない。

当分は、少なくとも衣恵達が来るまでは、この格好のままになりそうだった。

勿論、此方から二人を探しに行くなんて選択肢は存在しない。


外にどれだけ人がいるかも分らないのに。

私は、ため息をつき、ベッドにダイブする。

ベッドは思いの外いい物なのか、衝撃を吸収してくれた。


「もう…衣恵の…馬鹿」


暫くふてくされてベッドのフワフワとした感触を味わっていると、最初は微かに、しかし時間が経つにつれて段々と大きく荒い息遣いのようなものが聞こえてきた。

それも、尋常じゃないもので、どうやらベッドの下から聞こえてくるらしい。

私は言い知れぬ不気味さを感じ、顔を埋めるのを止める。

すると、息遣いも小さなものへとなっていく。


「な、なに?」


もう、言い知れぬ不気味さなんかじゃなかった。

このベッドの下には、恐らく…いや、確実に…人が潜んでいる。

私は恐る恐るベッドの下を覗き込む。


すると、そこには、目を爛々と輝かせながら、だらしなく笑う奴がいた。

向こうは、全く此方に気づいていない。

いや、それどころか、むしろ興奮いているようで、息がまた荒くなってきた。


かなり気持ち悪かった。 むしろ、恐怖と言っても遜色ないくらいに。

人間には、たった一人でも立ち向かわなければならないものがあると思う。

一人で、受け止めなければならないものも。


でも、コレは一人で抱えるにはあまりに重過ぎる……。

国家権力の申し子達の力が、必要だった。

私は、急いで自分の携帯電話を探す。

しかし、見渡す限り何処にもなかった。


考えてみれば、着替えさせられたのだから当然なのかもしれない。

メイド服には、ポケットのようなものはついていないし、第一本人でもなければ携帯まで着替えるとき気がまわらないだろう。


となると、あと残された選択肢はココから離れるか、ココでベッド下に警戒しながら二人が来るのを待つかだ。

無論、待つなんて選択肢は、ベッド下を見てしまった時点で選べはしない。


ここから離れるしかない。

だが、待て私!

ここから出れば、今の恥ずかしい格好を大衆に晒す可能性が……。


「どうすればいいの……!」


私が社会的な死亡か、物理的な死亡かで心が揺らいでいると、不意にベッドの下から物音がする。


「ま、まさか…ね…?」


口では言いつつも、私の身体は正直でベッドから早々に離れ、壁際まで逃げていた。

そして、ソレは姿を現す。

ベッドの下から、ぬるりと這い出る。

それは、とても禍々しい姿を――


「って、あれ? こ、子供?」


私は、現れたものに拍子抜けしてしまう。

銀色の大河のように輝く髪。

透き通った小川のような青い目。

シルクのような柔らかそうで真っ白な肌。


まるで、現実ではないかのような微秒を持った少女が、ベッドの下から現れたのだから。

少女は、教会のシスターが着ていそうな紺色の服を身にまとっていた。

しかし、本来なら清楚なイメージを受けるはずの姿なのに、彼女の口からは涎が垂れていて、目にはお星様がキラキラと浮かんでいた。


これは…なんかヤバい。危険だと第六感が告げる。

しかし、出口側ではない壁際に移動してしまった私には、逃げ道はなかった。

私が逃げられないことを察すると、少女は先程以上に下卑た笑いを浮かべる。

彼女の笑い顔を見て、何故か私は時代劇のお代官を思い出してしまった。

少女は、両手をワキワキと動かすと、エヘエヘと笑う。


「いいのぅ、いいのぅ。 その顔、その服装、そのクビレ、そして何よりその乳! 

う~ん、実にけしからん! けしからんぞ! 食べてしまいたくなるほどけしからん!

だが…ちょっとくらいなら、ちょっとくらいなら、食べてしまっても……」

「えっ…食べる…?」


一瞬、昨日の化け物を思い出す。

もしかして、彼女もそんな類なのだろうか?

だとしたら、今の私は無力といってもいい状態。

抵抗なんて出来そうにもない。

一人、そんな恐怖を味わっていると、少女はじゅるりと涎をぬぐう。


「もう、我慢できん! 主とマリアに感謝し、いただきまぁ~す!!」

「ちょッ! 嫌、きゃぁああああああああ!」



 

―その頃 衣恵達―


衣恵と赤石屋は二人の師匠の部屋でお茶を飲んでいた。

しかし、部屋の主は未だ不在。


どうも、他の人の話を聞く限り、二人が来た頃同時に何処かへ出かけたのだとか。

別段、呼び出された方なのだから、急ぐわけでもないので、二人共待つことにした。

幾つ目かのクッキーを頬張りながら、ポツリと衣恵は口にする。


「師匠、おっそいねぇ」


赤石屋は、お茶をチョビチョビと飲みながら、のほほ~んと笑い答える。


「まあ、あの方は風の様な方ですから」

「でもさぁ、まさかカモのところになんて行ってないよねぇ」


暫しの間が空き、二人して、笑う。


「まっさかねぇ! だって、そんなことになったら」

「そうですよぉ、そんなことになったら」

『間違いなく、師匠が襲い掛かる』

「ないない、ないよねぇ」

「ええ、もしそんなことになったら、とんでもない騒ぎになりますし」

「あ、赤石屋、クッキーどう?」

「あ、いえ、私は甘いものは…」

「なにをぉ、ウチのクッキーが食えないというのかぁ!」

「あはは、冗談ですよ。いただきます」


暫く笑うと、お互い、お茶を飲む。

まさか、その頃、カモに何が起きているのかも知らずに……。


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