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プロローグ
以前作成した小説の転載です。
続きは反響次第ですねー
黒の夜空に、欠けた月が煌々と浮かんだ住宅街。道路端に植えられた桜が生温い風に揺れ、はらはらと花びらを悲しげに散らす。その光景は不気味に感じるほど静かで、たった一つのみある影の孤独を強調する。しかし、影はまるで楽しくて仕方が無いというかのように、小さな奇声をあげた。
「ひゃはっ! ふひゃっ!」
狭い路地、どの家も消灯している中、この奇声を聞いたものは、影自身以外は誰一人としているはずはない。にも関わらず、影は半狂乱といえる程に周囲を確認する。
「ひゃはっ! だぁれもいなぁ~い」
またも、一人楽しそうに声をあげると、影は歩いていく。やがて、ぼんやりと光る外灯の下を影は通り過ぎようとする。すると必然的に影の姿があらわとなる。それは薄汚れたコートを着込んだ長髪の何か。
人間のようで、あきらかに人間ではない存在。影は、頭を不自然に曲げると、ニタリッと笑う。
いや、正確には、笑おうとした。
何故なら、その顔は目も口も鼻も――
糸で縫いつけられていたのだから――