吸血鬼狩りの修道女
冬、と言うのは実に寒い。
冬が寒いのは何処でも同じかも知れないが、ドイツの冬は特に寒い方に分類しても良いと思う、山の中だからなおさらだ。
ケルン大聖堂、ドイツ連邦共和国ノルトライン=ヴェストファーレン州ケルンにそびえ立つ世界最大のゴシック様式の教会、そこが私の職場であるが出張先はドイツ中の田舎や大都会、時には国外へ出たりもする。
そしてこの私、ローマカトリック教会の修道女にして吸血鬼狩りの専門家、ヒルデガルド・カミラ・シュレディンガーは今まさに仕事中である。 吸血鬼と言うものは十字架を握りしめても十字路に灰を撒いても、天井からニンニクを吊り下げ聖水をそこら中にぶちまけたとしても来る時は来る。
厄介な事に、吸血鬼は初めて行く所には扉や窓を開けてもらうかお入り下さいと声を掛けられるか、とにかく招かれないと入れないのだが一度行ったことの有る場所なら魔法の様に現れるものなのだ。
吸血鬼が潜む小屋結界を貼り終えた私は、腰に下げた拳銃を抜きスライドを引く。
対吸血鬼用改造型シグザウアーP229、9mm法儀済純銀弾核、装弾数は13+1発、頑丈で良く当たり反動は小さい、なんと理想的なことか。
拳銃を構えたまま扉を蹴破る、吸血鬼の姿は見えない。
両腕で構えた拳銃を右手に持ち替え、左手でナイフを抜き前に構えて中に入る。
ふと目に入った鏡に目をやる、鏡には私ーー長めの金髪に青い目、くたびれた表情の私しか映っていないようにみえるが何かがおかしい、何が……血だ、私の後ろで不自然に血が滴り落ちている、まるでそこに口が有るかの様に……
「“吸血鬼は鏡に映らない”ってかぁ!」
振り向きざまにナイフを振るい、後ろに跳んだ吸血鬼に向けて発砲する。
吸血鬼は体を左右に振って弾丸を避け、両腕を前に伸ばして突っ込んでくる。
その腕を掴むと同時に足を掛け、突っ込んだ勢いを利用して地面に叩きつける。
うつ伏せの吸血鬼に跨り、両腕を拘束して自由を奪い、心臓部に拳銃を突き付ける。
「我らは人々に光明を与え幸福の教えを謳う者なり、我ら悪鬼に怯えるか弱き者共を遙か天高き神の国へと導かん、其れが為に汝ら人の世に迷い込みし魔の者共に神罰を与え撃ち滅ぼさん、Amen」
引き金を引くと同時に返り血がほとばしる。
銀で心臓を撃ち抜かれた吸血鬼の体が崩れ落ちるのを確認し、私は小屋を後にした。