時間を預ける
祖父が亡くなって通夜も葬式も終わり
慌ただしかった数日が
ようやく落ち着いた頃のことだった。
その夜、私は夢を見た。
インターホンが鳴り、玄関のドアを開けると
そこには亡くなったはずの祖父が立っていた。
顔は少し土気色で
どこか現実離れした雰囲気がある。
そしてなぜか…祖父の後ろには
たくさんの段ボール箱が積まれていた。
「じいちゃん、どうしたの?」
すると隣にいた夫が、祖父に向かって言った
「よかったら、上がっていってください」
祖父は少し照れたように笑い、首を横に振った。
「いや、まだ行くところがたくさんあるから」
その表情は、生前と変わらない
どこか…はにかんだような祖父の笑顔だった。
そして祖父は、真面目な顔をして
「…お前に頼みがある」
そう言うと、ずい!っと
一本の腕時計をこちらに差し出しながら言った
「時間を預けていくからな」
突然の言葉に戸惑いながらも、私は答えた。
「え?……うん、分かった」
すると祖父は、念を押すようにもう一度言った。
「いいな。時間を預けていくからな。頼むな」
そう言って、もう一度更に前に押し出すように…
私に時計を差し出した。
――そこで目が覚めた。
やけにリアルな夢だったため
その日のうちに実家へ帰って
祖母と母にその夢の話をした。
すると祖母が、思い出したように言った。
「時計?
ああ、これのことかねぇ」
そう言って見せてくれたのは一本の腕時計。
夢の中のものとは文字盤の色が
少し違っていたけれど、形はよく似ている。
祖父が、生前ずっと愛用していた時計だった。
祖母は少し切なそうな…
でも愛おしそうに、時計を握りしめながら言った。
「本当はねぇ
お墓に入れてあげようかと思ったけど
どうしても手元に残しておきたかったのよ…
でも、おじいさん…時計、好きだったからねぇ」
結局その後、お寺に相談して
その時計は祖父のお墓に納めてもらったらしい。
でも…ひとつだけ今でも
心に残っていることがある。
祖父は夢の中で
「時計を預ける」とは言わなかった。
確かに、こう言ったのだ。
――「時間を預けていくからな」
もしかしたら祖父は
自分が生きられなかったこれからの時間を
私に託したつもりだったのかもしれない。
そう思うと、あの夢は不思議と
少しだけ、あたたかい記憶に変わっていった。




