営業中の廃ホテル
これは、男友達から聞いた話だ。
その友達は
男三人で宅飲みをしていたとき
酔った勢いで
歩いて肝試しに行くことになったらしい。
近くにあった、廃ホテル。
もう何年も放置されていて
ガラスは割れ
中にも簡単に入れるような場所だった。
ただ――
着いたときから、妙な感じはあったらしい。
どこからか、ずっと見られているような感覚。
視界の端に
人のようなものがちらつく。
でも…
(気のせいだろ)
(ビビってるだけだ)
そう思っていた。
中は、想像通りボロボロで
空気は重く、カビ臭かった。
そのせいか、酒が回ったのか――
友達は気分が悪くなって
その場で吐いてしまったらしい。
そのときだった
背後から、声がした。
「お客様、大丈夫ですか?」
はっきりとした、男性の声。
思わず、友達は振り返りもせずに言った。
「おい、マジでやめろや」
けれど――
その声は、友達のものじゃなかった。
前を見ると、二人とも、少し先を歩いている。
(嘘だろ……)
そう思いながら
慌てて追いついて
今のことを話したけれど――
信じてもらえなかったらしい。
そのまま、三人で奥まで進み
しばらくして
「もう帰るか」
そう言って、出口へ向かった。
外に出た、その瞬間
背後から、声がした。
「いってらっしゃいませ」
三人とも、はっきり聞いたらしい。
誰も、振り返れなかった。
叫ぶこともできず
ただ、その場に立ち尽くしたまま――
しばらく動けなかった、と言っていた。
……
「あのホテルさ」
話してくれた最後に
友達がぽつりと言った。
「ずっと“営業中”だったのかもしれない」
そのときの顔は
冗談には見えなかった。




