霊柩車の上
いっとき
やたらと霊柩車とすれ違う時期があった。
通勤中や、買い物の帰り
一日に何度も見かけることもあって
(な~んか、よくすれ違うな……)
そう思っていた。
最初は、気のせいだと思っていた。
気にするから目につくだけ
そう自分に言い聞かせていたけれど――
昔ながらの、飾りのついた霊柩車。
その上に
誰かが座っているように見えることがあった。
どの人も、正座で
大概は、下を向いている。
はっきり見えるわけじゃない。
白いオーラのようなものがあって
なんとなく“そう見える”だけ。
そんなことが続いていた、ある日
また、前から霊柩車が走ってきた。
(ああ……またか)
そう思った、そのときだった。
――ギョッとした。
上に座っている
それは変わらない。
でも――
その日は、違った。
本当に人が座っているかのように
はっきりと見えた。
白髪のおばあちゃんだった。
グレーの上着に、黒地に花柄の服。
「えぇ……本当に座ってんじゃないよね?」
思わず、そう口に出た。
すれ違う、その瞬間……
おばあちゃんと、目が合った。
そして――
ゆっくりと、頭を下げてきた。
反射的に、私も頭を下げた。
「あービックリした……
久しぶりに、あんなはっきり見えちゃったな」
そう独り言をつぶやきながら
その場をやり過ごした。
その日の夜。
おばあちゃんが、夢に出てきた。
障子からやわらかく光が差し込む、明るい和室。
机以外、何もない部屋に
おばあちゃんは座っていた。
「ごめんなさいね、急に」
そう言って、急須からお茶を注ぎ
手で『どうぞ』と促してくる。
「あ、いえ……」
そう言いながら、向かいに座ると
「いえね。あなたと目が合ったとき、
なんだか、お話したいなって思ってね。
聞いてくださる?」
とても上品な話し方だった。
「あ、よろしければ、ぜひ」
そう答えた。
それから、おばあちゃんは
身の上話を、延々と話してくれた。
特に、こちらに何かを求めるわけでもなく
ただ、話したいだけのように。
当時、接客業をしていた私は
それを苦に感じることはなかった。
やがて話し終えると
「ありがとうねぇ。
年寄りの話、聞いてくださって……」
「いえ、こちらこそです。
ありがとうございました」
そう返すと、おばあちゃんは少し笑って
「入院してからねぇ……
話し相手がいなかったものだから。
あなたなら、聞いてくれそうな気がしたのよ」
そう言って、お茶をひと口飲んだ。
「ふふ、それなら良かったです。
……上がれそうですか?」
そう聞くと、静かに頷き
私の手をそっと握った。
「あなたは……優しいのね。
その優しさを、いつまでも大事にしてね」
私も、握り返した。
そこで、目が覚めた。
起きたとき
ふと――
昔、霊能力者のおばちゃんに
言われた言葉を思い出した。
『そっか……優しすぎるんだね』
その言葉が、頭の中で何度も繰り返されていた。
その後も、霊柩車の上に座る人を
見かけることはあった。
けれど、時代の流れと共に
あの飾りのついた霊柩車自体を
見なくなっていった。
それと同時に――
あの“人たち”を見ることも
なくなっていった。
ただ。
ごく稀に――
ふと、視線を感じることがある。
あのときと同じように。




