午前三時四十五分
息子がまだ3歳頃の話だ
その日、母から何回も着信が入っていた。
折り返してみると
祖父の容体があまりよくなく
もう長くないかもしれない
話が出来るうちに会いに来なさい、と。
私は旦那と息子を連れてすぐに病院へ向かった。
祖父はベッドで静かに眠っていた。
呼びかけても目は覚まさなかったが
顔は穏やかだった。
「また来るね」
そう声をかけて、病室を出た。
翌日は、前から予定していた旅行の日だった
かなり迷ったが…
母から何かあれば連絡が来るだろうし
すぐに駆け付けられる範囲の
遠い場所でもないことから
予定通り出かけることにした。
夜はサービスエリアで車中泊をすることに。
旦那と息子はすぐに眠ってしまったが
私は何故かなかなか寝付けなかった。
体勢を変えたり
トイレに行ったりして
ようやくウトウトし始めたころだった。
遠くで、救急車のサイレンが聞こえた。
〘下道で事故でもあったのかな…〙
ぼんやりとそんなことを考えた。
だが、その音はなかなか消えない
遠くで鳴っているはずなのに
ずっと聞こえている。
〘こだましてるのかな?〙
それにしても、やけに長い気がした。
やがて…また眠りかけたとき
今度は別の音が聞こえた。
コン、コン
車体の下を、誰かが叩くような音だった。
振動は感じない。
だが、確かに音だけが響く…
夜中のサービスエリアだ
誰かのいたずらかもしれない。
そう思ったが、息子も旦那も寝ている
外に出て揉め事になるのも嫌だった。
〘こちらの反応が無ければ
そのうち飽きてやめるでしょ
もっとガンガンやられたら出てくか〙
そう考えて、私は目を閉じた。
けれど、音は止まらなかった
遠くの救急車のサイレンと車の下を叩く音。
それが、ずっと続いている…
だんだん怖くなってきて
目を開けることができなくなった。
どのくらい時間が経っただろう
旦那が起き上がった。
「ん~トイレ行ってくる」
私はその瞬間
「あ、待って、ねぇこの音なんだけど」
と言おうとしたその時…
さっきまで聞こえていた音が嘘のように消えた
車内には息子の寝息だけが響いている。
スマホで時間を確認すると午前三時四十五分。
そのとき、胸の奥がざわついた
もしかしたら…
祖父に何かあったのかもしれない。
でも、誰からも連絡は来ていない。
時間も時間だったので
朝になってから連絡しようとそのまま眠りについた
翌朝、母に電話をかけた。
しばらくの沈黙のあと…母は静かな声で言った。
「朝方……おじいちゃん、亡くなったの」
私は思わず時間を聞いた
母は少し考えてから答えた。
「午前三時四十五分くらいだったって」
その瞬間、昨夜の音を思い出した
遠くで鳴り続けていた救急車のサイレンと
車の下を叩く、あの音を。
あれが何だったのか、今でもわからない
ただ、あの夜。
祖父は私たちに
知らせようとしていたのかもしれない。
そう思うと……
不思議と怖さよりも
切なさと静かな温かさだけが残った。




