外にいた自分
中学校の階段の踊り場に
大きな鏡があった。
毎日通る場所だから
セーラー服のスカーフを直したり
スカートの裾を確認したり――
そんなふうに使っていた。
その日も友達と一緒に
鏡を見ていたときだった。
ふと、鏡の中の自分が
怒った顔をした気がした。
「……ん?」
もう一度見直す
でも、そこにはいつも通りの
自分しか映っていなかった。
(見間違いか)
そう思って、そのままその場を離れた。
それからだった。
行ってもいない場所で
『私を見た』という話が
たびたび出るようになった。
そのたびに否定する。
時には姉に証人になってもらうこともあった。
世の中3人は自分に似ている人がいる――
そんな話もあるけれど
ここまで続くと
さすがに気味が悪かった。
ある日、登校すると
仲の良い先輩に声をかけられた。
「ね、昨日ショッピングモールにいたでしょ?」
「……行ってないです」
「いやいや、絶対アンタだったって。
あの服もそのまんまだし」
そう言われて聞いた服装に、私は言葉を失った。
それは――
おじいちゃんのお下がりのTシャツだった。
男物でサイズも大きく
私以外に着る人なんていない。
しかも私は、学校と家の往復ばかりで
ほとんど出かけることもなかった。
だからこそ――
その場所に行っていないことは
はっきりしている。
……なのに
その服を着た“私”が、いた……?
「でも…なんで?」
そのとき、ふと思い出した。
(……あの日からだ)
鏡の中の自分が
怒った顔をした、あの日から。
あれが原因だとしたら――
そう思うと、確かめておきたくなった。
私は、誰もいないことを確認して
踊り場の鏡の前に立った。
しばらく動いてみる。
手を上げる。
顔を近づける。
鏡の中の自分も、同じように動く。
(…やっぱり、普通だよねぇ)
そう思って立ち去ろうとした、そのとき。
横目に映った鏡の中の自分が
――笑っていた。
「え……?」
思わず見直す。
でも、そこには
何も変わらない自分しかいなかった。
それ以降――
目撃談は、ぴたりと止まった。
後日、その話を先輩にすると
こんなことを言われた。
「それ、鏡の七不思議じゃない?
鏡の中の自分が勝手に動くってやつ」
そう言って、先輩は笑った。
「でもさ、実際に見たって話は
聞いたことないな。
アンタが初めてじゃない?」
笑い話のように流されたが――
今でも、時々思う。
最初は怒っていて
次は、笑っていた。
もしかしたら――
『私』に気づかない私に怒って
困っている私を見て
笑っていたのかもしれない。
あのとき、外にいた“私”は
どこから来ていたのか。
その鏡は今も
廃校になった校舎の中に残っている…




