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『日常の中の怪異』 ― 私が体験してきた不思議な話 ―  作者: かゆると


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33/40

部室の棚の下

私の通っていた中学校は

歴史のある学校だったせいか

校舎も体育館も、あちこちガタがきていた。


でも、一番ひどかったのは部室で

ボロボロで、雨漏りもするし

とにかく汚い。


陸上部の部室には

卒業した先輩たちが置いていった

スパイクやスパイクピンが残っていて


当時、家がかなり貧乏だった私にとっては

お古をもらえる、ありがたい場所でもあった。


そんなある日の部活。


長距離の顧問が休みで

短距離の顧問が、両方を見ることになった。


ただ――


些細なことで顧問と口論になり



「帰れ!!」



と怒鳴られた。


しかし私は根っからの

意地っ張りで天邪鬼だ。


素直に帰るのも腹が立つし

かといって、居場所もない。


仕方なく私は

部室で時間を潰すことにした。


扉を開けると

いつも誰かしらいるはずの部室は

妙に暗く、しんと静まり返っていた。


その静けさが

いつもより余計に際立って感じられる。


椅子にドカッと座り



「あの分からず屋のモアイ像野郎が…」



と毒づきながら

ぼんやりと部室を見渡す。


そのときだった。

棚の下に

キラッと光るものが見えた。


スパイクピンかと思い

拾い上げると

小さな猫のキーホルダーだった。


(誰かの落とし物かな)


そう思って棚の上に置き

窓の外で練習している皆の様子を眺めた。


しばらくして、ふと視線を戻すと

また棚の下に

光るものがあった。


(あれ?)


拾ってみると――

さっきの猫のキーホルダーだった。


置き方が悪かったのかと思い

もう一度手を伸ばした

そのとき――



「え……?」



棚の下に、細い手が見えた。


それは、私と同じように

何かを探しているように動いていた。


一瞬驚いたが

不思議と怖さはなかった。

それよりも――


(……何探してるんだろ

 あ、これ?)


そう思って

私は猫のキーホルダーを

その手の方へそっと押しやった。


けれど

手はそれを避けるようにして

まだ何かを探すように

カサカサ……と

ゆっくり動き続けていた。


(違うのか……)


そう思って

しばらくその様子を見ていると



ガラッ!!



部室の扉が勢いよく開いた。



「何やってんだ!帰るなら帰れ!!」



顧問だった。



「……はいはい、すいませんねー

 キーホルダー拾ってただけですー

 帰りまーす」



そう言って通り過ぎようとすると



「おい、待て。

 そのキーホルダー、どこにあった?」



と呼び止められた。



「は?棚の下ですけど?

 先生のですか?

 こんな可愛いの持つんですねー

 モアイのくせに」



嫌味たっぷりで渡すと

顧問は少し黙ってから言った。



「……いや、俺のじゃない。

 でも……なんで……」



その様子が少し気になったが

腹が立っていた私は



「自分のじゃないなら

 ちゃんと返しといてくださいねー」



そう言い残して帰った。


それから顧問とは

ほとんど話さないまま

時間だけが過ぎていった。


やがて老朽化のため

部室は取り壊されることになった。


片付けの最中

古い陸上部の日誌が見つかった。


皆で何気なくページをめくっていたとき――

手が止まった。


そこには

『故人』への追悼の言葉が書かれていた。


どうやら男の子で

……自殺だったらしい。


そして、そのページの端に

二つのイラストが描かれていた。


モアイ像と――

猫のキーホルダー。


あの日の顧問の表情が

ふと頭をよぎる。


なんとなく……

あの日のことは

誰にも言わない方がいい気がして


私は何も言わず――

そのまま片付けに戻った。

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