部屋の隅に立っていた人
まだ小学校に上がる前の頃の話だ。
部屋が薄暗かったから
まだ空が明けきっていない
早朝だったんだと思う。
誰かに名前を呼ばれた気がして
私は目を覚ました。
眠い目をこすりながら
ぼんやりと部屋を見回す。
そのとき、部屋の隅に
人が立っていることに気づいた。
クリームイエローの半袖の服に
パステルカラーの水色のスカート。
細身で、髪の長い若い女性
髪はセミロングで
肩甲骨の少し上あたりまでの長さだったと思う。
ただ、その人は壁のほうを向いていて、
こちらに背中を向けていた。
その瞬間、なぜか私は思った。
——お母さんだ。
「おか……」
そう言いかけたとき……
女性が、ゆっくりと
こちらを振り向こうとする気配がした。
その瞬間、理由も分からないまま
全身がゾクッとした。
急に怖くなって、私は目をぎゅっと閉じた
…どれくらいそうしていたのかは分からない
しばらくして恐る恐る目を開けると
カーテンの隙間から朝日が差し込んでいて
さっき女性が立っていた場所には
もう誰もいなかった。
そのまま布団を頭から被り
誰かが起きてくるのを待った
やがて母が起きてきた気配がしたため
私は急いで部屋を出て母に聞いた。
「お母さん、さっき私の部屋に来た?」
母は不思議そうな顔をして言った。
「行ってないよ?なんで?
それより今日は早起きだねぇ」
……じゃあ、あのとき
部屋の隅に立っていた女性は
いったい誰だったんだろう。
そして今でも、ふと思い出すことがある
あのとき私は
その人の顔を見ていない
足元も、なぜか覚えていない
ただ一つ…
はっきり覚えていることは
あの女性の髪は
母よりも、明らかに長かった
どうして母だと思ったのか…
そして…もしあのとき
最後まで振り向いていたら一一
……いや
もしかしたら
私が目を閉じたあと
もう、振り向いていたのかもしれない




