橋の夢
それから半年も経たない頃だった。
当時、通学路に
立ちションをしているおじさんが
出るようになった。
登校中に何度も遭遇するようになり
気持ちが悪かったので
通学路を変えることにした。
新しく通るようになった道は
小さな川が流れていて
その上に小さな橋がかかっていた。
あぜ道のような細い道で
特に変わったことのない
どこにでもあるような道だったと思う。
ある日――
その道を歩いている夢を見た。
いつものように川沿いを歩き
橋が見えてくる
あの橋を渡れば
学校まではもうすぐだ。
でも――
橋の真ん中に、誰かが立っている。
前に私の部屋の窓際にいた
あの白いワンピースの女性だった。
ただ、今回は帽子をかぶっておらず
橋の欄干に手をつき
川の流れを覗き込むように
下を向いていた。
〘あれ……あの女性……〙
そう思った瞬間
女性がこちらを向いた。
距離があったからか
顔はよく分からない…
女性は足元の何かを拾うと
こちらに向かって投げてきた。
その瞬間
目の前に水面が広がった。
ーポチャンッー
水に何かが落ちる音と
小さく跳ねる水しぶきが見えた。
その瞬間、目が覚めた。
起きたとき
ひどい頭痛がしていた。
学校を休みたいと母に言うと
母は心配そうに言った
「大丈夫?
今日は休みなさい。
……ねえ、何か見たの?」
私は
前に見たものの話と
今回見た夢の話をした。
部屋にいた女性のこと
橋の上に立っていた女性のこと
そして
何かを投げられたことも。
すると母は少し考えてから言った。
「そうだったの……
もう、その通学路は
使っちゃいけないよ」
でも
『立ちションのおじさんが出るから
そっちの道に変えた』
と説明すると
母は少し困った顔で言った。
「それね……
お姉ちゃんからも聞いたけど
お父さんもお姉ちゃんも
そんな人見てないって言ってたよ」
姉は友達と登校していたとはいえ
家を出る時間は同じだ
父に車で何度か送ってもらったこともある。
そのときも
『立ちションおじさん』は、確かにいた
それでも、誰も見ていないと言う。
後日
姉の友達や自分の友達にも聞いたけれど
やっぱり誰も見ていないと言った。
母は静かに言った。
「アンタは優しすぎるから
見えちゃうし、呼ばれちゃうんだね」
そして続けた。
「霊能力者のおばちゃんが言ってたの。
見えても見ないふりを覚えなさいって。
そうやって、うまく付き合っていきなさいって」
そのとき――
あの人に最後に会ったときの言葉が頭をよぎった。
【優しすぎるんだね。
でも、どうしようもない】
……今思えば。
おばちゃんには、最初から全部
分かっていたのかもしれない。
何が原因なのかも。
そして――
それが、もう自分には
どうすることも出来ないことだというのも。
結局、それ以来
あの女性を夢で見ることは
二度となかった。
それから数年後
祖父母が
私たちと同居することになった
引っ越しの荷物を整理しているとき
祖母が一つの話をしてくれた。
昔、とある橋から
身を投げた女性がいたらしい。
経緯は詳しく語らなかったが
祖母は知り合いを通して
その女性の遺品を譲り受けたことがあるという。
祖母が大事そうに見せてくれたのは
黒いケースに収められた
白と金のネックレスと
白と金のイヤリングだった。
本当にその亡くなった女性の物
なのかは分からない。
でも――
それを見た瞬間
〘あ、嫌だ……っ!!〙
そう思ったと同時に
あの夢の女性が頭をよぎり
反射的に目をそらしてしまった。
何故かそれ以上――
見ていられなかったのだ。




