母が連れてきた霊能力者
私はしばらく
あの夢の話を誰にもしなかった。
しかしある日…
いつものように祖父母の家に遊びに来て
夕飯を食べることになったときのこと。
皆で談笑している中で
私はその夢の話をサラッと口にした。
「ねえ、こないだ変な夢を見たんだけどね?」
門のこと
行列のこと
鬼のこと
人が泥になっていくこと…
全部話した。
私はきっと、
「それは怖い夢だったね。大丈夫だよ」
そう言われて終わるのだと思っていた。
しかし母と祖母は驚いた顔をしていた
…けれど、その表情はどこか重かった。
それから、しばらく日が経ち
ある日、母の友人だという女性が家に来た。
その人の笑顔は優しくて
母より少し年上くらいに見えた。
母はその人のことを、さらっとこう紹介した。
「霊能力者なの」
正直、その意味はよく分からなかった。
私は姉と並んで座っていたのだが
その女性は迷うことなく
まっすぐ私の方へ歩いてきた。
そして私の頭を優しく撫でながら言った。
「この子ね?大丈夫よ」
そのあと、床に寝そべるように言われ
私は言われるまま横になった。
女性は何かの
お経のような呪文のような言葉を
小さく唱えながら
私の体の上に手をかざしていった。
触れてはいないのに、手が近づくたびに
その場所がじんわりと暖かくなるのが分かった。
顔、胸、お腹、足。
ゆっくりと手が移動していく。
右腕のあたりに来たとき…
ピタリ、と女性の手が止まった。
そして何度も、何度も
右腕の上に手をかざした
まるで――
そこに何かあるのを知っているかのように。
実は私は、あの夢のあと
右腕に残った赤い痕のことを
家族に話していない…
心配させると思ったからだ。
それなのに女性は
まるで分かっているかのように
右腕の上に長く手をかざしていた。
不思議と怖くはなく、ただ暖かい…
やがて女性の手が、私の顔の上に来た。
そのときだった。
それまで穏やかだった声が、突然変わった。
「出ていきなさい!!」
鋭い声が部屋に響いた。
その瞬間--
「うわっ!!」
私を見下ろしていた家族が
一斉に声を上げ全員私から一歩後ろに下がった。
皆、驚いた顔をしていた。
けれど――
一番顔色が変わっていたのは父だった。
父はもともと、
霊だの何だのという話を一切信じない人だ
だが…そんな父の顔が
下がった瞬間、はっきりと青ざめていた。
私は何が起きたのか分からなかった。
女性はそのまま手を合わせ
パン、パンと二回手を叩いた
それで終わりだった。
女性はゆっくり息を吐き私に向かって微笑んだ。
「もう大丈夫」
そして少し首をかしげて言った。
「でも……」
「なんでこの子だったのかしらね」
その言葉を残して、女性は帰っていった。
その夜、私は姉に聞いた。
「みんな、すごく驚いてたよね」
「何を見たの?」
姉は少し黙ってから、ためらうように言った。
「あのね……」
「あの人が怒鳴った瞬間、
アンタの顔がね…歪んだの」
姉はさらに声を小さくした。
「同じ顔なんだけど、すごく醜くて……」
姉はそこで少し言葉を止めた
真顔のまま私を見ているが
思い出すのが怖いのか…
どこか怯えたような表情だった。
「顔が歪んだっていうよりね……
体の中から
別のものが浮かび上がってくるみたいで……」
そして姉は、ほとんど囁くような声で言った。
「まるで――鬼みたいだった」




