田中井宅に隠されていた手記
耐えられない。
耐えられない。
耐えられない。
あの子が選ばれるなんて。
耐えられない。
耐えられない。
耐えられない。
どうにかならないか。
いっそこのことをあの子に伝えてしまったらどんなに気持ちが楽になるだろうか。
あぁ、あなた。こんな胸が張り裂けそうなのにどうしても伝えてはならないの?
伝統? 風習?
私には関係ない。だってこの村の出身では無いもの。
でも、あなたの面子を思うとそんなことできない。
それに、この風土病、本当だったなんて。この村の人たちだから起こる遺伝病だと思ってたけど私まで症状が出るなんて。
フサギサマの祟り? そんなこと信じてなかったのに実際目の当たりにするととてもじゃないが信じてしまう。
あぁ、これで近隣の子が死んだなんて聞かされたらこの言いつけに従わざるを得ない。
耐えられない。
耐えられない。
耐えられない。
いっそあの子と2人だけで逃げてしまおうか。そうすればこの子だけでも助かるはずだ。
そうだ。そうしよう。実家を頼ればその時期までは匿ってくれるはずだ。
そうだ。そうしよう。すぐにでも決行したいが準備が必要だ。絶対にバレちゃいけない。絶対に。
……そう考えた私がバカだった。どこからバレた? 誰にも話してない。誰にも悟られないようにしていたのに。
まさか本気で足の骨を折ってくるなんて。これで身軽に動けない。実家への連絡も閉ざされてしまった。私ひとりだけならこの村から逃げられるかもしれないがこの子を置いていくなんてできない。
耐え ない。
耐え い。
耐えら ない。
指をくわえて待ってることしかできないのね。
いや、もしかしたらあなたの言うように無事で帰ってきてこの村を治める人間になれるかもしれない。この子は力強いもの。大丈夫。絶対に大丈夫。
耐えられない。
耐えられない。
耐えられない。
ここ最近毎日食事が喉を通らない。少し食べても吐き戻してしまう。都合のいいように病のせいにしてるけどそうじゃない。
昨日下の方のおばあさんが亡くなったって聞いた。一刻の猶予もないのはわかる。
それでも耐えられない。
耐えられない。
耐えられない。
帰って 来なかった
耐えられない
耐えられない
耐えられない
耐えられない耐えられない
耐えられない耐えられない耐えられない
耐えられない
耐えられない耐えられない耐えられない耐えられない耐えられない耐えられない耐えられない耐えられない
(その後数ページに渡って判読できないが同様の文字が並んでいた)
少し慣れた。あの子の居ない日々。
慣れた? おかしな話。慣れるわけない。
実感してしまったのだ。あの日以降私自身の症状が無くなった。それと同様に村での被害も止まった。
お勤めなさったのだ。我が子が。
それでも、耐えられない。こんな日々。想像だにしてなかった。あの子のいない日々、
これをしっかり伝えなければ。誰のおかげで日常を送れているのか。伝えなければ。
許さない。
許さない。
許さない。
床に伏したらしい。いい気味だ。この程度で私の気持ちが晴れるわけがないが。あの子のいない日々がどんなものなのかしっかり伝えなければ。
絶対に許さない。
嫌がらせなんてしてない。事実を述べてるのだ。今の私の気持ちを。
嫌がらせじゃない。痛み分けだ。逆の立場だったら絶対にあなたも同じことをしたはずだ。
嫌がらせなんかじゃない。そんな生易しいものじゃない。復讐だ。
死んだ。
そんなつもりじゃなかった。
ただ、私の気持ちを半分貰って欲しかった。
そんなつもりじゃなかった。
耐えられない。
耐えられない。
耐えられない。
なんで私ばっかり。
なんでなんでなんで。
(以降判読できず、さらに血がこびりついていた)
あの子が生きていた。
(ここだけ綺麗に切り取られている)
良かった会いに行ける。
今すぐ会いに行ける。
今すぐ行こう。
夫が寝たら行こう。




