第1幕 「はじまり」
いまから数年前のはなし。
この辺はまだ、国家など統一された地域はなかった。
小さな村や町が無造作に点在し、全くまとまりがない。
私は、建築家で地主を営んでいるこの家に生まれた。
両親と、私を含めた3人の兄弟と暮らしている。
父は隣の領主の城や大聖堂を建てたりと、この業界では名のある人物だ。
兄は家業を継ぐための勉強や父の手伝いを、日々忙しそうにこなしているが、私は二男なので、とくにそれといったことはしていなかった。
暇なので、家にあった天文や測量に関する書物を読み、植物や石ころを愛でる毎日を過ごしていた。
が、暇過ぎた。
家は裕福なほうではあったので、私は父に頼んで東方の国に留学させてもらった。
そこには町もあり、たくさんの情報や書物があったが、聞くところによると、さらに遥か東方の国は大きな都市があり、おびただしい数の情報や書物があるらしい。羨ましいかぎりだ。
そうして留学生活を送り、私は、たくさんの世界があることを知った。
永遠に凍てついた大地。
霜に閉ざされた大地。
四季の息吹が宿る大地。
濃緑に包まれた灼熱の大地。
太陽の舞う砂の大地。
雲上の孤高の大地。
と様々なものがあるらしいのだ。
「行きたい、行ってみたい」
だが、道を知らない。地図が必要だ。
が、やはりいくら探しても断片的な情報ばかりでちゃんとしたものがない。
「自分で作るか」
そして、必死に勉強した。
色々な知識や技術を身につけた。
留学先では、首席で卒業したのだった。
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しばらくして、私は故郷にもどった。
ちょうどその時期、隣の領主が勢力を大きく拡大し、この地域を統一しようと動き初めていた。
その領主は「王」を名乗り初め、国号を「ヴァルトシュタイン」と取り決め、貨幣を鋳造・統一し、法を整備し、軍備を拡張し、版図を大きく広げだしていた。
その動向に反抗する者も少なからずいたが、各地域で「統一しよう」という機運の高まりもあったので、各地の領邦はその「ヴァルトシュタイン王」なる者に土地や人民を献上し、この地域の統一が順調に進んでいる。
で、「ヴァルトシュタイン王」から、宮殿建設のはなしが父と兄にきた。
それと同時に、統一事業の一貫で、地図を作ることになったらしいのだが、そのはなしが、私にきたのだった。
有名な学者もいるし、馬や船、資金も出してくれるようなので、私はそのはなしを受けることにしたのだった。
こうして、私は地図を描き初めるのだった。