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低身長が原因でいじめられて中浪したので自殺したら異世界転生しました  作者: 普通の人/3時のおやつ
第2-2章「幼児期 冒険編」

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第26話「南へ」

僕はギーガさんたちとともに、歩き始めた。


 異世界に転生してから、初めての「冒険」。

 つまり——僕の人生にとっての、本当の「開幕」でもある。


 さっきまで、ずっと部屋に引きこもっていたのに。

 ベッドに寝そべって、天井の木目ばかり見つめていた僕が、今では胸を高鳴らせながら、家から、村から、そして“いつもの景色”から離れていく足音を刻んでいる。


 確かに、ワクワクしている。

 でも同時に、心の奥底で一つの疑問が、冷たい石みたいに居座っていた。


 ——これは、本当に「現実」なんだろうか?


 「冒険」をするということは、「死」を覚悟するということでもある。

 魔物。盗賊。病気。事故。

 この世界には、命を落とす理由がいくらでも転がっている。

 まだ五歳の子どもが、命をかける——前世の感覚で言えば、それは完全に「ヤバいこと」だ。


 それでも、僕は足を止めない。


 ……この世界の「頂」を目指す、と決めたから。


 背丈よりも高い草はもうなく、道はひらけている。

 村を囲っていた柵が、背後でどんどん小さくなっていく。

 家々の屋根が、重なり合った影ごと遠ざかっていく。


 そんな中、不意に右肩を「トントン」と叩かれた。


 右側へ顔を向けると、いつの間にかギーガさんが僕のすぐ隣に歩いていた。

 獣族の狼系らしい耳が風に揺れ、尻尾がリズムよく左右に振れている。


「そういうたらグライ。行き先、言うてへんかったな」

 ギーガさんは、白い牙を少し見せながら笑った。

「わしらが行く先、教えとくわ……

 グアニスタンとエルニスタンの間通って、ニカニスタンの都市『マナグア』通って、ヴィルヘルム帝国の都市『ヴィルヘルム』、インダロン国の都市『イプシロン』、ソロモン民主国の都市『ソロモン』の始まりや。

 ……楽しみになったんちゃう? グライ」


 その地名の列を聞いた瞬間、胸が一気に熱くなった。


(全部——全部、『全世界の歴史と地理』に載ってた国と都市だ……!)


 分厚い表紙。すり減るまで何度も開いたページ。

 文字と地図と挿絵でしか知らなかった場所の名前が、今、こうして「これから行く場所」として口にされている。


 本の中で見た地図が、頭の中に浮かぶ。

 グアニスタンとエルニスタンの国境線。

 そこを抜けた先にあるニカニスタンの都市、マナグア。

 さらにその先には、ヴィルヘルム帝国。インダロン国。ソロモン民主国——。


 正直、めちゃくちゃ行きたい。

 どの都市にも、一度は足を踏み入れてみたい。

 ご当地グルメみたいなものが、きっとある。

 「欲しかった何か」が、店先でさりげなく売られているかもしれない。


 前世での旅行なんて、小学生の時の家族旅行が最後だった。

 中学生になってからは、いじめと勉強と絶望で手一杯で、「どこかへ行きたい」と思うことすら許されなかった。


「はい!! わかりました、ギーガさん!!」


 僕は、ワクワクを隠しきれない声で返事をした。

 その直後——右肩にさっきよりも強い「トントン」が飛んできた。


「ワクワクしてるやんか〜!! ハハハハハハ!!

 強くて面白いグライや〜!!」


「ハハハ……ありがとうございます」


 笑いながら返事をしつつ、内心では(ちょっと痛い……)と思っていたのは、秘密だ。

 でも、こういうのは「痩せ我慢」も大事だろう。


「よし!! ほな、隣の町『ガバン』に行って、『駅馬車』に乗って『マナグア』目指すで!!」


「えっ!? 『駅馬車』に乗るんですか!!?」


「そらそうよ!! 歩きやったら半年くらいかかるで!!」


 半年。

 想像しただけで、足の裏がじんじんしてくる。


「……僕のために『駅馬車』まで用意させてくれるんですか!!?

 ……ありがとうございます!!」


「当たり前やんけ!!

 だって『ピサロの息子』には当然のことをせなあかんと——

 アイツにボコボコにされへんこともないからな。ハハハハハハ!!!」


 当然のことをしなくてもピサロにボコボコにされることは、さすがにない……と思いたいが、ギーガさんの言い方には冗談半分、本気半分の気配があった。


 ともあれ、「駅馬車」について、少し整理しておきたい。


 駅馬車とは、前世で言うなら「電車」に近い存在だ。

 いわゆる「◯◯線」は、この世界にも存在している。

 ただし短距離ではなく、主に遠距離用。

 長い道のりを一気に移動するための手段として、駅馬車が使われているらしい。


 僕たちが乗る予定の駅馬車は——


ビトウィーン線 マナグア行き




 「ビトウィーン」は前世でいうと「間」という意味。

 この世界でも、同じ意味だった。

 国と国、都市と都市、その「間」をつなぐ線ということだろう。


 もちろん、お金は払う必要がある。


 この世界では、硬貨が唯一の通貨だ。

 前世での紙幣のようなものは存在しない。

 硬貨の種類は、価値が低い順に——


銅貨


銀貨


金貨


白金貨



 「少ない」と思うかもしれないが、実はそれぞれの貨に「小・中・大」が存在している。


 簡単に説明すると、こんな感じだ。


例:小・中・大


銅貨 … 100B、1000B、5000B

銀貨 … 10000S、50000S、100000S

金貨 … 500000G、1000000G、5000000G

白金貨 … 10000000P、50000000P、100000000P

※白金貨は簡単には入手できない。


読み方は——

B = ブロンズ、S = シルバー、G = ゴールド、P = プラチナ。




 前世の「日本円」と同じで、100円 = 100Bだ。

 つまり、100Bでだいたい「100円相当」の価値と考えればわかりやすい。


 そんな感じで、僕らは約三ヶ月をかけて「マナグア」に向かう——予定だ。


 「マナグア行き」の駅馬車の料金は、一人につき150000S。

 六人分の500000G400000Sは、ギーガさんが全部負担してくれるらしい。


(……額のデカさ、ちょっとエグくない?)


 心の中でだけツッコみながらも、「ありがとう」の気持ちをしっかり飲み込んでおいた。


 お金を払い、僕たちは駅馬車に乗り込んだ。


 駅馬車は、木製の車体に頑丈な車輪がついていて、内部にはベンチ式の座席が左右に並んでいる。最大で十五人は乗れるらしいが、今回は僕ら以外に乗客はいなかった。

 移動速度は、歩くよりずっと速い。

 それでも、最短でも二ヶ月半はかかる道のりだ。


 揺れが一定のリズムになってきた頃、隣に座っていたギーガさんが、僕の左肩に腕を回してぐいっと引き寄せてきた。


「ほな、駅馬車に乗ったし、自己紹介始めよか!!」


「えっ!? 僕、さっき自己紹介しましたけど!?」


「そうやけど、メンバーの自己紹介、まだしてへんで? ワイもやけど……」


「あっ!! そ、そうですね……自己紹介……お願いします」


 そういえば、自分のことしか自己紹介していなかった。

 これから七年間を共にするメンバーのことを知らないまま出発するなんて、さすがにまずい。


「ほな、自己紹介やろか」


 ギーガさんが、胸を軽くどん、と叩きながら言った。


「ワイはギーガ。獣族の狼系で、『ハイスピード』の現リーダー。

 剣一筋で戦っておるわ。グライ、よろしゅうに」


 最初はギーガさん。

 獣族の狼系で、ピサロと同じく、戦いは剣一筋。

 「ハイスピードの現リーダー」——ということは、パーティー名が『ハイスピード』ということになる。


(……カッコいい名前だなぁ……)


 心の中でちょっと憧れを抱いていると、次の声が続いた。


「私はメガロン。ドワーフで、最近パーティーに入ってきた新人です。

 斧技で戦います。グライ君、これからもよろしく」


 次はメガロンさん。

 ドワーフで、斧技を使って戦う。最近パーティーに加わった新人の男性。

 身長は、僕より十〜十五センチくらい低いだろうか。

 簡単に言うなら、「前世の小学二年生くらいの身長」に見える。


 『全世界の歴史と地理』には、こう書かれていた。


「種族ごとに平均寿命、身長、特徴は異なる」




 さらに全種族の詳細も挙げられていたから、ドワーフの平均身長が人間より低いことも、僕は既に知っていた。


「わ、私は……ヨナ。亜人の犬系で……メガロンさんと同じく新人……です(。>﹏<。)。

 魔術の回復系である自然属性一筋で生きています。階級は……超級魔法です……。

 ぐ、グライちゃん……よろしくね(。>﹏<。)」


 次はヨナさん。

 亜人の犬系で、メガロンさんと同じ新人メンバー。

 耳と尻尾が、緊張と恥ずかしさで小刻みに揺れている。

 とても恥ずかしがり屋で、顔と耳が真っ赤になっているのがひと目で分かる。

 でも——階級は超級魔法。

 魔術の回復系である自然属性一筋で生きてきた、超級魔法使いの女性。


(回復専門で超級魔法……とんでもない人が新人で入ってきてるな……)


「私はアネモネ。人間で、ギーガさんとは昔からパーティーでお世話になっています。

 子供のように小柄な女性ですが……魔術の闇属性を使い戦います。階級は国級魔法です。

 甘く見たら、闇属性の魔法で消し去りますからね? グライちゃん」


「少しは落ち着きましょうアネモネさん。私だって身長のこと気にしてるので」


 次はアネモネさん。

 僕と同じ「人間」で、ギーガさんとは昔からパーティーを共にしてきたらしい。

 子供のように小柄な女性だが——怒らせたら怖そうな笑みを浮かべている。

 魔術の闇属性を使い戦い、その階級は国級魔法。

 軽く脅しを入れてくるあたり、きっと「甘く見られること」に慣れすぎているのだろう。


「私はラミア。魔族でサキュバス。

 アネモネさんと同様、昔からギーガさんにお世話になっているわ。

 私は指術を使って戦うの。糸で相手を捕まえるのが得意よ。

 生まれつき羽根が生えていて、飛行能力を使って情報屋として活躍しているわ。

 よろしくね〜グライちゃん」


 最後はラミアさん。

 魔族で、サキュバス。

 アネモネさんと同じく、昔からギーガさんにお世話になっている古参メンバー。

 彼女が使う「指術」は、世界でも珍しい術技のひとつだと、本で読んだことがある。

 糸を操り、相手を絡め取るのが得意。

 さらに、生まれつき羽根が生えていて、飛行能力を活かして「情報屋」としても活躍している。


 ……そして何よりも、目を引いてしまうのは——


(……巨乳……)


 とてもエロい体型で、露出度の高い服装。

 目のやり場に困る、とはこのことだろう。


(ヤバい。こんなこと考えちゃダメだ。ダメなんだけど……)


 女性不信だったのに——それが一気に揺らいでいくような感覚があった。

 いや、女性不信は女性不信で残っているのだけど、別の意味で落ち着かない。


「そない感じや」

 ギーガさんが、全員の自己紹介がひととおり終わったタイミングで言った。

「そういうことで、これからもよろしゅうな、グライ」


 獣耳をぴんと立て、白い牙を見せながら差し出されたその言葉に、僕は自然と笑顔になっていた。


「はい!! これからも、よろしくお願いします!!」


 ここから始まる、「頂」への道。

 必ず——この手で、掴み取ってみせる。


               To be continued

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