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低身長が原因でいじめられて中浪したので自殺したら異世界転生しました  作者: 普通の人/3時のおやつ
第2-2章「幼児期 冒険編」

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第25話「開幕」

 そこにいたのはピサロとミサ。

 ——そして、その少し前に立っている、見たことのない「人たち」。


 家の前の道端。

 まだ春になりきらない冷たい風が吹いていて、土の匂いと、遠くの畑で燃やした枯れ草の匂いが混ざり合っていた。

 いつもなら、ここに立っているのは村の人たちくらいだ。

 だけど今、父と母のそばにいるのは、明らかに「村の大人」とは違う空気をまとった人たちだった。


 間違いなく、レストリア村の中で見てきた大人たちではない。

 服装も、立ち方も、視線の動き方も、何かが違う。

 外の世界の匂いをまとっているように思えた。


 すると、その中の一人——フードのようなものを深く被った人物が、すっとこちらに歩み寄ってきた。

 僕の目の前でしゃがみ込み、ためらいもなく僕の頭に手を伸ばす。


「ピサロの息子、めっちゃかわええやん。

 やっぱり『妻』の遺伝子でそうなったんちゃうん?」


 低めの声。だけど、どこか弾むような、楽しそうな音。

 その人は男性だった。

 けれど、僕はすぐに「何か喋り方に違和感がある」と感じた。


 違和感がある……違和感がある……違和感……。


 ——「関西弁」だ!!!


 前世で、「関西」という地域があった。

 日本地図で表すなら、「西日本の中央に位置する地域」。

 そこでは、「関西弁」という方言を話す人たちが大勢いる。

 難しいわけでも、解読不可能なわけでもないけど——普通に聞いているだけで、「独特の面白さ」や「テンポの違い」が耳に残る言葉。


(……なんでここで、関西弁……?)


 空には二つの太陽。

 雪子さんは「日本」出身。

 今のこの男性は、間違いなく「関西弁」。


 ここが「地球」なのか?

 それとも「異世界」なのか?

 頭の中で、二つの前提がぶつかり合って、ガタガタと音を立てた。


 あまりにも理解不能だ。

 けれど、目の前の「今」は、ちゃんと動いている。


「もう〜!! ギーガさんったら!! 私を褒めてるじゃない!!」


 隣で、ミサが嬉しそうに声を上げた。

 どうやら、このフードの男性は「ギーガさん」というらしい。


「ハハハハハハ!! そらそうよ!!

 だって『ピサロの妻』だからなさかい」


 ギーガさんは、ケラケラと笑いながらさらにミサを持ち上げる。

 ミサはその肩をポンポン叩きながら、喜びを全身で爆発させていた。

 その横では、ピサロが微笑んだまま一歩前に出て、ギーガさんの前で同じようにしゃがみ込み、肩をぐっと組む。


「ギーガ。ミサを褒めてくれてありがとな。

 二十年以上経っても、お前は相変わらず変わっていないな。

 でも……俺はそれが『良い』」


「ハハハハハハ!!! おおきに!!

 ピサロはんも変わってないな!!

 まだやってるんか?」


「嫌、もう『あれ』は諦めちゃったぜ」


 二人の笑い声が、春先の空気を揺らす。

 目の前に広がる光景だけで、二人が「昔からの相棒」だと分かった。

 距離の詰め方。言葉の軽さと重さ。昔話をする前から、既に共有している歴史——そういうもの全部が、会話の間ににじみ出ている。


 僕は、改めてギーガさんに向き直り、深呼吸してから自己紹介をした。


「ぼ、僕は、グライ・ファンジアスですっ……!

 いまの階級は、『上級剣技』と『上級魔法』です……!

 よろしくお願いしますっ!!」


 緊張で、思ったより声が上ずった。

 舌がうまく回らず、言葉が少しもつれる。

 だけど、ギーガさんはそんなことを気にする様子もなく、また僕の頭をわしわしと撫でた。


「グライか。これからも、よろしゅうな。

 せやけど、ほんまに『上級剣技』と『上級魔法』なんか!?

 まだ五歳やろ!?……やっぱり『天才家』やな!! ハハハハハハ!!!」


 笑いながら言うものの、その目はちゃんと僕を「人」として見てくれているようだった。

 からかい半分、でも侮りゼロ。そんな不思議な眼差し。


 そして、ギーガさんはゆっくりと被っていたフードに手をかけた。

 指先で布をつまみ、後ろへ払うように外す。


 ——外した瞬間。僕は、息を呑んだ。


 耳は頭の上。

 後ろには尻尾。

 体中には短く柔らかそうな毛。

 鼻は、村で見たことのある狼に似た形。

 いや、「似た形」じゃない。


 「狼」だ。

 完全に、「狼」だ。


 ギーガさんは、「亜人」。

 『全世界の歴史と地理』に書いてあった、「人と獣の中間」を意味する種族。

 ギーガさんの場合は、「獣族」の中でも「狼系」。

 異世界系アニメなら、登場人物の中に一人はいるタイプの存在。

 理屈としては知っていた。

 でも実物を目の前にすると、さすがに迫力が違う。


 ここで変な空気にならないように——僕は、あえて「幼児らしい」リアクションを取ることにした。


「わぁ〜すごい〜!! 狼さんだ〜!! カッコいい〜!!」


 本音では、もっと冷静に「獣人系亜人との初対面だ」とか分析したい。

 でも、僕はまだ五歳。

 十歳くらいにならないと、大人のリアクションだけで乗り切るのは難しい。

 今は、素直さも武器にしておくべきだ。


「おお〜。とてもかわええな〜!!

 強いし、かわええ〜!! 何でもありな子やな〜!!」


 ギーガさんが、ますますテンションを上げて僕を褒めちぎる。

 明らかに、ピサロやミサよりも立て続けに褒められている気がするが、さすがに「一番褒めてくれる人」と決めつけるには早すぎる。

 まだ対面してから十分も経っていないのに、「勲章」を渡してしまうのは、僕の中で何かのバランスがおかしくなりそうだ。


 そんなことを考えていると、ギーガさんとピサロが同時に立ち上がった。

 身長差がはっきりと分かる位置から、ピサロが僕の顔を上から覗き込むように見てくる。


「それでだ、グライ」

 ピサロの声が、少し低くなる。

「お前はこれから、ギーガたちと冒険する。

 期間は七年ぐらい。失敗してもいい。ギーガたちが面倒を見たり、助けてくれたり、可愛がってくれるから。

 そこは問題ないから、考えなくていいぞ」


 七年。

 今の僕の人生の、ほぼ二倍。

 その長さを、一瞬で正確に想像することはできなかった。

 でも、ピサロの「そこは考えなくていい」という一言に、少しだけ肩の力が抜けた。


 けれど——。


「でもな……グライ」


 ピサロは、再びしゃがみ込んだ。

 僕と目線を合わせ、両肩に大きな手を置く。

 その手のひらは、剣を握ってきた男の固さと、父親としての温かさを同時に持っていた。


「『失敗してもいい』と言ったが……それは、『まだできないこと』の話だ。

 『今できること』は、しっかりとやってほしい。

 ギーガたちがいるとしても、お前が何もしなかったら意味がない。

 ……一人だけ生き残ったらどうする? 守れなかったらどうする?

 こうならないように、『今できること』だけを考えろ。これは『真剣』だ。わかったか?」


 「一人だけ生き残る」という言葉が、胸の奥に重く落ちた。

 前世で、教室の真ん中でひとりぼっちだった記憶が一瞬よぎる。

 あの時は「生き残った」わけじゃない。ただ「取り残されただけ」だった。

 でも、今度は違う。

 僕が動かなければ、僕しか残らないかもしれない。

 その可能性から目をそらすな——という意味だ。


 ピサロの真剣な表情に、僕の中でも緊張感が再びせり上がってきた。

 だけど、その緊張を押しつぶすのではなく、支えにするように、僕は顔を上げる。


「はい!! 父さん!!」


 自分でも驚くくらい、はっきりとした声が出た。

 喉の奥が少し痛くなるほど強く声を出したことが、むしろ気持ちよかった。


 その後のことは、怒涛のように進んだ。


 ミサが冒険用の服装を僕に持ってきてくれた。

 動きやすい布の服と、少し大きめのブーツ。

 しっかりとした肩紐のついた小さめの荷袋。

 中には保存食や水袋、最低限の着替えが詰め込まれていた。


 そして——「杖」と「剣」。


 ミサの話によると、「杖」と「剣」は、村にいる杖術屋と鍛冶屋に前から頼んで作ってもらったらしい。


 杖の名前は、「スノーボール・アース」。

 名前の通り、先端は白くて丸い。

 その中には、地球のような見た目をした丸い何かが閉じ込められている。

 白い球体の表面には、青や緑や茶色の模様が混ざり合っていて、まるで小さな星がそこに浮かんでいるみたいだった。


(スノーボール・アース……前世の地球の大昔に発生した『全地球凍結』のことなんだけどな……)


 そんな単語を、この世界で聞くとは思っていなかった。

 でも今は、そのツッコミを飲み込む。

 これからの旅路を共にする「相棒」になるのだから。


 そして「剣」は——鉄で作られた、ごく普通の剣だった。

 特別な装飾も、凝った意匠もない。

 名前も、ない。


(名前もないのかい……)


 心の中でだけ、小さく文句を言う。

 でもすぐに、「嫌々、そんなことを言ってはいけない」と自分で自分を諭した。

 杖術屋と鍛冶屋の人たちが、時間と手間をかけて作ってくれたものだ。

 文句を言う資格なんて、僕にはない。

 むしろ、ここから先——この剣に名前を与えるのは、僕の役目なのかもしれない。


 準備が整った僕は、玄関先でピサロとミサ、そしていつの間にか駆けつけてくれていたアーシャと向き合った。


「父さん、母さん、アーシャさん。六年間、僕を育ててくれてありがとう。

 七年間、頑張ってきます。そして、大きくなって、強くなります!!

 ……僕がいなくても……応援してください!!」


 言いながら、自分で自分の言葉に驚いていた。

 さっきまでベッドから出ることもできなかった僕が、今はこうして「行く側」の人間の言葉を喋っている。


 三人は、それぞれの言葉で返してくれた。


「頑張ってこいよ、グライ!! 大きくなって強くなれよ!!!」——ピサロ。

「大きくなってきてね〜♡ グライちゃん〜♡!!」——ミサ。

「帰ってきたら、たくさん話しようね〜♡!!」——アーシャ。


 僕は微笑んだ。

 今まで引きこもりだった僕が、こんなに気持ちを切り替えるのが早いのは、自分でもよく分からない。

 でも……これでいい。

 もし、この「提案」がなかったら——僕はずっとあの部屋に閉じこもって、エマの言葉を繰り返し思い出しては、壊れていっただろう。


 だったら今、歩き出した方がいい。

 怖くても、不安でも、分からなくても。

 立ち止まったまま何も変えられない自分より、転びながら前に進む自分の方が、きっとマシだ。


 僕は「スノーボール・アース」の杖と、名前のまだない剣をしっかりと握り直した。


 そして、「ギーガさん」たちとともに、一歩を踏み出した。


 異世界に入って初めての「冒険」。

 それは、僕の人生の「第二幕」の始まり。

 つまり、「開幕」という意味だ。


            To be continued

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