000,002 - 女怪異
タイヤが回り、車内が揺れる。
缶コーヒーを口に着けながら、車窓から外を眺める。
暇だなぁ、と思いながら洋太朗はため息をついた。
洋太朗はスマートフォンにインストールしてあったSNSアプリを開いて、フォロワーのイカれた言動をチェック。
ひとりはタイヤにハマりながら、気持ちよさそうに崖を転がり落ちている。
こやつはオフ会で「身体を張った快楽を求めている」と洋太朗に言ってのけた男だった。
アクロバティックなマゾなので、ハンドルネームはアクマゾというものになっていた。
洋太朗は脱糞の歴史をまとめたブログを公開していたことから、「ウンコ」と呼ばれている。
ハンドルネームは「水曜」である。
どうやってそこまで調べたんだと言われてしまうくらいに正確なブログなのでたまに学者が唸るために開いているらしい。ついでに言うと、去年芸人とかいう奴らのラジオで紹介されて、フォロワーが200人増えた。
そこまで大事になると面倒くさくなって、嫌気が差す。
先ほど撮影した海の写真を投稿して、ぽんぽんと「いいね」がふえていく。
その様子に呆れて思わずため息をついていると、足元に白いなにかが転がってくる。
どうやら、隣の大悟がワイヤレスイヤホンを取り出して音楽を聞こうとしたところ、手が滑ってしまったらしい。
「取って」
「待って。……はい。これでオッケー」
ふと、トンネルの中に入る。
洋太朗と大悟は一瞬動きを固めた。
行きはトンネルの中など通らなかったし、なにより海岸沿いにこのような大山を切り開いたようなトンネルがあるのかという疑問はあった。
あるにはあるのだろうが、すくなくとも行きでこの様なトンネルを通った記憶などは存在していなかった。
「おい母さ……」
運転席と助手席を見る。
その瞬間、フロントガラスに女が張り付いた。
バンッ!!
「「キャアーッ!! おばけだーッ!!」」
ふたりは車から転がり落ちた。
車はいつの間にか停車しており、しかも錆びていた。
「あのふたりがいねぇぞ……!!」
「いい歳して迷子か……?」
父と母が見当たらない。
運転席にも助手席にもその姿はなかった。
ここにいるのは、洋太朗と大悟だけ。
「どうすんのこれ……?」
「俺に聞かれても……」
トンネルの中にふたりだけ。
前を見ても後ろを見ても光は小さい。
「どうすんだよ本当によ……」
「歩いてみる……?」
「いつお化けに襲われるかもわかんねぇのに?」
「じゃあ……どうする」
「どうするったってお前……」
とりあえずうんこをしてみることにした。
おばけは汚いものを嫌いそうなイメージがふたりのなかにあった。幸い、長い車中でふたりの腹の中にはうんこがフルチャージされてあった。
「なんでおばけに襲われる恐怖に震えながらうんこしてんだ俺らは……」
「馬鹿野郎、大悟くん馬鹿野郎お前。おしっこもちゃんとエンチャントしとけって」
おしっこエンチャントうんこで防御を固めたつもりだったが、おばけは上から来た。
「「ぎゃーっ!!」」
尻餅をつく。
べちゃっ!
「「うわっ……」」
ふたりは服を脱ぎ捨て、全裸で女の幽霊から逃げた。女は血みどろだった。
大悟いわく、「あの出血量じゃまともに走れや品気から、普通に走ってたら追いつかれることはない」らしい。
女は猛烈なダッシュによりふたりとの距離を詰めた。
「おばけめっちゃエネルギッシュに走ってっけど!? おばけめっちゃパワフルに走ってっけど!?」
「囮になれ陰キャッッッ!!」
「アッッッッ!? テメェこの野郎お前!! 俺を殺してテメェだけ生き残るつもりかッッッ!! お前が囮になれボケッッッ……!!」
女の幽霊はふたり同時に襲い掛かった。
「わァ……ァ……!!」
「喧嘩両成敗……ってコト!?」
女に頭をつかまれ地面に叩きつけられる洋太朗と大悟は全裸である。
「ターッスケテー!!」
その時だった!!