表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪奇エンバーA  作者: 蟹谷梅次
1[エンバー作戦]
1/83

000,001 - 海へ

前作「怪奇エンバー」の続きみたいな感じのやつです。

 2019年。とある夏。水島(みずしま)洋太朗(ようたろう)は宮古市にある海岸にやってきていて、いわゆる観光というやつだったのだが、そこでおかしな物を見る。

 それは簡単に言ってしまえば、変態だった。

 犬のように、首に輪をつけてそこから鎖が伸びているのだが、その鎖を女子大生と思わしき人物に握らせている。

 しかも声を聞いてみればやたら不遜。


(でもなんか、周りの人たちから好かれているらしいな。なんか、とてもとても羨ましいな)


 洋太朗には友人がいなかった。

 コミュニケーション能力が欠如しているところがいけなかったのか。

 なにがどう作用しようと、洋太朗は孤独を感じていた。

 洋太朗にも素晴らしいところはもちろんあるのだが、それが表に出にくい性格をしていた。


 今日は親の再婚に際し、父が提示した「家族の親睦を深めよう」という日なのだが、新しく出来た兄──といっても、誕生日があちらのほうが早いだけの同い年──はヤンキーだった為、恐ろしい。


 しかも今日は強制的に参加させられたので不機嫌気味。

 こんなやつと同じ列──後部座席に肩を並ばされた時は胸の内に遺書を綴っていたのだが……。

 何事もなくて良かったというものだが、帰りも同じ席なのかと考えると少し腹が痛かった。


 父と母はデート気分で好き勝手にやっているが、それに付き合わされている子供とくれば、大した理由もなくギクシャクさせられていて、とてもではないが冗談じゃない。


「性格の合わん人間と無理やり仲良くなったところで……その後悲惨なことになるだけだと、なぜ分かろうとしないのか……?」


 洋太朗は呟きながら、懐からスマートフォンを取り出すと、海の写真をパシャリと撮影した。


 洋太朗も実のところを言うと、強制的に参加させられたので、事前に立てていた土曜の予定をすべて無に帰したというのもあり、苛立ちを隠せそうになかった。


 本人たちは「サプライズ日帰り旅行」のつもりなのだろうが、洋太朗に言わせてみれば社会不適合者の報連相不足だった。だから、「兄」の苛立ちも理解できた。


 そうしてしばらく暇を持て余したところ、父と母が満足したらしく、帰るぞと言ってきた。「ようやくか」と洋太朗は思いながら、踵を返して歩き出したところで、5歳は歳が離れているだろう子供にどんとぶつかってしまう。


「これは、これはごめん。大丈夫、じゃないか。ごめんね、えっと……そうだ、絆創膏持ってんだ。使うかい?」

「怪我、してないからいい」

「そっっっ……か!! いや、本当にごめんなさいね。周りが見えてなかった」

「いい。どうでもいい」

「ううん……」


 少し幸薄そうな顔をした子供に、洋太朗のお節介な心が刺激された。その少しボサボサの前髪を掻き分けて、洋太朗は「君に怪我がなくて良かった」と微笑みかけた。


 そうしていると、兄──水島大悟(だいご)がやってきて、「おせーってよ」と言ってくる。


「ごめんね、じゃあ、俺行かなきゃだ」

「ねぇ、名前は?」

「え?」

「あなたの名前」

「……俺は、水島だ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ