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七。

「紬様。紬様?」

 昨日突然異世界に来て、一夜を過ごしてから気づいたことがある。

 まずはこの城に人がほとんど見えない。

 リルと、料理を作ってくれる人が何人。王様はもちろんだけど、リルの兄弟は誰一人見えない。

 私がただ見つけなかっただけなのかも。


「勇者様?」

 街の中でもあまり通りかかる人が見えなかった。

 適当に状況を受け流してたけど案外、この世界は危ないのかもしれない。


 あっ、待って。

 このままだとまた尻尾噛まれちゃう。


「あっ」

 ぱっと尻尾を引いて、近づいてくるリルから離れる。

 思った通り尻尾になにかを仕掛けようとしたのか、離れる私を見て残念そうな顔をするリル。

「…なにするつもりだったの?」

「噛むつもりでした」

 こんなに素直だともう怒る気もしないわ。


「それより紬様、大変ですよ」

「なに」

「攻められてます」

「なにが?」

「お城が、魔王の部下に」

「ん?」

 お昼ご飯の時間ですよーって言いそうな顔でとんでもないことを口にする。


「のこのこしてる場合じゃないじゃん!」

「大丈夫ですよ」

 呑気だなぁ。


「昨日勇者様も見た通り、普段この城は隠されてますので。正確に言うと今は攻められてるより、入口の近くで彷徨いていると言った方がただしいでしょう」

「入口見つけたら入れるかもしれないじゃん」

「この城への出入りは全部、王が管理するので。魔王が直々に来る事じゃなきゃ大丈夫です」

「そうなの?」

「そうなの」

 都合のいいお城だな。


「大丈夫とは言え、このままだと厄介なので。紬様に片付けを頼みたいのです」

 早速勇者様みたいな仕事が来た。

「うん、任せて」

「凡そ40体程倒せば大人しく帰ると思いますよ」

「多っ」

 それになにそのゲームのクエストみたいな頼み方。


「さぁ、出かける前に支度をしましょう」

「支度?え、まっ」

 あぁあ、情けなく引っ張られるぅ。


 ベッドから無理矢理引っ張り出されて、まともに身支度も出来ずそのまま部屋の外に引きずられた。

「ちゃんと歩いてください」

「急に引っ張られると誰だってこうなるの」

 どこに行くつもりなのだろう。


 気を取り直して自分から歩き始めてたった数秒、遠くに小さく見えていた扉のようなものがいきなり目の前まで飛んできた。これも魔法なのだろうか。

 魔法って、手から火とか水とか出すのが当たり前だと思っていたけど、この世界の魔法はこうやってぱっと現れたり消えたりするのが当たり前のようだ。

 城も盃も扉もぱっと現れたし。


 扉の向こうには僅かな光でも部屋中が眩しく輝くくらい、鎧や刀、槍、盾などがいっぱい飾れれていた。

 ここって、兵器庫なのだろうか。

「紬様、戦いの経験はありますか?」

「あるよ」

「ではこの中で好きな物を持って行ってください」

「……ここで?」

「はい」


 いろいろ多いけど、どれも私には似合わない感じの物しかないな。鎧は私より頭二つくらい大きいし、刀は一番短いのが私の胸元までくるし。

 この世界の人は誰でもこういうの持って戦うの?

 だから力が強かったのか。

 いやぁ、王様に捧ぐ武具だから大袈裟に作ったのだろう。


「紬様は奇麗な尻尾をお持ちですから、あれとかどうですか」

 ここの世界には長い槍を自在に使う、尻尾を持った人の話でもあるのだろうか。

 リルが指さす方を見ると私より長い槍がいた。その横には尻尾が付いた人がこの槍を持ってどこかを眺める絵が、描かれていた。

 槍と一緒に献上した絵なのだろうか。


「あれなに?」

「絵ですね」

「どんな絵なのって意味」

「この槍を見た人が面白半分で描いた絵ですね」

「昔話とかじゃなく?」

「ただの落書きです」

 描いた人が可哀そうだな。落書き扱いされて。


 取り合えず槍を持ち上げてみた。長いから重いんじゃないか心配したけど、意外と軽い。

 でもこれで戦えるのかな。槍はあんま使ったことないけど。

「似合いますよ。落書きに出で来る人みたいです」

「あ?」

 微妙に悪口じゃないかなそれ。


「私は紬様に相応しい着物を持ってきます。外で待っててください」

「え、これ持って?」

「はい」

 そう言ってどこかに消えた。これも魔法みたい。


「ん…」

 大人しくこれを使うしかないのだろうか。

 まぁ、取り合えず使ってみよう。


 壁に当たらないように、ぶんぶん振ってみる。

 私くらいの長さは意外と短いのか、記憶の中で槍を振る人達のように動けない。

 手が短いかいからなのか。


 こうした武器を手に持っていると懐かしい記憶がいくつか頭に浮かぶ。

 神社に近付いてきた動物を追い払った時は、人を切った時や、町ごと燃やした時とか、戦争に呼ばれていいこと言ってみた記憶とか。

 やっぱ長生きすると思い出も多くなるもんだね。


「お待たせしました」

「ぉん……?」

「どうか、受け取ってください。似合いと思います」

 リルがRPGの初心者向け装備みたいな見た目の服を持ってきた。

 動きやすそうで、それなりに体も守ってくれそうな服。


「着替えは一人で出来ますか?私が手伝ってあげても構いませんよ?」

「私が服も一人で着替えないと思ってるの?」

「少しは思ってます」

「なんでぇ」

 素直だな。傷つくけど。


「こう見えてもリルより長く生きてきたんだよ私」

「そう見えますけど、見た目だけで判断すると痛い目を見ると教わったので」

「いい教育だね…」

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