四。
最初は怖かった馬の上でも、何十分も揺られ続ければかなり慣れて…飽きてしまう。
周りの景色を眺めて話し合うことができることがなくて、もっと飽きたのかも。
「いつまで乗るのー…?」
「もうすぐ着きますよ」
「さっきからもうすぐってしか言ってないじゃん」
「勇者様って、貫禄がありそうな見た目とは違ってかなり駄々っ子ですね」
さらっととんでもない悪口が飛んで来た。
私、老けて見えるのか……
こう見えてかなり管理したのにね…まだ二十歳に見えますよってよく言われて来たのに……
みんな、嘘だったのか…
やっぱ31歳っておばさんなんだよな…
はぁ……そろそら人間辞めて神様に戻ろうかな。
神様なら見た目なんてぱっと変えれるし、いいよな。願いも叶えてくれるし。
「それよりお話しましょう?私、まだ知りたい事がたくさんあります」
「うん…」
落ち込んだら話題変えられた。
言葉はめっちゃ鋭いけど、根は優しいのかもね。
「勇者様はここに来る前までどんな仕事をしてたのですか?」
「んー…」
仕事って…意外と一言でまとめられないな。
デザイン、広報、それに撮影…全部私の仕事だったけど、私後ろから指図くらいしかしてないし。
それに話して面白くなさそう。
神様もやってたからそっちの話しをしよう。
「何でも屋さんだったね」
「何でもするんですか?」
「うん」
ここも何でも屋ってあるんだ。
「だから言葉が通じたんですね」
「まぁそういうこと。私物知りだから」
まぁそんなことないけどね。
やっぱ神様って便利だな。言葉とか勉強しなくても話せるし。
喉に自動翻訳機能が常に付いてるから楽だよ。
なんかロボットみたいだ今の。
「詳しくどんなお仕事をしたのか、気になります」
「えーそれ聞くの?話したら駄目なのばっかだけど」
「そこを、なんとか」
かなり聞きたがるねぇ。
まぁいいか。もう何百年前に死んだ人の話くらい、ぺらぺら喋っても問題ないだろう。
この子、恋バナが聞きたいみたいだし…あれにするか。
「じゃあー…一つだけ。どこかで話したら駄目よ?」
「はいっ」
おぉっ、抱き着いてきた。
「私がその仕事を受けたのは、もうかなり前だったなぁ。新入りの頃だったし」
本当は新入りの頃じゃないけどね。
「紅葉が山を覆い、秋風がそよぐ尻尾に誰か触れて来たんだ。自分の旦那が浮気をしているみたいで、証拠を探してって言いながら」
「ほぉ……?」
神様にそんな頼み事をするなんて、当時は全然思えないことだったな。私もびっくりしてたし。
「その時は別の仕事で隠れてたから……」
「勇者様、スキップ」
「えぇ…?」
「浮気の現場を定めたところを話してください」
全くぅ…最近の子は……大人の話を面白くないって理由でいらないもの扱いするんだから。
「まぁ……浮気の証拠はなかったけど……」
「じゃあ奥さんはなんの罪もない旦那を疑ったんですか?」
「浮気の証拠なんて気にしなかったのよその人は。ただ旦那さんが目障りになって、浮気したように飾っといて蹴落とすつもりだったよ」
「まぁ……!」
こういうの好きなの…?ちょっと変わったな…
「それはとても気になる話ですね。後でちゃんと聞かせてください」
「後?ついたの?」
「はい」
「でもここ森の中だよ?」
もしかしてここから転移みたいなのをするのかな?
「ふふ、実は入口が隠されてるんですよ」
そうじゃないみたい。
「どう見ても森……え、えぇ?!急に城が出た!」
なになに?魔法ってやつ?
先程まで木々に埋められていた空間は消え、頭が痛くなるくらい高い城壁がそこに聳え立っていた。
見上げても先が、終わりが見えない。
「ふふふ、どうですか?かっこいいですよね?」
「すごぉい」
こういうの立てるくらいなら私いらなくない?
「正式に紹介しまう。私、ミルシア国の姫リルと申します」
なんか、なーんか…丁寧に言ってるけど丁寧な感じがしないよな。なんでだろう。
「姫で、長女なので。父上が亡くなれば王になるかもしれません。その時はよろしくお願いしますよ」
物騒なこと言ってんな。よろしくって言ってるし、自分で殺っちゃったりしたのかも、お父さんのこと。
ま、そんなわけないか。