三。
「わぁあ…!」
教会から出てすぐ、私を迎えたのはだだっ広い草の原だった。
まさに大草原。
こういうところを自分の目で見るのは初めて。
カメラでは留められないこの感じ、最高だ。
異世界いいねぇ。
「あ、こっちです勇者様」
「うぐっ」
ひ、引っ張られた…無様に、手首をぎゅっと握られて……
こういう扱いされるのは子供の頃以来だよ。
「乗ってください」
「なにこれ……?」
「見ての通り、馬です」
「いや、なんで…?」
この世界、変。
「さぁ早く、夜になっちゃいますよ?」
こういう場合、豪華なお城の中とかで召喚されるのが普通じゃない?
なんで私は初めて見る桃色の人と同じ馬に乗らなきゃいけないの。
せめてかっこいい王子様にして。
「乗れって…?」
「えぇ、こう見えても私、乗馬には自信がありますよ。速さだけ言ったら国の中で一位なのかもしれませんね」
速さだけってなにぃ。めっちゃ怪しいな。
これ本当に大丈夫?バイクも二人乗りは危ないのに、馬だよ?
「馬には、乗ったことないけど……」
「大丈夫ですって」
大丈夫って言っても…
「ほら、まずは足を……」
うあぁ強引に乗せられるぅ。
「ひっ」
た、高い……てかめっちゃ慣れてるなぁ。
人を馬に乗せることって慣れる行為なんだ。
「じゃあ私も…失礼しますよ?」
「え…?」
なんで後ろに乗るの…?
ま、前に乗った方がいいじゃないの?
「行きますよ?」
「あ、まっ…」
動いたぁ…!!もう降りれない!
いやだぁ怖いぃ!!!落ちちゃうぅ!!
「……あのぉ、そんなに動くと…」
だ、だんだん早くなってない……?違うよね?
速くなってないよね?
「……はっ…柔らか…!」
柔らか…?あ。
尻尾出しっぱなしだった。
「ゆ、勇者様の世界では…みなさん、こういう立派な尻尾をお持ちになってるんですか?」
私の尻尾の魅力を知るなんて、この子はいい子だな。
「ふふん、私だけだよ。私、ちょっと特別なので」
「ほぇー…やっぱ勇者様は特別なのですね」
「だからって勝手に触りまくるのは止めて欲しいな」
「駄目ですか?こんなにもふもふで、ちょっとぽかぽかして気持ちいいのに」
「ふふふ…しょうがないな」
あんなこと言われたら触らせてあげたくなるのが人の心だ。
もっと尻尾を感じさせるように、後ろに押しつけてみた。
「はぁっ…」
期待通りの反応。
気持ちいのに触れた時、無意識に出ちゃう声だ。
「君だけだよ?存分に味わいなさい」
「ふぇえ…」
あれ、なんか……
本能が叫んでる…!
慌てて尻尾を引いてみたが、悪い予感から逃れる事は出来ず。
「うああ!なにするの!」
「甘い味がします」
思いっきり尻尾を噛まれた。
「よくも人の尻尾を!」
「人には尻尾がありませんよ」
「ぅぅぅ…!」
なんだよ今の返事…世界が違うと人もこんなに違うの?
「もう少し速くするので、少しじっとしてください」
あ、ここでもって速くなったら…
「へ?」
気付いたら走ってるじゃん!!
全然気づけなかったぁ!しかももっと速くなったるし!
「死ぬ!これ落ちたら絶対死ぬよぉ!」
「だからじっとしてください。死にたいですか?」
「やだ!」
ここやっぱ変。
いつかここの神様と出会ったらいっぱい文句言ってやる。