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二十。

 剣に慣れるように揮っていたらいつの間にか、日が沈み始めていた。

 ヤノはいつ来るんだろう。そろそろ帰りたいけど。

 帰る前にあの城っぽいとこも探るのも必要だな。

 んー……ここに来るまでの時間を考えると、帰りは早くても一時間はかかる。もう今日は外で寝ようかな。夜中に森の中を歩く自信がない。迷子になりそう。


 よし、帰りは明日だ。

 今日はゆっくり行こ。

 じゃあヤノが来るまで少し休憩でもしてるか。剣にも慣れたし。


 剣を地に刺して、石に座る。

 夕日に暖められた風が心地よく、体を包んだ。一生懸命動いた今日の疲れがすっと消えて行く錯覚がするくらい、心地よい風だ。

 風だけじゃなく、眺めもまた心地よい。


 赤みを帯びている空はとても綺麗だ。

 太陽に照らされ、緑を増す草原も綺麗だ。

 目が少しぼやけるほどの光を放つ日も綺麗だ。


 絶景とはこの事だろう。


 太陽の光をそのまま返す茂みとは真逆の、光を全て飲み込んだ森の中もまた素敵な雰囲気を出している。

 中に足を踏み入れば食われるだろう。

 入り口も出口も、道すらもない森の中に吸い込まれて、もぐもぐと。消化しやすいように、隅々まで噛まれ、ごっくんと。


「ん…」

 ふと、足元をくすぐる草の存在に気づいた。

 これは自分達を踏みにじんだ私への反撃なのだろうか。これ以上踏まないで欲しいという願いを込めた触れ合いなのかも知れない。


 自分が一生懸命に剣を奮っていた場所を見ると、草は踏まれており、土は切られてしまって、ところどころに死を感じさせていた。

 もうこのような事は止めて欲しいのだろう。

 だが、その願いは叶えられない。


 代わりに私が壊した分を蘇らすのは出来る。


 死に掛ける場所を巻き戻そうと、力を放った。

 目に見えない私の力は悠々と惨劇の場まで飛び、地に吸い込まれる。

 すると、切り裂かれた地は静かに盛り上がり、草の芽がゆっくりと顔を出す。

 風にそよぐ草むらの姿は、まるでありがとうと告げるようで、何事もなかったかのようで、満足した。


 言葉が通じない相手との会話方法は、触れ合いしかいない。

 それは言葉を拒む、話を理解した者にも同じだ。


 何かの気配がし、視界を移すとそこには人が立っていた。

「構え」

 ヤノと同じ形の角を持った、人。

 神ではない。


 手合わせの相手はこの人なのだろうか。にしてへかなり敵意が感じられる。

 殺意と言ってもいいくらい、鋭い感情の現れ。

 実戦は何よりも頭に残るのだが、ここで殺し合いをするつもりはないけどな。


「戦いを拒むか」

「そういう趣味ないからね」

 まぁ、拒んでも逃してくれる感じはしないね。


「ならば、切られるのみ――!」

 唐突に私の前に現れた人は、武器を構え、突っ走て来た。

 真っ直ぐに私の頭を狙う。


 どこからどう攻めるかが全て見える正直な攻撃。

 こんなもん、誰にも通じないだろう。


 近くに刺さっていた剣を引き抜き、斬撃の軌道に合わせて振り払う。

「――っ!?」

 この剣は相当鋭くて、相手の刃をそのまま二つに分けてしまう。

 めっちゃ凄い物を貰っちゃったね。


 一回の触れ合いで武器をなくした相手は一瞬止まる。

 その隙を狙い、剣を握っていた右手を切り落とす。


「う、ぁ……っ?」

 なんだか体も早くなった気がする。

 鋭いだけじゃなく、何らかの力も与えてくれるのだろうか。

 正に神様からの贈り物だ。


 腕を失い、呆然と私を眺める相手に止めを刺すべきなか。

 それともヤノの帰りを待つべきか。


 一旦殺すか。

 殺してはならない相手だったとしたら、後で蘇らせればいいだろう。


「ぁ、ま…まっ―――」

 慈悲を乞う声が聞こえるよりも先に首を切り落とす。


 首が落ちてもまだ生きているような気配がする。

 このまま放っておいたらいつの間にか起きて、自分の頭を片手に持ってもう一回戦うんじゃないかな。それ嫌だな。

 生きていても戦えないように切り刻んでやるか。


「げっ」

 尻尾に血がついちゃった。

 血は落とすの大変だから嫌なんだよな。匂いも残るし。


 そうだ、魔法でどうにかなるんじゃないかな。

 リルも私を洗う時魔法を使ってた。

 後で使ってみよう。


 それにしても、無理矢理攻撃した割には弱い相手だったね。もしかして手合わせの相手じゃなかったんじゃないかな。全く関係のない、頭が狂った人だったかも。

 でも角の形がヤノとそっくりだったのに。

 偶然だったのかな。私も私と尻尾の形が同じ狐があったからね。


 まぁヤノが来ればわかるだろう。

 もう一回、休憩の時間だね。

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