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十四。

 ぼんやり森を眺める、狼の頭を持った敵に向かって走り出す。

 2秒以内に届く距離だ。


 1秒。

 未だに気づかれてない。


 2秒。

 目の前まで近づいてやっと私に気づいた狼が、私の方に体を回した。

 おかげで柄がよく見える。


 狼の腰辺りにある剣の柄を握り、思いっきり引き抜く。勢いに負けて体がぐるりと回るくらい。

「ふっ!」

 ぐるりと回る勢いのまま、首を狙って剣を振った。


 硬い物を殴ったような振動が剣から伝わる。同時に生温い血液が私を覆った。

 今回は、きちんと首を切った。

 どれだけ見た目が違うとも所詮は動物なのだろう。

 切ろうと思えば、切れる。


 剣に付いた血を振り払って、周りを見回す。

 まだ私に気付いた奴はいないみたいだ。ちょうど木陰の中で、大きな音も響いてないからだろう。

 今なら数匹くらい戦わずとも殺れるだろう。

 今日は運がいい。


 あ、近付いて来る奴がいるな。

 見付かったら騒ぎになるから今仕留めておかないと。

 薄っすらと私の存在を感じているのか、武器を手に取って歩いて来る牛に向かって走り出した。


 刃先が届く距離まで近付いて、目玉に向かって剣を突き刺す。

 こいつら、体の骨は硬いのに頭の骨は柔いのだろうか。

 眼球だけを狙った剣は頭の深くまで沈み、頭を貫いてしまった。


 剣が頭の中に留まった隙に横から誰かの気配を感じた。横を向くとやはり、一匹の狼が私に向かって走っていた。

 こいつ一人で来たんじゃなく仲間と一緒だったのか。

 確かに昨日よりは整っている。


 頭から剣を取り出した頃には既に奴の間合いに入ってしまうだろう。

 なら。


 目の前で崩れて行く牛から武器を奪い、私に降り注がれる剣に当て――流す!


 私を狙う刃はするりと下に落ちて、宙を切る。

 久々にやったけど上手く流した。

 しかし、剣は流れど私を狙う敵意は流れず。技の成功にはしゃぐ暇などいない。

 今のうちに攻めなきゃ。


 姿勢か崩れ、刃先に近付いて来た喉に思いっきり。

 剣を突っ込む。

「はぁっ!」


 またも硬い物を殴ったような振動が伝わって来る。

 よく切れるのに、硬い首をしてる。

 不思議な体をしてるな。


 喉に深く刺さった剣をゆっくり、抜く。

 周りに近付く敵の気配は感じられない。

 ようやく静かになったな。


 まだ倒した10倍以上は残ってるって事かぁ。

 疲れたのにね。

 槍の回収もしなきゃいけないし。

 大変な仕事だな。


「……ん?」

 私の後ろから、草むらを踏む音がした。

 まるで足を踏み入るような音。


 それになんだか静かだな。

 妙な感覚が背中を走る。

 大昔、背後を取られた時と同じ感覚だ。


 耳を済ませ、足音を拾う。

 六つ。三匹の音が聞こえる。

 今日は運がいいと思っていたが、全然違ったみたい。むしろ運が悪い日だ。休む時間もなく仕事をやらなきゃいけないなんて。


 まぁ、落ち込む暇がないのがせめてもの救いだろう。


 振り返ると既に剣を突き上げていて、今にも振り下ろそうとする牛がいた。

 二匹の牛は後ろからじっと私を眺めている。こいつが剣を振り下ろせばすぐにも駆けて来そうだ。

 流石に三匹同時とか無理だ。

 目の前に一匹しかいないうちに数を減らさないと。


 剣が振り注がれる前に、地を蹴り横に跳ぶ。

「っ」

 躱すには少し遅かったみたいで、尻尾の先っぽが切られた。

 でも、ここなら狙える。


 二歩くらい離れたところに着地した私は、剣を構えて大きく足を踏み出す。

 狙いは、守りが少ない首。


「はっ!」

 今度はあまり振動が感じられない。

 そろそろ、首を狙うのが慣れたんだろう。


 喉を貫かれた牛は呆気なくその場に崩れ落ち、それを見た違う牛達は早速私に向かって走って来た。

 牛との距離はまだ遠い。でも深く刺さった剣の回収は出来ないと思える。

 だから崩れ落ちる牛から剣を奪い取って二歩、後ろに下がる。


 ちょうど下がった頃には二匹とも私の前まで来ていて、一匹は私に攻めかかっていて、もう一匹は死体の方を回収しようとしていた。

 うんうん。友の死体を投げ捨てるなんて出来ないんだよね。

 お陰で楽になった。


 私のすぐ前まで来た牛が剣を構えるよりも早く、足元の土を蹴り上げる。

 目を狙った土は丁度良く牛の目玉に直撃する。

 前が見えなくなった牛は一瞬、体の動きが止まる。


 もう一匹の牛は額がよく見える体勢になっていた。

 逃げるにも、戦うにも難しい姿勢。

 やっぱ二足で歩く動物は足元の何かを拾う為には必ず姿勢が低くなる。


 二匹とも真面に動けない今、私は剣を構えて走り出す。


 姿勢が低い牛の前まで近付き、脇腹の横に構えた剣を左から右へ大きく。

「ぁ……?」

 骨を切って、刃が頭の中に入ればいいと思った私の予想とは違い……頭の上の方が丸ごと切り落とされた。

 血が飛び散って、脳が空気を直接吸える状態になってしまった。


 呆気に取られるのも束の間で。

 隣を向くと、目に土が入ったままの牛が私に駆け寄っていた。

 前はまだよく見えないみたいで、真っ直ぐ私に向かうんじゃなく少しずれた方向から近付いていた。


 視界もずれてるのに大胆だなって思いながら。

 私は近付いて来る牛を迎え撃つ為に構えた。


 少しずれた軌道のまま、牛が勢いよく私に剣を振るう。

 そっと頭を下げるだけて簡単に避けれるくらい、軌道がずれた一撃。


 軽く牛の斬撃を躱してから、その胸元に深く剣を突き入れた。

 鎧も、皮も、肉もまとめて貫かれた牛は、ゆっくりとその場に倒れ落ちる。


「ふぅー……」

 なんだか、かなり力が強くなった気がする。

 昨日は腕を落とすのもやっとだったのに、今じゃ首を落とすのも息をするみたいだ。


 ここの食べ物って食ったら強くなったりするのかな。

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