十三。
城壁を超え、森の中に足を踏む入れば…城は消える。
何度見ても不思議な光景だからつい振り返ってしまう。
私が何人並んでも届かないくらい高い城壁が突然消えるのだ。
最初からそこに存在してなかったように、痕跡すら残らず全てが空に。
本当どうなっているのだろう。
急に消えたり現れたりする城も不思議だけど……
「はぁ…」
これから素手で頑張らないといけない事に少し落ち込んでしまう。
私も少しは神様みたいに戦いたいな…
雷を落としたり、体が沈むように雨を降らせたり、台風でぶっ飛ばしたり。ほかの神様はめっちゃ簡単にそういうのやってたのにね。
でも私そういうの苦手なんだよね。
私ったら昔から体で働いてたな。走ったり切ったり殴ったり。
全然神様らしくない。
今回は少し神様っぽくやっちゃおうかな。
うーん、でも…雨とか降ったら逃げちゃいそうだな。晴天で雷は無理だし。
森で火は下手したら取り返しのつかない事になるから避けたいな。
あー…結局は体でやるしかないじゃん。
嫌だな。
仕方ないな。
「ふぅ」
頑張ろう。
ちゃちゃっと終わらせて街中でも食べ歩きしちゃお。
今回はどうしてか、敵が集まっている場所を教えて貰った。長く森の中にいたら段々分かれるようになるとか。
ここから東にちょっと行けば野営してるのを見つけられるらしい。
地図から見れば、ここら辺。
「ん」
最後にもう一度地図を確かめて、仕舞う。
よし、行くか。
ここから北に向かって走り出す。
風を掻き分け、木々を揺らしながら。
真っ直ぐに。
森の中を走ると、風になったような気分になる。
自分の動きに従い動く草むらのせいで、私の速さに応じて踊る枝のせいなのだろう。森を走り抜ける私の姿を『風のようだ』と言ってくれた人がいたのも理由に一つだ。
「うっ」
食事後のランニングはやっぱりキツイな。お腹の辺りが痛くなってきた。
もっと痛くなる前に走るのを止めた方がいいのか。でもどうせ戦う時になるとあちこち走っちゃうはずだから、先に痛みに慣れた方がいいんじゃないかな。
ああだんだん、くるぅ。
痛くなる。
今更止めても痛いのは止まんない。我慢して進むしかない。
美味しいからって食べ過ぎはよくないなもう。
お腹の痛みをぐっと堪えながらもっと足に力を込める。
もう私に残ったのは早く終わらせて帰る事しかない。
「はぁ……ふー…」
時々寄って来る痛みの波を何度か乗り越えた先、目標の野営地が見えた。
昨日より敵は減ったように見える。今数えるのは37匹くらいだ。どこかに隠れている様子は見えない。ここにいる奴らが全てなのだろう。
先日は200ちょっとだった兵が、今じゃこんなに減ったのか。
少し怖がらせただけでこうなるなんて。
ちょっとがっかりした。
リルの国はこんな奴ら相手に負けているのか。
いや、ここに来たのが臆病達なだけで、ちゃんとした敵も多いのだろう。
あの中にも、怯えて逃げ回っていた兵を纏めてそれっぽい軍に作り上げた奴がいる。
油断はよくない。
私だって下手したら死んじゃうから。
先ずは偵察だね。
バレないようにこっそり辺りを見てみるか。
「……」
それっぽいどころか、ちゃんとした部隊に見えるな。警戒もしてて、昨日みたいに飛び出したら囲まれる配置をしている。
無暗に走るのは無理だ。
残ったのは精鋭なのだろうか。体もちょっと大きいし、鎧とかは高級な物みたいだ。全体的にキラキラしている。
槍に刺された奴は見えない。
真ん中くらいにはテントが張られてる。あの中にいるのだろう。
武器の回収も難しくなったな。
「ぅぅ…」
素手では暴れるような感じがしない。昨日みたいに戦うのが一番私らしい戦い方なのに。
こっそり一人ずつ、ゆっくりやるしかないのか。
でも私拳で戦うのは苦手なんだよな。
いや、奪って戦えばいいんじゃない?
気づかれる前に近づき、鞘に納まってある剣を奪い取るのは可能なんじゃないか。
うん、できそうだ。
じゃあやるか。