十二。
「紬様、紬様」
「ん……」
「侵入者ですよ。起きてください」
朝から不穏な知らせだな。
「昨日の残りが再び集まって、この城を探しているみたいです。ちゃんと始末してください」
「はぁぅ……うん…」
もう、怖くて逃げたくせにのこのこ戻りやがったな。
今日の残りは皆殺しにしてやる。
ま、できないけどね。
武器もないし。
「あと、槍の回収もお願いしますよ」
「なんで」
「どれだけ使えなくてもその槍、祖父から兵器庫を守ってくれた守護神みたいなやつなのです」
祖父の頃からだともう武器として使えるのは無理じゃない?
私をそんな物で戦わせたのか。
途中で壊れなかったのが幸いだったな。
「はぁい……」
助ける気はないのかな。
自分でなんとかしなきゃいけないのかな。
武器もないのに。
あーあ、めちゃくちゃ難しい仕事だな。
「耳をぴょこぴょこさせても私は手伝いませんよ」
「けちー」
「こんな仕事の為に勇者様がいるのですよ。自分の価値を示すと思って頑張ってくださいね」
素手で出来るかな……
「また耳が動いてますね」
「うぅ…」
助ける気はちっともないみたいだ。
酷いな、こっちは命懸けで一生懸命戦ってるのに。
「それより紬様」
「なに」
「紬様は耳が二個あるんですか?」
あ。
耳見えちゃった。
まあいいか。尻尾も触る仲だし。
「そうなの。二個」
「不思議ですね」
「ふふふ」
私の耳を見て、リルがとても触りたがるような眼差しを向けてきた。やっぱこのもふもふする毛並みを見たら誰だって心を奪っちゃうのよね。
人々の中で生きる時も、これ見たらみんな触りたいって騒がしかったんだもん。
だから隠してたけどね。
「触ってもいいよ?もちろん優しく」
「はむっ」
「きゃあああやったなぁ!!」
「少し甘みが減りました。これは困りますね。私、甘くない紬様は嫌いです」
「人はもともと甘くないの!しょっぱいの!」
変な趣味してるなぁ。
「紬様、紬様の毛はどうやれば甘くなるのですか?」
「甘くないの!」
この子には隠しといた方がよかった。
うぅ、でも今さら隠したらなんか負けた気分だし。
我慢するしかないかな……
「甘い物を目一杯食べさせたら甘くなるのでしょうか」
「ならない」
「試す価値はあると思います」
「ない」
「私達の円滑な共存の為に紬様の毛が甘くなるのは必要なことです」
「リルなら甘くなくても生きていけるよ」
「死んじゃいますよ」
「死ねばいいじゃない」
「なんて酷い言葉を」
人の毛を勝手に噛む奴なんて長生きする必要なんてないと思う。
「とにかく紬様、朝ご飯です。起きてください」
「……うん」
いつも思うけど、切り替え早い。
遊ぶ時は全力で遊んで、頑張る時は全力で頑張るタイプなんだね。なにもかも任せてゆっくりしてても大丈夫そうって安心感がある。
仕事仲間で最高な人だ。
「紬様紬様」
「なに」
「尻尾を噛まれるのも嫌いですか?」
「当たり前じゃん」
「じゃあ次からは頬っぺたを噛みます」
「なんでそうなるのよ」
「私、人を噛む事が大好きで」
「変態じゃん」
「そうです」
仕事仲間ではいいかもしれないけど、友達としてはあまり……
仲良くなりたくない。
変なとこ噛まれちゃいそう。
「うわあああ、なんで近づくの」
「紬様を味わいたくてつい」
「はぁ?」
「禁断症状です」
「自分の指でも咥えなさい」
「嫌です」