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十。

 ご飯を食べて、やることもなくだらだらと部屋で時間を過ごすのももったいない気がして。

 リルの部屋まできた。

 お姫様だけど、朝から私を起こしにきたんだからきっと暇なんだろう。


 そっと扉を開けて、中を覗いてみる。

「……?」

 中には眼鏡をかけたまま、机の上をじっと眺めるリルの姿が見えた。その顔はとても真剣で、重い選択を前にしていた時と見える。

 ほかに人はない。


 普段は適当に生きてるように見えるのに仕事の時は真面目なんだね。

 ちょっと見直した。


 これは邪魔するのも悪いし、大人しく帰るか。

 リルの部屋から離れてあてもなく城の外を目指す。

 観光しよ。ここ今まで一度も見た事がないところなんだから、きっと楽しいはず。


 尻尾は隠した方がいいだろうか。隠したら毛が乱れて嫌なんだけど。

 勇者様の証って言ったら信じてくれるかもしれない。この世界の神様の好みって事にしちゃお。


 こんこん。

 踵が床を踏む度に響く音に合わせて尻尾を右に、左に揺らしながら城を抜け出した。

「んーっ」

 外には灰色が混ざった空が私を待っていた。


 真っ青な空も好きだけど、こうしてほんのり…曇ったように白く霞んだ空も好きだ。

 こういう日は風が涼しい。


「あー……」

 ここにも四季があるのだろうか。

 もしあったら、今は春なのだろう。


 どこからか風に乗って、私の鼻をくすぐらせる花の匂いに気を奪われてしまう。

 甘いようで、酸っぱいような、初めて嗅ぐ匂いだ。

 この世界にしかいない花なのだろうか。


 香る花を探して周りを見渡してみる。

 相変わらず広くて、虚しい建物が多い。花らしい植物は見当たらない。

 花の香りじゃなかったのかな。

 どこかに隠れているのか。


 よし、今日は花を探そう。

 この匂いの元を確かめるのだ。


 一度、目を閉じて深く息を吸う。

「すーっ」

 未だに花の匂いは漂っている。

 近くにあるはず。


 吸った息を短く、吐き捨てる。

「は」

 物陰に隠されてる可能性もある。

 探してみよう。


 でも、近くに影を作れるようなものは見当たらない。

 もしかしたら草むらの匂いなのかもしれない。

 足元の茂みに向かって体を屈んで、すーっ。

 息を吸ってみる。


「ん…」

 普通の、植物の匂いがする。夏によく漂う匂い。

 よく見たら見た目もいつもの草と似てるように見え始めた。

 そう見えたらなんだか太陽も同じやつなんじゃないかって思ってしまう。

 太陽も、草も、実は同じで、私が変になっちゃってこんな幻が見えるとか。

 まぁそんな訳ないけど。


 神様が見るのはいつも真実だけだし。


 ゆっくり立ち上がり、歩いてみる。よくわからないけど右に。

 右の端に花壇のようなものが見えた。

 あの花壇にあるかもしれない。


 近づく度に、匂いがだんだん濃くなる。

 正解のような気がした。

 どきどきする胸を抑えながら一歩ずつ、ゆっくり歩いて近づく。


 花壇の中は緑色ばかりなのだ。しかしこの不思議な匂いは確実に私を包んでいる。

 緑色の花を咲かす植物なのだろう。

 よくよく見たら、バラと椿をよく混ぜたような葉っぱ達が見える。

 あれが花なのだろう。


 ちょっと予想外だな。

 こんなに香るんだから、見た目も派手なんじゃないかって思ってたのに。

 まぁ、仕方ないか。


「そこの狐様、少しいい?」

「ん?」

 花に触れようとした瞬間、後ろから呼びかける声が聞こえてきた。女が演じる男の子の声っぽい。


「あら、素敵な顔」

 振り返るとなんと、顔を褒められた。

「誰?」

 でも、私の顔が好きで褒めたようには見えない。


 なんかよくない気がするな。


「私、ルリって名前だよ。ここの姫様」

「へ?」

 リルとルリなのか。

 王様ったらちょっと名前が適当なんじゃないかな。

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