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第4章 秋の選択

朝夕の冷え込みが強くなり、谷全体が色づき始めたころ、レイノルズの畑も黄金色の光に包まれていた。ブドウの房はたっぷりと実り、収穫を待つばかりの状態だった。しかしその美しさとは裏腹に、レイノルズの胸にはどこか不安が残っていた。


「今年は豊作だな。」


カイルが黒い羽を軽く揺らしながら、畑の中を歩いている。収穫を控えたブドウの房を手に取り、まるで命そのものを感じるように目を細めた。


「これが全部ワインになるのか……命を絞るみたいだな。」


その言葉に、レイノルズは一瞬手を止めた。


「……お前、本当に変わったことを言うよな。」


「だって本当だろ?」


カイルは振り返り、少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「でも、命を捨てるわけじゃない。形を変えて、新しい命になるんだよな。」


その言葉に、レイノルズは苦笑を浮かべた。


「そんな風に考えたことはなかったな。俺にとってはただの仕事だ。」


「だから面白いんだよ、お前の世界は。」


カイルの金色の瞳が畑全体を見渡しながら輝いている。その無邪気な姿に、レイノルズは胸の奥で何かが揺れ動くのを感じた。



その夜、レイノルズは収穫の計画を練りながら、ふと手を止めた。カイルの言葉が頭をよぎる。


「形を変えて、新しい命になる……か。」


その考えが、レイノルズの中で小さな希望を灯した。彼は過去に縛られ、自分の失敗や苦しみに埋もれていたが、カイルとの時間がそれを少しずつ変えている気がした。


だがその時、不意に外から聞こえてくる足音に気づいた。軽やかで、どこか馴染みのあるリズム。振り返ると、カイルが黒い影となって戸口に立っていた。


「起きてたのか?」


「お前が働きすぎるから、様子を見に来た。」


カイルは無造作にレイノルズの横に座り、作業台に置かれた古い地図を覗き込んだ。


「これ、収穫の計画か?」


「ああ。今年は量が多いから、少しでも効率よくやらないとダメだ。」


「……俺も手伝うよ。」


その言葉に、レイノルズは驚いて顔を上げた。


「お前、何か企んでるのか?」


「何も。ただ……一緒にやりたいだけ。」


カイルの言葉には、いつもとは違う真剣さがあった。それに気づいたレイノルズは、言葉を飲み込み、静かに頷いた。



数日後、収穫の準備が整い、二人は早朝から畑に出た。秋風が冷たく吹き抜け、ブドウの香りが一層強く感じられる。


「今年の収穫は特別だな。」


レイノルズが手を動かしながら言うと、カイルは小さく頷いた。


「そうだな。谷全体が喜んでるみたいだ。」


その言葉に、レイノルズは思わず笑みを浮かべた。


「谷が喜んでる……そんな風に考えたこともなかった。」


「お前、もっとこの谷の声を聞けよ。」


カイルの言葉はどこか真剣で、レイノルズの心に響いた。彼は谷を愛しているつもりだったが、それがただの義務になりかけていたことに気づく。


その時、空が暗くなり始めた。遠くで雷鳴が響き、風が一段と強くなる。


「嵐が来る。」


カイルが呟き、金色の瞳が空を捉えた。


「収穫を急ぐぞ。このままじゃ全部ダメになる。」


レイノルズは声を上げ、作業を急がせた。カイルもその言葉に従い、手際よくブドウを切り取っていく。



嵐の中での作業は過酷を極めた。風雨にさらされながらも、二人は必死にブドウを守ろうとした。


「お前、休め!」


レイノルズが叫ぶが、カイルは手を止めない。


「大丈夫だ!」


その声は嵐の音にかき消されそうになるが、二人の目は互いを捉えていた。


やがて嵐が過ぎ去り、二人はぐったりと座り込んだ。畑の多くはダメージを受けたが、守り抜いたブドウがそこに残っていた。


「……守れたな。」


レイノルズが息をつきながら呟くと、カイルは静かに笑った。


「お前も、結構やるじゃないか。」


その言葉に、二人は笑い合った。そして、カイルの黒い羽が雨に濡れて輝いているのを見て、レイノルズは初めて彼の存在がどれほど特別かを実感した。


「カイル……お前がここに来てくれて、本当に良かった。」


その言葉に、カイルの表情が柔らかくなる。


「お前も、な。」


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