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鳩の縛め  作者: ベンゼン環P
第三章 口舌り
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第七節 第三十三話 開封

 ウラヤにあるヤマの医院の脇、1人の少年が植え付けられたツツジに水をやっていた。

 ユミはその背後から声をかける。

「ハリ!」

「ユミおねーちゃん!」

 ハリは振り返ると、柄杓を片手にとてとてと駆け寄ってくる。

 嬉しそうな表情を浮かべていたのも束の間、ユミの後方へ眼をやるとふくれっ面を見せた。

「なんだ、今日はギンくんか……」

 失礼な物言いにも関わらず、歩み寄ってくるギンは穏やかな笑みを浮かべている。

「こら、ハリ。そんなこと言っちゃダメ。ハリがそんなんじゃ、将来素敵な鴦も現れないよ」

「いいもん! ぼくにはお母さんとユミおねーちゃんとソラおねーちゃんと、それにサイおねーちゃんがいるもん!」

 ハリは腰に手を当て胸を張った。

 その言動にユミは呆れてしまう。そして横目にギンを睨みつけた。

「ギン、なんかハリに吹き込んだ?」

「え? オレのせい?」

「……いや、昔のギンよりひどいかも。歳相応のうわごとだとは思いたいけど」

 ギンも5年ほど前の自身の振舞いを思い出すと恥ずかしさがこみあげる。

 しかし口には出さないものの、ユミもあまり人のことを言えないのではないかとギンは感じていた。

 現にハリを相手に、顔を綻ばせているユミからは邪悪な印象を受けてしまう。

 

「もー、ハリはしょうがないなぁ。ほら、飴あげる。村のお友達にも分けてあげて」

「ありがとう!」

 ハリは差し出された小さな紙袋を受け取ると、両手をあげて喜んで見せた。

 しかしすぐにギンの存在を思い出し、彼に向かってびしっと指を差す。

「ぼく友達と遊んでくるけど、ソラおねーちゃんに変なことしないでよ!」

 それでもギンは動じない。しゃがみ込んでハリと眼の高さを合わす。

「ハリくん。お兄ちゃん、ちょっとだけソラさんに大事なお話があるんだ」

「ま、まさか鴦になってなんて言わないよね?」

 ハリは青ざめる。幼いながらギンのことを本気で警戒しているようだ。

 

「うん、大丈夫だよ。今日はユミお姉ちゃんのためのお話だから」

「ユミおねーちゃんの?」

 首を傾げるハリの頭をギンは優しく撫でる。

「そう、ユミお姉ちゃんはハリくんが生まれる前から好きな人がいるんだ」

「そうなんだ……」

「ユミお姉ちゃんには幸せになって欲しいだろう? だから応援してあげて」

「うん!」

 ハリは元気よく頷くとユミに向かって笑顔を向けた。

「おねーちゃん、頑張って!」

「ありがとう、ハリ」

 ユミもにっこりと笑みを返した。


 そのユミの笑顔にハリはしばらく見惚れた様子だったが、やがてギンへと向き直る。

「ねえ、ギンくん……」

「どうしたの?」

「ぼく、ソラおねーちゃんも幸せになって欲しい」

 ギンの胸に嬉しさがこみあげてくる。

「そう、ハリくんは優しいね」

「ソラおねーちゃん、ギンくんがいるとすごく幸せそうで……」

「ハリくんにもそう見えるんだったら間違いないね。オレもソラさんが近くにいるとすっごく幸せなんだ」

「そっか……。2人はおにあいなんだね……」

 ハリの顔はみるみるうちに曇っていく。

「ギンくんとソラおねーちゃんが鴛鴦になったら、おねーちゃんはここから出てトミサに行っちゃうの?」

 つんけんした態度の意味がようやく見えてくる。

「そうだね。そうなるかもしれない。でもそれはソラさんが決めること。ソラさんがウラヤに残りたいと言うなら、オレはハリくんのお母さんと一緒にウラヤで働こうかなと思ってる」

「そうなんだ!」

 ハリはぱあっと顔を輝かせた。


「どうかなハリくん? ソラさんとオレのことも応援してくれる?」

「うん! ギンくん頑張って!」

「ありがとう」

 優しく微笑みかけるギンだが、一抹の罪悪感も覚えていた。


「ほら、ハリ。ここからは大人の時間だから……、ごめんね」

 ユミはそう言うとハリに向かって手を差し出し、持っていた柄杓を受け取った。

「ユミおねーちゃん。ギンくん。またね!」

 気が済んだのかハリは素直な様子だ。大きく手を振ってその場から立ち去っていく。


「ギン、口がうまくなったよね……」

「まあ多分、ユミの影響だとは思うけど……」

「は?」

 ユミに自覚は無かったようだ。ギンを始め七班の面々はユミの口車に幾度も乗せられてきたものだった。

 訝し気な様子のユミをよそに、ギンは考える。


 ソラがギンと向き合おうと思ったきっかけはユミの母親と会うためだった。

 今となっては当初の目的も忘れたかの様にギンへ首ったけのようだが。

 とは言えソラのハリに対する接し方を見れば、彼女が今後どうするつもりかは察することが出来てしまう。

 まだ幼いハリへ、自らが有する医術の知識を教え込もうと必死なようだ。それは恐らく、ソラが医院を空ける日が来ると暗示しているのだろう。


「ハリくんには悪いけど、ソラさんのことは譲れないな」

 遠ざかっていくハリの背中を見つめながら呟いた。

「まさかギンがここまで一途になるとは思わなかったよ」

「ごめんなユミ。5年前は……。気持ち悪かったよな、オレ」

「うん」

 ユミに対しての初めての謝罪だったのだが、淀みのない瞳で返され辛くなる。

「でも、もういいよソラに対する想いは本物みたいだから」

「ありがとう、信じてくれて」

 ユミの信頼には努めて応えなければならない。ギンは改めて肝に銘じた。


「あ、でも……。マイハに行ったことは看過できないかな」

「だから違うんだって!」


 ――――

 

 ユミはヤマの医院の戸を叩いた。

 いつものように午後の診療前の準備時間を狙っての訪問だ。

 今やソラが医院の職務の大半を任されていたのだが、返事とともに戸を開いたのはヤマだった。

 しかし相変わらず壮健な(よう)で、ユミとギンの姿を認めると笑みで顔をしわくちゃにさせる。とは言えその皺の数は、ユミがウラヤを出た当初よりも増えたことは間違いないようだ。

 

「いつもありがとうねぇ」

 ギンは持参した背負籠(しょいかご)から薬や医療道具の類を取り出す。それ受け取りながら、ヤマは深々と頭を下げた。

 ギン自身もヤマからの礼を聞くたび、ソラの役に立てたのだと誇りに思っていた。

「いえいえ。あの……、今日はソラさんにお話があるんです」

 いつに無く緊張したギンの声色に、ヤマはぱあっと顔を輝かせた。

「待ってったんだよぉ、ギン。あの子ったら十七を迎えた日からずっとそわそわしててねぇ」

 その反応にギンは苦笑する。そして誤解を生む言い方だったと反省する。

 眼の前の老婆を落胆させない様、次に紡ぐ言葉を思案していたが、先にユミが口を開いた。


「先生。ギンとソラのことはもう少しだけ待ってて欲しい」

「は? 何だいそりゃ?」

 ヤマは口をあんぐりと開ける。

「えっとぉ……」

 ヤマにはユミの事情をまだ話していない。それは元鳩だったヤマにとって理解しがたい事情である。

 しかしユミは思い至る。ヤマもソラについて重大な秘密を隠しているはずなのだと。


「ねえ先生。とりあえずソラに会わせてよ。事情は後で話すから」

 意味深長な物言いに、ヤマは怪訝な顔を浮かべた。

「あんたがそういう時は碌なことが無いからねぇ……。まあ、ソラのことを悲しませるつもりのないことは分かるけども」

「ソラは奥?」

 ヤマの疑念をぶった切るように問いかけた。

「ああ、今は薬の分包をしてもらってるよ。診療開始までまだ時間があるから用があるなら済ませちゃいな」

 ユミの強引な態度に半ば呆れた様子を見せながらも、奥の部屋を指し示した。そして改めてギンの顔を見据える。

「ギン。頼むから私が生きている間に安心させてくれよ。私にとっての最後の楽しみなんだ」

「はい、近日中には必ず。ですからどうか健やかに過ごしてください」

 ギンの確かな決意読み取ったヤマは、力強く頷いた。

 

 ユミとギンはソラが居るという奥の部屋へ向かう。

 ユミが引き戸へ手をかけた時、思い立った様にヤマへ振り返った。

「先生も生きている内にソラのこと教えてよ。ソラの……親のこととか」

「なっ!」

 明らかな動揺を見せるヤマと、部屋へと入っていくユミに挟まれ、ギンは気まずくなってしまう。

 しばらくその場できょろきょろと視線を泳がせていたが、黙ってヤマに頭を下げ、ユミの後に続いた。


 ギンが部屋に入ると、ソラは文机(ふづくえ)の前で分包の手を止めようとしているところだった。その隣には既にユミが行儀よく正座をしている。

「ソラさん」

「ギンくん!」

 ソラは呼びかけに笑顔で応じ、立ち上がってギンの元へと駆けよった。そして手を引き、元いた場所へと誘っていく。

 

 ギンはユミとともにソラを挟む位置に座ることとなった。いつもなら胡坐をかくところなのだが、今日に至っては正座をしてしまう。

「ギン……くん?」

 神妙な様子を察したのか、ソラの眼からは不安とも期待ともとれる色が浮かんでいた。

 ギンはごほんと1つ咳ばらいをして語り始める。

「ソラさん。これを読んで欲しいんだ」


挿絵(By みてみん)


 懐から一通の封筒を差し出し、ソラへと渡す。ユミがクイから受け取っていたものだが、誤解の無いよう自ら説明したいと予めギンが預かっていたのだ。

「ギンくん! 私嬉しい!」

 しかしソラは完全に誤解しているようだ。

 無垢な笑顔にギンは胸が痛くなる。

「ごめん、ソラさん。それはオレからじゃない。鳩は鴛鴦文を書くことは無いんだ」

「え?」

 その顔は一瞬で絶望の色へと変わる。

「えっとぉ……、どういうことかなギンくん? ギンくんは、私が他の男の鴦になってもいいってこと?」

 淡々と語るその様には憤怒の色を帯びていた。このようなソラは、ユミも今まで眼にしたことが無い。

 

 こういう時は結論から。舌先三寸の物言いが多い、ユミとの会話を通してギンが学んだことだ。

「ソラさん、もちろんそんなことは無い。ちゃんとオレの想いは伝えるつもり。でもその前に、ユミのことを助けてあげて欲しいんだ」

「ユミを助ける? この文を読むこととどう関係があるの?」

 ソラの言葉からは少しだけ棘が削がれていた。


「その鴛鴦文の送り主はキリ」

「キリくん!?」

「そう、ソラさんも一度対面したことがあるって言ってたよね? ラシノに辿り着いた時に」

 ソラとの初対面時に聞いた話である。森の中、導かれるよう辿り着いた先にはソラの名前を呼ぶ女と、ユミの鴛のキリがいたのだと。


「ユミは孵卵でキリと出会って、幼いながらに鴛鴦になろうと誓い合った。その時の気持ちは今も変わらない。でも、ウラヤの鳩であるユミはラシノへ行けない。それにその文を読むことも出来ない。それが鳩の縛めなんだ」

 ギンはソラの手元の文を指差す。

「ラシノへ行く、鴛鴦文を読む。本当はどちらもやろうと思えばユミにはできることなんだ。でも安易にはそれをしない。ユミはキリと約束をしたんだ『立派な鳩になる』と。鳩の縛めについてオレも全部納得できている訳じゃない。でもやっぱり、この世界の均衡を保つために定めらたんだって感じることもある。だからそれを守ることがユミの考える立派な鳩の条件なんだ」

 ギンは一度息を吐く。話しながらソラが着いて来られているか不安も覚えたが、真剣な眼差しで聞き入る様子を見て、概ね伝わっただろうと判断した。

「その文に今のキリの想いが綴られてる。ユミの事情を知った上でそれを読めるのはソラさんだけなんだ。ユミを助けてあげてというのはそういうこと」

 ようやく結論へと帰着する。


「分かった。キリくんは私にとっても大事な人のはず。ユミはこれまで私とお母さんを繋いでくれた。今度は私がユミとキリくんを繋ぐね」

 ソラは大きく頷く。そのまま封筒の封を切ろうとしたのだが、ユミがそれを制した。

「ちょっと待って!」

「ん? ユミは中身を知りたいんじゃないの?」

「そうなんだけど……。キリってね、すっごく魅力的な子なの。文章もすっごく魅力的なんだと思う。だからソラが落ちちゃったら嫌だなぁって……」

 顔の前で両手の人差し指を合わせながら、ユミはもじもじと呟いた。

 ソラはそんなユミをしばらく眺めていたが、やがて我慢が出来なくなる。

 

「ぷっ! もー、何かと思ったらそんな心配? 大丈夫。私にはギンくんがいる。ユミの鴛を取ったりしないよ」

 ソラの笑顔に救われる。

 本当はそんな心配をしていたのではなかったが、ユミはついごまかすようなことを言ってしまった。ソラが魅了されるのではなく、キリが女子(おなご)を魅了するような言葉を綴ること自体に問題があるのだ。

 今度こそちゃんとキリの言葉に向き合おうと真一文字に口を結ぶ。ところが、ぼそっと「阿呆鴛鴦(あほうどり)」との雑音が聞こえて来たので、歯をむき出しにして声の主を睨みつけた。


 そんなやりとりをよそに、ソラは封筒から蛇腹に折りたたまれた便箋を取り出した。

 それをゆっくりと開き、玉を転がすような声で読み上げていく。

 

「拝啓、この文を受け取った方へ。

 僕はラシノの村に住む錐と言います。

 本来なら将来の鴦と巡り合うための文なのですが、不躾な文面となることをお許しください。

 僕には弓という鴦がいます」


 間髪入れずユミはソラの手元を覗き込んだ。

 キリの手によって刻まれた「弓」という文字が確かにそこにある。目頭が熱くなっていくのを感じた。

 ソラの朗読を待てず、自ら読み進めようと試みたが既に眼の前が滲み始めている。

「ソラ……、続き……、お願い……」

 ソラの体側(たいそく)へ抱き着き、震える体を抑えつける。

「ユミ……。もう、しょうがないなぁ……」

 ソラは一旦文を文机へ置き、ユミの頭を撫でてやる。


「ソラさん……。ユミのお姉さんみたいだ」

 2人の間に流れる温かくも歯がゆい空気に触れ、ギンから笑顔が漏れた。

「うふふ。たまに言われるの。姉妹みたいとはよく言われるんだけど、どっちが姉か分からないって」

 少しずつユミの震えが収まっていくのを感じる。

「ユミ、続き読むよ。このままでいいから、最後までいい子で聞いててね」

 ユミの耳元へそっと囁くと、小さく頷き返してきたのを感じた。


「僕は訳あって弓とは久しく会えていません。

 こうして筆を取ったのは、僕の言葉が弓に届くのを願ってのことなのです。

 全く関係の無い方へ届いてしまったのなら本当にごめんなさい。

 鳩の方には合わない相手だったとだけ伝えて頂けると幸いです。

 僕と弓との関係を表向きにする訳にはいかないのです」


 ソラの体に身を委ねながらユミは考える。

 ユミにとってキリが鴛鴦文を書くのを待つことは賭けであった。

 またキリにとっても鴛鴦文に言葉を託したのは賭けの様であった。そして場合によっては、ユミが孵卵で成したことやユミの持つもりすについても明るみに出てしまう暴挙とも言える。

 しかし当然、キリの賭けを恨む気にはならない。むしろユミの意図を察してくれたのだと称賛するべきだろう。


「これ以降の言葉は弓に届いたものだと信じて綴ります。

 弓 大好き

 別れた後も弓のことを忘れたことはありません。

 弓と過ごした思い出があったから僕は今日まで乗り越えることが出来ました。本当にありがとう。

 弓は立派な鳩になって羽ばたいていることと思います。叶うことなら今すぐ会いたい」


「うわぁああああ! キリぃいいいいい!」

 我慢できなくなってユミは泣き叫ぶ。

「わだじもあいだいよぉおおおおお!!!!」

 顔をソラに押し付けたまま、抱き着く力が強くなった。


「ユミ! 落ち着いて! 私はキリくんじゃないよ!」

 ソラの一喝でユミは我に返る。

「ご、ごめん。最後までいい子でいる約束だったよね……。続けて、その後で話すから……」

 意味深長な言い方が気にはなるが、ソラは咳ばらいをして続きを読む。


「弓がラシノに来られない事情は把握しています。

 でもいつか迎えに来てくれる。その日までには僕も弓との約束を守ります。

 僕はいつまでも待っています。だから弓は精一杯鳩の務めを果たして下さい」


「うん、まっててね、キリ。近い内には必ず会いに行くから……」

 ソラにも聞こえないほどのか細い声で呟いた。


「この文が弓に届いているということは、きっと僕のお姉さんにも届いているのだと思います。

 空姉さん」


 読み上げてしまってからソラははっとしたように顔を上げる。抱き着いているユミの体がぴくっと動くのを感じたが、顔は体に貼りついたままだ。

 ソラがギンの方を見やると、彼は神妙な面持ちで構えていた。続きに何が書かれていても自分がちゃんと受け止めてやる、そんな思いが現れているようだ。

 強張っていた肩の力が緩むのを感じる。そのままゆっくりと文に眼を通していく。


「空姉さん

 姉さんのことは弓が話してくれました。あの時はまだ本当に姉さんかは分かりませんでしたが、今では確信しています。

 姉さんが弓と一緒にラシノへ辿り着いた時、母さんが弓と姉さんのことを空と呼ぶのを聞いたから。

 姉さんにとって、ラシノは危険な場所です。姉さんにもまた会いたいけど、近づかない方がいいです。

 どうかこれからもお元気で。弓と姉さんが幸せであることを願います。

 敬具

 ラシノの村の錐より」


 あっけない締め括り。そんな印象を受けた。

 しかしソラにとって大きな衝撃だった。

 

 ソラ自身もほとんど気づいていた。あの日ラシノで出会ったのは母と弟なのだろうと。

 分からないのは、何故自分がウラヤで暮らしているのかという点だ。

 一方で、その事情を知る者が身近にいるのだとは容易に推察できる。

 今まで無知でいられたのは、自ら答えに辿り着くのを避けていたからだ。


「終わったの? ソラ……」

「うん。終わったよ、ユミ。良かったね。キリくん、ユミのこと大好きだって」

「うん。ほんとに良かった……」

 ユミはようやく顔を上げる。間近にはソラの顔がある。

 

「うん、やっぱり似てる……」

「え?」

 ユミとソラは似ている。ギンがソラと初めて顔合わせした時の印象だ。

 しかし今は、ユミの視点からソラが誰かと似ていると語られている。

 ギンにもそれが何を意味するのかは察しがついた。

 

「私がキリを好きになったきっかけは可愛いと思ったから。そう、ソラに似て……」

 ソラ自身、ユミが鳩になるまで自分の顔を知らなかったし、容姿について気にしたことは無かった。

 ある日ギンから贈られた鏡を見て、ユミと姉妹だと言われる所以にようやく納得したものだった。


「キリを迎えに行くまでに、ソラの秘密を知らなきゃいけないと思う。だから聞こう? 先生にソラのことを」

 ユミはヤマが控えている隣の部屋へと視線を送った。

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