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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ひだまりのねこのホラー小説

夜道には気を付けて


「なあ、良いだろ? 俺たちと遊ぼうぜ。明日から夏休みなんだからさ」


「ご、ごめんなさい、予定あるんで……」


 またあいつらか……。目を付けた女の子に見境なく声をかけ、半ば強引に連れ出す手口。


 一度断り切れずについて行ってしまえば終わり。ドラッグや動画、あらゆる罠にはめ込まれて抜け出せなくなっている学生もいると噂になっている。


 手口が巧妙で、お偉いさんの息子たちがつるんでいるということもあって、大学側は被害届があれば調査するといった消極的な対応に終始している。あくまで噂だということだ。 

 

 まったく……大学は学問を学ぶ場所じゃないのか? 人間のクズどもめ。


 

「彼女は俺と約束があるんだ。悪いな」


 もちろん嘘だが、明らかに乗り気ではない様子を見ればこの程度は許されるだろう。


 これで引いてくれればいいんだが。


「そういうことなんで、ごめんなさい」


 彼女は隠れるように俺の背後に回る。


「へえ……そりゃあ悪かったな、でもなあ、彼氏これから怪我するから予定空くぜ? 良かったな」


 グループでも下っ端であろう男二人が前に出る。


 はあ……救いようがない連中だ。


「あの……言っておきますけど、俺、ケンカ負けたことないんで」


 正確に言えば、ケンカしたことないだけだけどな。




「て、てめえ、顔憶えたからな!! 夜道には気を付けろよ」


 悪役っぽい捨て台詞を吐いて退散するチャラい連中。


 護身用に持っているトゲトゲ付きのメリケンサックを装着したらビビッて逃げていった。所詮見掛け倒しの臆病者だな。くだらない。



「あの……助けてくださったんですよね? ありがとうございました」


 整った綺麗な顔、男好きする身体、この娘、どこかで見たことあるけど誰だっけ?


「ああ、良いよ別に。でもあいつらしつこいから気を付けなよ。じゃあ」


「あ……待ってください、あの……私、夏野 茉莉です。もしよかったら……連絡先、交換してくださいませんか? ほら、もしまた声かけて来たときに――――」


 恥ずかしそうに俯きながらスマートフォンを差し出す彼女。


 夏野 茉莉……あ、思い出した。今年の文学賞取った学内の有名人じゃないか。


「……まあ、それくらいなら良いよ」


 断って彼女に恥をかかせるのもアレだし、俺の連絡先があることで少しでも安心できるならとOKする。別に付き合うつもりはない。好みど真ん中のタイプではあるんだけど。




 大学を出てバイトが終わると、夏とはいえもうすっかり夜のとばりが降りている。


 今住んでいるアパートは最寄り駅で降りて徒歩十五分。


 アクセスは悪くないんだけど、周辺に民家は無く、夜は人通りがほとんどない公園と墓地を抜けなければならないのが大変よろしくない。


「そういえば……連中、バイト先まで嗅ぎまわっていたな……」


 どうやらよほど気に食わなかったのだろう。俺のことを調べ上げているらしい。



「夜道に気を付けろ……か」


 あの時は気にもならなかったけど、今は妙なリアリティを持ち始めている。


「ヤバい……かな?」


 この先の公園、その先の墓地、どちらも待ち伏せして襲うならこれ以上ない場所に思えてくる。


 

 ピロリン♪



 昼間の子からメッセージ?


 連中が悪い人たちと合流して誰かを襲撃するって友だちが言っていたんです。もしかしたらと思って……どうかお気をつけて――――か。


 このタイミングで無関係だと思う方が無理あるよな……。


 戻るなら今しかない……けど、もし情報割れているなら今逃げたところで同じ。


 俺なんかのために、貴重な夏休み突入の金曜日を浪費するほど連中も暇じゃないと願いたい。


 

 ううっ……怖い。


 いつもは寂しいくらい人の気配が無いのに……今夜は……細い路地を埋め尽くすくらいに気配を感じる。


 この角を曲がったら……連中が待ち伏せているんだろうか?



『夜道に気を付けろよ』



 墓地の幽霊たちが笑っている。



 ああ……怖い、怖くてたまらない。


 頼むから誰も居ないでくれ……




「よう、昼間は世話になったな」


 チャラ男のグループ五人といかにもヤバそうな入れ墨の入った人たちが五人、待ち伏せていた。


 あ~あ。昔から悪い予感はよく当たる。 

 

 揃いも揃って暇人どもめ。他にやることなかったのか。



「ぎゃはは、どうした? ビビっちまって声も出ねえか? 俺たちを相手に調子に乗ったこと、あの世で後悔するんだな」 


 ああ、そうだよ、お前の言う通りビビってる。


 


 必死で抑えていた衝動が――――




 ()()()暴走してしまいそうで怖いよ。






「……だから()()言ったよな?――――」 

 



 夜道には気を付けろ、って。





『昨晩、神奈川県のK市で見つかった十名の変死体ですが、遺体の損傷が激しく、身元の特定には時間がかかる見込みです。専門家は遺体に残された傷跡などから、大型の肉食獣の可能性もあるとして、近隣住民に注意を呼び掛けるとともに、各地の動物園に脱走した個体がいないかどうか確認しているということです』


 

「この間はメッセージありがとな」

「いいえ、何もなかったみたいで安心しました。あの……今度の日曜日映画観に行きませんか?」


 一応メッセージの御礼を送ったら、デートのお誘いが。


「いや、日曜日は満月だろ? 悪いけどその日は駄目だ」

「ええ!? 何でですか? 満月なんてロマンティックじゃないですか」

「はは、だめだめ、()()()()なっちまうからな」

「ええ~、別に……襲ってくれても……良いんだけどな?」


 

 やれやれ……怖い怖い、いつまで我慢できるかな……俺。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後の最後まで恐怖の真相が分からなかった所が良かったです [気になる点] 女の子のその後が気になります [一言] 絶対けんかでボコられる展開だと思ってました((笑) 執筆お疲れ様でした!
[一言] 夜道は怖い これ系のジャンルでは王道展開ですね サラリと読めて楽しめました
[良い点] 「食欲が暴走してしまいそうで怖いよ」 霊的な方に行くかと思いきやそっちか! しかし中2的なセリフがカッコイイ。 [気になる点] え!? イキナリ夜デートなの!? そして食べられちゃうの!?…
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