お人好し、ゲームを買いに行く
好人は学校が終わった後、ゲーム機を買いに行くために学校近くのゲームショップ『ステラ』に来ていた。
店内では様々なゲームが置かれていて、今主流のVRゲームから昔流行ったテレビゲームまで店の奥までズラッと並べ置かれているのだが、好人が探しているものはすぐに見つかった。
それもそのはずで、店に入った瞬間、すぐ目に入る場所にでかでかと広告が張り出されていて、そこには『ソウル・ヴァース・オンライン』という文字とその文字の後ろでファンタジーものによく出てくるようなドラゴンに剣を振り下ろそうとしている剣士が描かれていた。
「おぉ。さすが、ニュースになるだけあって一番分かりやすい場所に置かれてる。」
店としても、今一番波に乗っている商品を売り出そうとしているのか、広告には『5000万ダウンロード突破』、『プロゲーマーもハマるイチオシ所品!』等と売り文句がつらつらと書かれている。
「それにしても、今どきのゲームって結構するんだな。貯金が結構飛んでいく、、。」
好人は携帯端末の自分の口座にある貯金の金額とゲーム機の金額を交互に見て予想以上の金額にしり込みしていた。
貯金的には買えなくはないものの、今まで頑張ってためていた貯金が1回の買い物で半分ほどになると考えると学生の身分からしたらそうなってしまうのは当然といえる。
しかし、今回は親友のため、ひと肌脱ぐと自分から決めていたこともあり、迷いを切り捨て購入しようと決心する。
好人が商品の前で立ち止まって考え事をしているのを見て、店員が声をかけてくる。
「お兄さん。『ソウル・ヴァース・オンライン』買うつもりなのかい?」
「え?あ、えっと、そうですね。そのつもりです。」
まさか話しかけられるとは思わず、好人は思わず返事に詰まってしまう。
「あぁ、ごめんね。なんか迷っているようだったから、つい声をかけちゃって。驚かせたかな。」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ。すみません、購入するつもりではあったんですが、予想以上に値段が高かったので。」
「そうか。ハードも一緒に買おうとしているのか。そりゃ即決とはいかないよな。」
ゲーム機ごと買おうとすれば、社会人と言いえど即決できない値段となっている、それが学生となればなおさら難しいものだろう。
「確かに。学生さんが買うにはちょっと大きな買い物ではあるからねー。」
「このゲーム、やっぱり人気なんですか?」
「そりゃもちろん。今の時点でここ数年のゲームの中でもトップの売り上げをたたき出しているよ。」
今の時点となると販売されてから1年も経っていないものが発売されてから数年以上経っているものの売り上げを抜いているということになる。
確かに、店内では大きなモニターに『SBO』のものであろうプレー映像が流れているが、それを見ただけでも今までゲームに触れてこなかった好人ですら「面白そう」と思ってしまうほどにこのゲームには人を引き付ける魅力がある。
「やっぱりすごいんだな。」
「お兄さん、普段ゲームとかやらない人?」
「恥ずかしながら、ほとんどゲームとかやったことないんですよ。」
現在のゲームの主流はVRゲームでテレビから映像を出力するひと昔前のゲームしかプレイしたことのあるゲーマーというものはほとんどいない。
店内を見ても商品のほとんどがVRゲームでハードを買おうとしていて、尚且つ今流行の『SBO』の事を知らないとなると高確率でゲーム初心者であると簡単に予想できる。
「参考程度に聞くんだけど、どうして今回はこれを買おうと?」
「友達に懇願されて仕方なく、っていうのが一番の理由ですかね。」
好人は自分がゲームを始めるきっかけとなった一連の流れを店員に説明した。
「あー、確かにもうすぐ1周年記念のアップデートは結構な規模のもらしいからね。ゲーマーとしては見過ごせないわな。」
店員は納得した様子でうんうんとうなずいたのちにこちらをちらりと見ながら「それにしても」と言葉を続ける。
「君。お人好しってよく言われない?」
少しばかりあきれが入ったような目で好人を見ながら店員が言う。
「よくわかりますね。確かによく言われるんですよね。」
「そうだろうね。」
ふつうは自分の興味のないものに友達の頼みとはいえ10万近くの金額を出してまで付き合おうとはしない。
店員は不思議なものを見る目でさらに好人に質問を投げかける。
「どうしてそこまで人のためにするんだい?」
「どうして、ですか。あんまり気にしたことはないけど、、、。」
好人考え込もようにうつむきしばらく逡巡したのちに、急にバッと何かを思いついたような様子で店員ののほうを向き。
「わかりません!」
「わかりません」といい笑顔で言い放った。
店員も何かを思いついた様子で好人がこちらを見てきたため何か明確な答えが出てくるものと思っていたため呆気に取られていた。
「え、えええ。わかんないの?ほら、なんかよくあるじゃないの、人の笑顔が好き、だとか人なためにしたことは全部自分に返ってくるから、だとか。」
「うーん。そういうのもないことはないんですけどね。」
店員が言った言葉にいまいちピンときていないようで好人は頭を左右に振りながら再び考え込む。
「たぶん習慣なんだと思います。」
「習慣?」
また意味の分からないことを言い始めたぞ、と店員が好人の言葉に耳を傾ける。
「最初は爺さんに人を助けられる人間になれって言われて、一日一善を課せられていたんですよ。」
「そ、そうなんだ。」
一日一善。そんな聖人のようなことをいまだにやるものがいるのかと店員はあきれながら好人の話を聞く。
(というか、普通にいいことやってきましたよって嘘でもついたらわからんと思うのは俺だけか?)
と店員が思うようにふつうはこのようなこと、確認のしようがないため嘘をついてしまえばわからないのだが、好人は幼いころから素直な性格で祖父から空手の稽古で教えを受けるときも愚痴一つこぼさなかった。
そのせいもあってか、祖父の言う一日一善も素直に従い、実際一日一善を実行していた。
「そういうこともあって、気づいたら毎日人のために動くのが当たり前になってたんですよね。」
「・・・。」
店員は好人を見ながら、今まで出会ったことのないサンプルを発見して心が躍っていた。
(いい、いいぞこの子!今までに見たことのない人種だ。)
「きみ!おもしろいね!」
急に店員が興奮気味に言葉を発したことから好人は驚いていた。
「ど、どうしたんですか。急に。」
「ああ、ごめんね。ちょっと興奮しちゃったかな。」
好人はちょっとやばい人なのではないかと店員のほうを見やると、その後方にある時計が目に入り店に来てからかなり時間が経っていることに気づく。
「そろそろゲーム買って帰らないと。」
「ああ。もうそんな時間か。」
「ええ、今日は友達にいろいろ教えてもらいながらやろうと思うんでちょっと早めに帰って準備しときたいんです。」
「そりゃそうか。じゃあ俺も店員らしいことしようかね。」
と言い好人はゲーム機と『SBO』のソフトを持って店員とともにレジに向かう。
「話に付き合ってもらったお礼に割引しとくよ。」
「え、いいんですか?」
「ああ。面白い話も聞かせてもらったしね。」
「面白い、ですか?俺の話、面白かったですか?」
好人は自分の話に面白い要素は特になかったけどなと疑問に思うが、店員にとっては何かしら面白い部分があったのだろう。
「俺にとっては十分面白かったよ。」
ハハハ。と店員が笑いながら言う姿を見て、この人変わってるなー。と思う好人であった。
「ありがとうございます。助かります。」
「まあ、友達と一緒にゲーム楽しんできてよ。」
「はい!」
好人はゲームを無事購入し店を出ようとしたとき、店員に声を掛けられる。
「そうだ。君!」
「はい?」
「ちょっとアドバイス。ゲーム始めるときに行く始まりの町、そこにスラム街があるんだけど、そこをよく探索するといいことあるかもよ。」
店員が言った言葉がよく理解できず、好人が頭の上に?を浮かべていると。
「あんまり気にしなくていいよ!ただ頭の片隅に置いといてくれれば。」
「は、はあ。よくわからないけど。とりあえずわかりました。」
と言い今度こそ好人は『ステラ』から出て行った。
好人が店を去った後。
「うーん。面白いプレイヤーになりそうな子だねぇ。」
店員が独り言をこぼしたとき、店員の端末に着信が入る。
「ん?あちゃー。もうそんな時間か。」
店員は端末の画面に映る見知った名前からの着信をとる。
「も、もしもーし。」
『社長!何やってるんですか!もう皆さん集まっていますよ!』
「ごめんねー小夜ちゃん!面白い子と話ていたら時間を見るの忘れてたのよ。アハハハ。」
店員のまったく反省していない態度から電話越しからものすごい剣幕で怒声が聞こえてくる
『アハハハじゃない!!!また『ステラ』にいっていたんですか!?あれほど店のほうには行くなって言いましたよね!」
「いやー、今日みたいなことがあるから、ここに来るのはやめられないんだよね。」
今回の事のようなことは初めてではないのであろう。
電話相手も慣れているのか『はぁー。』とため息をつき店員に用件を伝える。
『早く会社のほうに来てください。早急に1周年イベントの件と直近に控える、新規プレイヤー専用の大規模イベントの最終調整の件を処理しなければなりませんので。』
「了解!今から向かうよ。」
と言い店員は通話を切る。
「店長!それじゃあ店の事よろしくお願いします。」
と店員が言うと店の奥から店の制服を着た中年の男子が出てくる。
「わかりました。社長もお仕事頑張ってください。」
「ええ。それでは行ってきます。」
と言い、着ていた業務用のエプロンを店長に渡し、
『イノセントワールド』代表取締役社長 空木 創一朗
は店を出て本来の職場に戻る。