お人好し、ゲームに誘われる
処女作になりますので暖かい目で見守ってください。
「頼む!一緒にゲームをやってくれ!」
征泉高校1年5組の教室では昼食を食べるために生徒が複数のグループを作って机を寄せ合っている。
そのうちの1グループに『白崎 好人』と『駒井 真司』が机を前後に寄せ合って昼食を食べているときに真司が急に大声で好人に謎の懇願をした。
「うわ!どうしたんだよ。急に。」
好人は真司の急な懇願に困惑していた。
というのも、真司から頼みごとをしてくるのは珍しいことなのだ。
好人は自他ともに認めるお人好しで、重い荷物を持った老人や迷子、探し物をしている人等困っている人を見つけては人助けをしているような現代では珍しい若者である。
教師や友人からの頼み事も文句を言わず請け負うため、小学校からの親友である真司は好人の負担にならないように好人には極力頼み事はしないように心がけてきていた。
そのため、真司が好人に頼みごとをするのは本当に珍しい。
「ほんとに珍しいね。真司が俺に頼み事なんて。いったいどうしたのさ?」
好人が物珍しいものを見るような目で真司のことを見る。
「うっ。わ、わかってるんだ。お前にこんなこと頼まないようにしてきたし、頼むべきじゃないんだが、、、。それでも!」
がし!っというような擬音語が聞こえてきそうな勢いで真司が好人の両手をがっちりと自分の両手で掴み
「お前しか頼れるやつがいないんだよー!」
と、今にも泣きだしそうな表情で好人の事を見つめてくる。
ゲームのことでそこまで頼み込んでくるとは思わず好人が戸惑っていると周りから、「どしたどしたー。」「なんかあったんか?」、「まさか、やっぱりあの二人そういう、、、きゃー!」という声が周りから聞こえてきて慌てて好人が真司に声をかける。
「真司!分かったから!とりあえず落ち着いてくれ!」
そう言って好人は掴まれた手を引っぺがして真司に落ち着くように声をかける。
好人の名誉のために補足しておくと、好人と真司はそういった関係ではない。
「ああ。すまん、つい勢いでやちまった。」
(真司がこんなに切羽詰まっているのは珍しいな)
「どうしたんだよ。お前らしくないじゃないか。なにがあったんだよ。」
「じつはなぁ、、、。」
結論を言うと、真司が現在プレイしているゲーム『ソウル・ヴァース・オンライン』を一緒にプレイしてほしいとのことだった。
『ソウル・ヴァース・オンライン』
全世界5000万ダウンロードを記録している今話題の超人気VRMMORPG。
リリースしてからあと2か月で1周年を迎えるが、今でもダウンロード数が破竹の勢いで上昇し続けており、もう間もなく6000万ダウンロードを記録するとの噂もあるほど。
世界一のゲーム企業『イノセントワールド』が「歴史に残るゲームを作る」と言って開発されたのが今作であり、次世代ゲームエンジン『アストラルエンジン」が搭載されゲームグラフィック、処理速度、AI機能など、今までのゲームからは考えられないようなクオリティとなっている。
ゲーム開発費は日本円にして1200億円と破格の費用となっていて、この企画が失敗すればゲーム会社は大損害を受けるほどの一大事業であったが、企画は見事成功、開発費はもちろん回収し莫大な利益を生み出していて当初の宣言どおり歴史に残るゲームとなった。
ということをこの前ニュースで特集されていたのを好人は思い出していた。
基本的に好人はゲームというゲームをやってきていない。
好人がプレイしていたゲームといえば、昔流行っていたらしいコントローラーを使ったテレビゲームを小学生のころやっていたくらいのものだ。
好人はテレビを見ながら、「へー、そんなにすごいんだ。」程度で流してみていたが、どうやら真司はこのゲームをリリース当初からプレイしていたらしい。
真司は以前から様々なゲームをプレイしており、『ソウル・ヴァース・オンライン』も以前から付き合いのあったゲーマ―友達とともに始め『クラン』というプレイヤー同士の集まりのようなものを結成していた。
真司が言うには、1周年を記念して2か月後に超大型アップデートがあり、新規のエリアが実装されようというときにクランのリーダーがリアル、つまり現実での事情でゲームを引退することになり、クラン内でこれからのことを話し合った結果、クランは解散してそれぞれ別々にプレイしようということになり、そのままクランは解散した。
それぞれ行く道は決めていたようで、あるものは伝手で別のクランに所属し、あるものはソロで攻略に専念し、あるものは自らクランを立ち上げて運営しているとのこと。
真司は特にどうするか決めていなかったようでとりあえずソロで活動しようとしていたところに噂で新規のエリアでは複数のプレイヤーが必要なレイド戦が重要になってくるとの噂があり、真司はパーティに誘えそうな人を探していたところ、好人に頼み込むことにした。
「ゲームの中で他に組めそうな人はいなかったの?」
長時間プレイしているものなら、そのゲームの中で友人なり知り合いなりができるものではないかと思い、好人が真司に尋ねる。
「いやー。攻略に夢中になりすぎて他のプレイヤーとはあんまし喋ってなかったんだよなぁ。必要なものもクランのメンバーが揃えてくれてたからなおさらな。」
ハッハッハと悪びれもなく真司が笑う。
好人は真司と付き合いが長いため、真司が一つのことに集中すると周囲が見えなくなりがちだということを知っており、今回もそれが出てしまったのだと察した。
実際それは的中しており、真司はクランメンバーにも、自分たち以外のプレイヤーとも交流を持ったほうがいいのではないかとそれとなく言われていたのだが、その当時真司はゲームの攻略に集中していて「ん-、気が向いたら!」と生返事を返していた過去を持っている。
「ゲームするのはいいんだけど。おれでいいの?ゲームなんか全然やってこなかったからやり方とかわかんないよ?」
「全然大丈夫だ!たしかお前、なんか武術習ってただろ?」
「ああ、爺さんに空手習ってたよ。今でも時々稽古はしてるけど。それがどうしたの?」
好人の家には小さな道場があり、好人の祖父はそこで子供を相手に空手を教えていた。
空手を教えるといっても規模は小さなもので、近所の子供が数人通っていた程度のものなのだが、祖父の人柄がよかったことや教え方がうまかったことなどもあって近所での評判は上々であった。
好人も祖父が開いていることもあって幼少期から祖父に空手を教えてもらい、2年前に祖父が亡くなった後でも、時折稽古をしているのであった。
「あのゲーム、現実と同じように体動かせるからそういった武術とかやってる奴は結構有利なんだよ。スキルとかも取りやすくなるらしいし。」
「へー、そうなんだ。」
『ソウル・ヴァース・オンライン』はフルダイブ型のVRMMORPGのため現実で身体を動かす感覚で同じようにキャラを動かすことができる。
そのため、このゲームでは現実世界での経験がとても重要なものであり、自由度の高いゲーム性から様々な経験がゲームに反映される。
例えば、料理が得意なものがゲームをプレイした際には料理に関係したスキルが取りやすくなり、剣道などの武術にたけたものがプレイした際はそれに関係したスキルが取りやすくなるなどのアドバンテージを得ることができる。
「好人は要領もいいし、すぐにうまくなれる。と思う!」
「と思うって、、、。まぁ、いいよ。真司からの珍しい頼み事でもあるし。俺もやるよ、そのゲーム。」
「まじか!助かるよー!」
好人は高校で帰宅部なこともあって、学校が終われば比較的自由な身分のためゲームに時間を費やしても大丈夫と判断し真司からの頼みを承諾する。
「それじゃあ。今日ゲームを買いに行ってくるよ。そこまで時間はかからないと思うけど、またゲームを始めるときは連絡するよ。」
『ソウル・ヴァース・オンライン』はフルダイブ専用のハードが必要であり、それを持っていない好人はハードを買うことから始めなければならない。
ちなみに好人はお年玉を昔から使わずにとっており、ハード買っても問題ないほどには高校生ながら貯蓄がある。
「ああ!始めるときは連絡してくれ。俺も一緒にログインするから。」
「了解。俺ほんとに全然わかんないからいろいろ教えてよ。」
「おう!そこんとこはまかせろい!」