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なに?町が臭いじゃと? その2

 


 タオルを頭に巻き、夢中でトンカチを振るうエブリ。

 その姿を微笑ましく見守る執事のエドワール。


「魔王様、今度は何を作っておられるのですか」


「ゴミ入れじゃ」

 

「ほう。またなんとも素晴らしい発明品ですな」


 かつて、ヒトの世界では汚物は道路溝に流すといった雑な処理が為されており、王都では伝染病の発生で大勢が死んだ歴史があった。


 この町では下水施設を一新したことで今のところ伝染病の発生はないものの、未だ住む家のない者達が路地裏で粗相をするため、衛兵達による町内清掃が行われていた。


 しかし、それも人口増加に伴い対応が後手後手になっており、宿泊施設や民家、公衆トイレなどの新設が急がれているが、どれもまだ数が足りていない。


「みてろ、じい」


 箱に設置された便座の上で踏ん張るエブリ。

 プリプリと可愛らしい音が二回。

 エブリはやり切った顔で箱から降りた。


「おめでとうございます」


「なにもめでたいことはない」


「失礼しました。汚物はそのままですか?」


「心配いらん。箱の中にはこいつらを入れるからの」


 そう言って、スライムを作るエブリ。

 エドワールが興味深そうに眼鏡を押し上げた。


「なるほど。スライムに溶かしてもらえばゴミも汚物も関係ないと」


「そういうことじゃ。それと、スライム達には他に町中の清掃も任せるつもりじゃ」


 まさに革命――再びである。


 町の随所にコレを設置し、汚いモノは全てここに入れると伝われば、それが習慣づくことで町は清潔に保たれる。汚物処理はスライムが行うため、回収する手間もコストもいらない。


「ただし、容器がコレでは経年劣化してしまう。スライムの酸に耐えられるモノで作らねば余計な手間が増えるからの……」


 自分で製作した箱を見本にしながら、エブリはまずクリエイト・ゴーレムで形をいじくっていく。



ゴーレム

――――――――――

人間への攻撃性:3

材質:5

形状:3

腕力:4



 ゴーレムの数値は合計で15。


 エレメンタルと数が違うのは、種族による違いだとエブリは認識している。


 材質とはつまり丈夫さや重さに直結し、数値を振るほど硬くしたり重くしたりが調整できる。形状に数値を振るほど自由度の高い形に変形させられるし、腕力に振れば戦闘や荷物持ちで大いに役立つだろう。


 今回の発明にも細かい調整は不要である。



ゴーレム

――――――――――

人間への攻撃性:0

材質:13

形状:2

腕力:0



 箱状に加工するだけなら形状は2くらいで事足りるし、他に振る項目がないため、材質に全てを振ってある。材質としては、簡単に破壊されないように硬く設定し、運ぶ際は軽く、設置の際は重く調整できるようにしてある。


 箱に蓋を作れば器はこれで完成だ。


「後はスライムを入れるだけじゃな」


 エレメンタルの時のような大規模な工作が無かった分、エブリは少し物足りなさを感じながら、発明品を完成させてゆく。



スライム

――――――――――

人間への攻撃性:3

消化液:3

形状:1

吸収:3



 これが通常時のスライムの数値である。


 消化液で敵を溶かし、吸収で栄養として取り込む。単純な丸型だから形状は1で済むため3種類の中で最も分かりやすい割り振りとなっている。


(あまりいじる余地がないのう)


 攻撃の対象が「敵」から「ゴミ」に変わっただけなので、人間への攻撃性を0にすれば概ね目的を達成できることに気付く。



スライム

――――――――――

人間への攻撃性:0

消化液:5

形状:1

吸収:4



 人の防具すら綺麗に溶かせる消化液3を念には念をと5に変更し、吸収を4に振る。消化液が強すぎるかと思われたが、それ以上に「材質13」のゴーレムの方がはるかに丈夫だった。


(経過を見て消化液の数値を下げる必要があるかもしれんのう)


 スライムの消化液にゴーレムが負けると困るので、しばらくは見て回って状態を確認しようと考えるエブリ。


「あとはウォーターエレメンタルと、ファイアエレメンタルを付けて……と」


 排泄後の世話用にひと手間加え、ひとまずこれで構想していた物は完成したのである。


 


◇◇◇◇◇




 町のいたる所に不思議な箱が現れた。

 それと同時に、カナメ様からの〝お告げ〟が届く。


『ゴミ処理の箱を設置した。以降ここで排泄、ゴミ捨てを行うのじゃ』


 信仰のある者全てに届くお告げ。

 つまり町民のほぼ全員にそれは届いた。


「これなんだ?」


 訝しげに近寄る町民。


 それは縦に置かれた長方形の箱。扉を開くと中は奇妙な形の椅子がいくつも置かれており、人が近付くと自動で蓋が開く。椅子の穴から覗くと底に透明の液体が広がっているのが分かる。


 三つ並んだ箱の横に、寝かすように置かれたこちらも箱。蓋を開くと、同じように透明な液体が広がっていた。


「カナメ様が仰っていたでしょう? これが例の〝トイレ〟と〝ゴミ箱〟というものよ」


 箱の周りに町民達が集まってくる。


「この椅子に座って用を足すらしいわよ」


 促された男がズボンはそのままに座ってみると、なるほど、なかなかに座り心地がいい。じんわり暖かいのが不思議であった。


 一度立ち上がり中を覗いてみると、どうやら隣の箱と繋がっているようだった。つまり、汚物とゴミは下で一緒になるという構造らしい。


「ええ? 下水施設に繋がってるわけでもなしに、こんな箱に汚物も入れるのか? においとかすごそう……」


「ゴミは中にいるスライムが処理するんですって」


 多くの民が「え!」と声を漏らす。


「魔物が町中にって……危険じゃないか?」


「なにを今更。貴方が熱心に通ってる魔力測定だって魔物よ? それに受付してる人形みたいなのも全部魔物らしいわ」


「それならもう今更か……」


 男が試しにゴミを投げ入れると、透明の液体がゆっくり脈打ち、ゴミを包み込んでゆく。そしてシュワシュワと音を立てながらゴミを溶かすと、何事もなかったかのように底に広がり、元の形に戻っていた。


「町のいたる所にあるなら用を足すのには困らないな。ゴミ問題に関しては現状困ってはないんだが……」


「困ってなくても習慣づけろってことじゃない? 最近町のにおいが酷くなった気がしてたし、私はこれ大賛成よ」


 そんなこんなで、エブリの作ったトイレとゴミ箱は徐々に領民に受け入れられ、広く浸透していくのであった。




◇◇◇◇◇




 魔界――作戦司令部


 闇夜の如き漆黒の空に、およそ数十人の魔族の遺体が磔の形で並んでいた。そしてそれらが囲む建物の中、苛立つ様子で座っていたのは獣の魔王である。


「先の戦争、敗北は許されんとあれほど言っておいたのにこの体たらく。魔族の面汚し共が」


 外で磔になっていたのは、エブリとの戦争にいた魔族達。彼等は敗戦の責任を取る形で殺されている。


「次は私が指揮をとりましょう」


 名乗り出たのは残忍さで有名な魔族だ。

 蝙蝠の特徴を持ち、邪悪な顔をしている。

 見せつけの為の磔も彼の案によるものだった。


「敵は思った以上の戦力を有しているようだが、勝算はあるんだろうな?」


「ええもちろん。過程はどうであれ、頭さえ取れば終わりですから。私は〝力と力のぶつかり合い〟のような戦争は好みません。少数精鋭を連れてゆき、闇夜に紛れて終わらせます」


 そう畏まり、頭を下げる魔族。

 他の魔族達から称賛するような声が上がる。


「やれ恐ろしい。将軍が出れば相手は終わりです」

「ザンバイ将軍の暗殺術は魔界一だと言われてますからなぁ」

「相手は自分が死んだことにすら気付かないでしょうな」


 獣の魔王は機嫌良さそうにしながら、玉座に座り直した。


「では今回軍を動かすことはしない。ただでさえ北の大戦に備え、兵を集めなければならないのだからな」


 お任せくださいとその場を後にするザンバイ将軍。

 外で待っていた黒装束の側近達に指示を飛ばす。


「偵察能力が高く隠密向きの魔物及び魔族を連れてきなさい」


 側近達が音もなくその場から消える。

 将軍は続いて林の方へ視線を向けた。


「貪る者達よ、集まるがいい」


 林がガサガサと揺れ、大量のナニカが現れる。手乗りサイズのそれは〝ネズミ〟だが、額に第三の目を持つれっきとした魔物であった。


「貴様らは先に潜伏し町の内情を調べよ」


 貪る者達はキィキィと声をあげて林の奥へと消えた。

 ザンバイ将軍は不敵な笑みを浮かべながら、深い深い闇夜の空を見上げたのだった。

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