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なに?町が臭いじゃと? その1

 


 それは酒屋のトムからのお願いだった。


「『汚物の匂いが臭すぎてたまらん』じゃと? 貴様が肉ばかり食うとるからじゃろ」


「魔王様、本人の悩みではなく、町中の衛生について言及しておられるのかと」


 人が増えたためか、確かにエブリも町の治安や環境が悪くなったように感じていた。儲かっているエブリとしては有難いことだったが、環境の悪化は由々しき事態である。


「そういうことか。あまり町を歩かぬから気付かなかったのう。ウォーターフォール(大量の水で押し潰す魔法)で綺麗にするわけにもいかんし……」


 久々に難しいお願いに直面したエブリ。

 パワープレイでは解決が難しそうだ。


 勢いよく玉座から飛び降りると、いそいそとお出かけの準備をするエブリ。人間に扮するために帽子、おしゃれな服、おしゃれな靴を装備する。


「町に行かれるので?」


「内情を見ないことには解決できんからの。じいは適当に時間を潰しておけ」


「承知いたしました」


 


◇◇◇◇◇




 人で溢れる町の中にエブリはいた。

 人々は彼女がカナメ様の本体であることはもちろん、魔族であることにすら気付いていない。


「最近また妙にヒトが増えたのう」


 不思議じゃなぁと呟きながら、人混みを避けるように適当な路地裏へと入っていき、町の散策を続ける。


 グチャ。


「げ!」


 エブリの髪が天へと逆立つ。


「だ、だ、だ、誰じゃあこんな所で粗相したのは!!」


 靴の下にはモザイク加工された汚物があった。


(全く……魔界は魔物が勝手に汚物処理をするから気付かんかったわ)


 魔族は町の清掃などしない。

 それは全て魔物の仕事である。


 汚物を好んで食べるモールワーム類や、シミや汚れを許さないマーモピクシー類など、様々な個性を持つ魔物によって魔界は清潔に保たれているのである。


「仕方ない……『クリエイト・スライム』」


 べチャリ、と、透明の何かが落ちる。


 透明なゼリー状の魔物「スライム」は、人間を窒息させながら溶かし・吸収する恐ろしい存在であるが、汚物処理も得意とする魔物である。


「う○こを食うんじゃ」


 エブリの指示従うスライム。


 彼女の靴や道に飛び散ったモノまで丁寧に処理すると、スライムは「やってやりました!」と言いたげな様子でぷるると体を震わせた。


「行く先々でう○こを踏んだら敵わんからの、このまま連れ歩くとす――まてよ……?」

 

 エブリはまた何かを企んでいた。

 彼女の口角が怪しげに吊り上がる。


「次はアレを作ろうかの」


 そう言って城の方へ駆け出すエブリ。


 取り残されたスライムは、彼女の最初の指示を忠実(・・)に守りながら、町の奥へ奥へと進んでいくのであった。




◇◇◇◇◇




 アルダンのはるか北。最も多くの人間が暮らす王都に、とある店が開店した。


 その名も「魔力測定の店」。


 噂に敏感な王都の民達は、それが辺境で話題になっている「魔力測定」であると分かるや否や、自分の活動に限界を感じている冒険者とか、息子の魔法学校入学を控えたマダムとか、訓練熱心な騎士などが押し寄せた。


 禿頭の男はその話題性にほくそ笑む。

 彼はしがない商人であった。


(大金叩いて試してきたが、要するにエレメンタルに触れた時に適当な数字を出せばいいだけじゃねえか……)


 待望の開店、そして初めてのお客様を迎えた時――事件が起こる。



「これはどういうことだ?」



 部屋の中で声を荒げる一人の男。


 不気味な山羊の骨の被り物と漆黒のローブに身を包んだ彼は「一級魔導士ギーラン」であった。


「我の属性は火、水、風だけではない。それに、噂によれば今出た数値では〝三級魔法〟のひとつすら発動不可能ではないか」


 骨の間からギーランの赤い瞳が揺れる。

 彼の足元に輝く魔法陣――そこから現れた竜の頭が口を開き、店の天井を消し飛ばした。


 店のハリボテが煤になって降ってくる。


 慌てて逃げ出す店主を捕縛し、その場にいた騎士に「コイツは嘘吐きだ」と引き渡すと、ギーランは青空を見上げた。本物の魔力測定店に思いを馳せながら。


 四つある王都ギルドの中でも、魔法能力に関してギーランの右に出るものはいない。故にギルドは彼を高級貴族並みの待遇で留め続けているのだが、そもそも彼は金や名誉に興味はなかった。


「眉唾だと無視していたが、なかなかどうして気になるじゃないか。どれ、自分の目で確かめに行くとするか……」


 そう呟くと、バサリと背中に翼を生やし、ギーランは大空へと羽ばたいていった。


「あのギーランを突き動かすほどか……」


 廃墟と化した店の前で、利用希望者達が文句を言う傍ら、一人の男がごくりと生唾を飲み込んだ。


 彼の名はオッド。

 彼もまたしがない商人だ。


「腕利き冒険者が流れる先に商売の種が埋まってるなんてよく言うが、まさに今がその時では……?」


 こうしちゃいられん! と、オッドは早々に店を畳むと、それらを荷馬車に積み込み辺境へと旅立ってゆくのであった――

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