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なに?人口爆発じゃと?



 アルダンの町は近年稀に見る人口増加を起こしていた。


 風の噂で「アルダンの景気がいい」「アルダンには魔王を退けた無敵の軍がある」などと聞きつけた、かなりの数の難民達が別の領地から移ってきたのだ。


「ここか……魔力測定がある町ってのは」


「先に宿屋を確保しよう。どうにも人が増えすぎて受け入れ拒否されることもあるらしい」


 大きな鞄を背負った二人が宿屋を目指して移動を始めた。二人は他国のギルドに所属する冒険者であり、目的は「魔力測定器」だった。


 証を見せながら城門をくぐり、想像以上の人の量にたじろぎながらも、地図を頼りに目的の場所を目指す。


 世界に革命的な影響を及ぼした発明を利用しようと、各地の猛者達がこの地に集まってきていた。人の増加に伴う変化が顕著だったのは冒険者ギルドであった。




◇◇◇◇◇




 ギルドマスターは混雑する受付の様子を呆然と見つめていた。


(俺は夢を見ているのか……?)


 数年前、半分廃墟となった建物を借りて冒険者ギルド立ち上げた――しかし、その経営は芳しくなかった。


 立地は悪くなかった。

 

 近場にある二つのダンジョンや、鬱蒼としげる森には貴重な薬草や果物が実る。魔物も多く、冒険者が活動するのに最適の場所とも言えたが、いかんせん辺境すぎるために道の整備もおざなりで、人口そのものも少なかった=依頼数が少ないのだ。


 しかし、今はどうだ。


「魔物の死骸は素材受付までお願いしまーす!」

「この依頼書は俺が先に目を付けたんだ!」

「お姉ちゃんエール四つ早めに頼むぞ〜」

「武器の修理依頼はここでできますか?」


 大勢の冒険者達でごった返すギルド内。


 冒険者は「ギルド証」さえあれば身分が確認でき、どの場所でも活動ができる。希少な魔物が大量発生すればそちらへ、ダンジョンが生まれればそちらへと、彼らは気ままに旨味のある町へと渡り住むのである。


「八級以下の依頼が全然ないじゃないか!」


 駆け出しの冒険者の嘆きがこだまする。


 魔法の等級と同じように冒険者にも等級があり、駆け出しの十級から超一流の一級までと様々だ。しかし冒険者増加による影響で、ギルドに持ち込まれた依頼がことごとく受注されてしまい、依頼の供給が間に合わないという事態へと発展していた。


(人口は増えたが、町民達が依頼をかけるほど安定した暮らしがまだできないということか――)


 移住してきた者は職探し・住まい探しに忙しく、仕事を依頼するほどの余裕がない。つまり冒険者達への仕事はそれほど多くない。


「現状を説明した方がよろしいのでは……?」


「そ、そうだな。有望な冒険者流出にも繋がるが、無い袖は振れん。仕事がなければやむなしだ」


 苦渋の決断を下すその直前、ギルドの扉が勢いよく開け放たれると、そこには息を切らした職員が何かを持って立っていた。


「マスター!」


 どたどたと駆け込んでくる職員。

 手には依頼書が握られていた。

 



◇◇◇◇◇




「忙しい!!」


 エブリの嘆きが城内にこだました。

 羽ペンと紙束が宙を舞う。

 部屋の中は青色の炎で溢れていた。


「嬉しい悲鳴でございますね」


 楽しそうに微笑む執事のエドワール。

 エブリは烈火の如く怒り狂っている。


「悲しい悲鳴に決まっておろう! カナメを見てみろ! 溢れんばかりのヒトヒトヒト! いつの間にか祭壇まで作られておる!」


「魔王様の優れた手腕による結果かと」


「この忙しさは予想しておらんかった……」

 

 かつて広場の真ん中にポツンとあったカナメ様の周りには立派な社が建ててあり、どこぞの貴族が住めそうなほど豪奢な見た目となっていた。

 人口増加に伴って〝お願い〟の数も増加し、エブリのキャパをオーバーしていた。


「しかも依頼内容が『住む家が欲しい』とか『お腹すいた』ばっかりじゃ。食い物ならその辺の魔物をぶっ飛ばして焼いて食えば良かろうものを」


「普通のヒトは魔物を倒す術を持ちませんから」


「なんと弱き生物じゃ……」


 魔力測定の店のおかげで魔法に長けた人物は増えてきている。しかし、施設利用料が払えない者、そもそもの資質が低い者には恩恵が少ないようだ。


「冒険者達の仕事も減っているようですな」


「ぐぬぬぬこれでは信仰が上がるどころか下がる可能性すらある」


 人が町を離れればカナメ様の存在も忘れられ、信仰が失われればエブリの力も減少する。それを避けたい彼女としては、爆増した人口をなんとか留め、かつ自分の仕事は減らしたいところ。


「そうじゃ!」


 何かを閃いたエブリ。

 そのまま紙にペンを走らせる。


「じい、これを魔力測定の店(妾の店)経由でギルドに流してくれ」


「承知いたしました」


 依頼書を受け取りエドワールは消える。

 誰もいない城内にエブリの高笑いがこだました。



◇◇◇◇◇




「大口からの依頼です!」

「おお、ちょうど良かった!」


 職員から依頼書を受け取ると、ギルドマスターはその内容を確認した。


『食用にできる魔物の肉、山菜、石材・木材などは買い取る。薬草は依頼料を1.5倍に上げる。民家建設のため土属性魔法の使い手は優遇し、これらの依頼は無期限で発注・継続する。納品場所は魔力測定の店のヨコ。魔力測定の店主より』


 それは〝あの〟魔力測定店の店主(仮)からの依頼書だった。


(食材を難民に配るつもりなのか? 家造りが盛んになれば働き口が増え、民家が増えれば難民の生活も落ち着く。この慈善活動を無制限に行う財力――あそこの店主、何者だ?)


 依頼書の意図を瞬時に把握したギルドマスターは、スゥと大きく息を吸い込んだ。


「隣の店主から大口の依頼書が届いた! これら三項目に関して定員・規定数を設けることはない!」


 白旗を上げかけていたギルドマスターは、大口依頼のお陰で権威を損なわずに済んだ。依頼からあぶれた冒険者達も活気付く。


(有難いことに職員の求人にも問い合わせが殺到している。アットホームな職場ってキャッチがウケたに違いない。増築も視野に、今のうちに人手を増やして体制を整えねばならんな……)


 つい数ヶ月前では考えられなかった事態。


 流石にもうこれ以上は無理だろうと諦めかけていた。しかし一転、難民と一緒にギルドも救われたことになる。マスターは深く深く感謝しながら、期待に応えるべく馬車馬の如く働くのであった。




◇◇◇◇◇




「首尾はどうじゃ、じい」


「はい。続々と納品されているようです」


 泉に映る光景をウットリと見下ろすエブリ。


 そこには、店の横にある巨大テントの中に大量の食材が運び込まれていく様と、炊き出しを行うゴーレム達、そして料理を受け取る大勢の人の列があった。


 テント内では難民達を薬草で治療が行われ、空腹・不健康だった者達はみるみるうちに回復していった。健康になった者から仕事探しを始めているようだ。


 余っている土地は綺麗に区画整備され、ゴーレム達に混ざって難民自ら家の建設を始めていた。


「みろ、じい! 信仰心がみるみるうちに貯まってゆくぞ!」


「おめでとうございます」


 今までは、カナメ様へのお願いに対する対価として信仰を得ていたエブリだが、難民救済を行うことで、お願いの数自体は激減しつつ信仰心は数倍以上に膨れ上がっていた。


「ゴーレムの動力は魔力! 魔力は店で回収可能! 店で得た金はギルドに回し、買った物は難民支援に充てる! これでしばらくは落ち着くじゃろ」


「素晴らしい手腕でございます」


 パチパチと拍手するエドワール。

 ドヤ顔のエブリはお腹をさする。


「安心したら腹が減ったの。妾も炊き出しに並ぶとするか」


「お供いたします」


 その後めちゃくちゃ炊き出し食べた。

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