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なに?民が弱すぎるじゃと?

2/7 タイトル変更

 


 アルダンの奇跡から数日が経った。


 物的被害、人的被害共に0に抑えたことで〝カナメ様〟への信仰が厚くなり、エブリの軍は日を追うごとに強く大きくなっていた。


 しかし、避けては通れない問題が一つ――


「ヒトの軍が弱すぎる」


 玉座に頬杖をつきながらボヤくエブリ。

 執事のエドワールが尋ねる。


「魔王様の軍で被害を0にし続ければよろしいのでは?」


「妾の軍が出てくるのを当たり前だと思われてはたまらん。こ奴らを怠け者に育てた覚えはない! それに、次の戦争では今ほどの信仰増加は望めんからの」


 エブリはカナメ様をアテにして練兵を怠り、守られることを当たり前として感謝=信仰が薄くなっていくことを懸念しているようだ。


 しかし、問題に対する案もあるようで……


「じゃからアレを作るぞ!」


「アレ、とは?」


「コレじゃ!『クリエイト・エレメンタル』」


 現れたのは宝石のような美しい物質。

 実はこれ、れっきとした魔物である。


 特徴としては体が魔力で作られており、魔法攻撃を吸収するという性質を持っている。


「コレは?」


「まあまあ見ておれ。まずはこれをこうしてじゃな……」


 彼女は信仰心を媒体に召喚した魔物の性能を自由に操作できる。色や形に留まらず、耐久性や攻撃能力など自由度は無限大であった。



ファイアエレメンタル

――――――――――

人間への攻撃性:3

属性魔法:3

属性耐久:-

魔力吸収:4



 エレメンタルは合計10の「ステータスポイント」というものを持っている。これはエブリの魔法独自の機能であり、エブリにしか見ること・触ることができない。


(人への攻撃意識を消しただけで〝3〟も余裕ができたの。お陰で属性無効化まで伸ばせたし結果オーライ&ラッキーじゃな)


 初期状態では人間への攻撃性に3、属性魔法に3、魔力吸収に4という内訳となっており、エブリはそれを改造していく。



クリアエレメンタル

――――――――――

人間への攻撃性:0

属性魔法:0

属性耐久:-

魔力吸収:10(上限)



 前述の項目に加え、属性魔法の数値も0へと変更。魔力吸収という項目に10を振った。


 エレメンタルという種族は、火属性、水属性、風属性、土属性、光属性、闇属性の6種類が存在し、それぞれ属性に準ずる体の色を持っている。その上、準ずる属性のいかなる魔法も無効化する脅威の耐久力を持っている。


 魔法吸収の能力を伸ばせば、エレメンタルが一度に吸収できる魔力の量も増える。これが上限ともなれば、無制限に吸収が可能となる。


「あとはこれをちょちょいと付けて、と……」




◇◇◇◇◇



 

 冒険者ギルド〝黄昏の冒険者〟。


 所属数18名、冒険者の最大ランクBという、大陸全体から見て弱小も弱小ギルドである――が、アルダン唯一のギルドでもあった。


「なんじゃこりゃ」


 ギルドマスターは、横の空き地に建設された妙な施設の前にいた。あんぐり空いた口からタバコがポロリと落ちる。


『魔力測定の店』


 看板には達筆な字でそう書かれている。


「魔力測定施設だと?」

「魔力って測定できるものなの?」

「昨日までこんなの無かったのに……」

「怪しすぎないか?」


 狼狽えるメンバー達の中で一人、冒険者ノックだけが目を輝かせていた。


「絶対カナメ様が作った施設ですよ!」


 そう、ノックはかつて魔族軍を見つけ町に知らした冒険者である。彼は、赤ん坊が元気に産まれた瞬間や、買い物小計と持ち金がピッタリだったことなど、大小関係なく奇跡を体験するたびに〝カナメ様〟の仕業だと感激する体質になってしまっていた。


(出たよカナメ様ファン……)


 そんな彼に苦笑するギルドマスター。絶対関係ないだろと思いつつ、再び施設に視線を向ける。


 スゥ――


『カナメ様の提供で運営します』


「なんか追加されたけど!?」


 看板の下に提供クレジットが出現した。

 ますます怪しいことこの上ない。


 やっぱり! と感激の声を上げるノック。

 胡散臭い、とマスターは警戒する。


 関係の有無に限らず、この怪しい施設の室内は調べる必要がある。内容によっては営業停止措置も取らなければならないからだ。


 ぞろぞろと入っていく冒険者達。


 室内には、そこそこ広い受付と待合室、そして「魔法攻撃力測定」と書かれた扉と「魔力・属性測定」と書かれた扉があった。


「なんだこれ?」


「知らんのか? ここでは自分の魔力を測ることができる。鍛えることもな」


 驚くべきことに、店内はすでに大勢の人で賑わっていた。呆気に取られる冒険者達に、ベテラン風を吹かした老人が答えた。


「魔力を測定? そんなことが可能なのか?」


 人間界に魔力測定装置というものはない。


 魔法というものはあるが、その人が「どれほどの魔力があり、どれほどの魔法が使えるか」ということを分析するような装置は存在しない。


 今までは魔法の取得難易度である「等級」がイコール実力とされてきた。一等級魔法が使えるから「極めて優れた魔法使い」だとか、十等級魔法しか使えないから「見習い魔法使い」などがいい例である。


「何名じゃ?」

「あ、あぁ、すまん、5人だ」

「わかった」


 無愛想な受付が何かを操作すると、まずギルドマスターが「魔力・属性測定装置」の部屋へと通された。


(なんだこの部屋は……)


 部屋の中央にはわざとらしく豪華に飾られた台座の上に、透明の宝石が鎮座していた。宝石には(くだ)が繋がれており、隅にあるガラス管と繋がっていた。


『そこに手を乗せるがいい』


 生意気そうな少女の声が脳内に響く。

 半信半疑で手を乗せるギルドマスター。


「ッ!?」


 体から何かが抜け落ちるような感覚に腰を抜かすと、目の前で奇妙なことが起こった。


 

 属性:火

 魔力:1204


 六等級魔法が使用できる数値です


 

 訳もわからないまま外に出ると、くだんの老人が「ほっほっほ」と出迎えた。


「な、なんだあれ!」


「あれがお主の今の素質じゃよ。魔力は一晩休めば回復するから、毎日通えばどんどん伸びる。そうすれば魔物退治の助けにもなるじゃろ」


 後に呼ばれた冒険者達が数字の大きさに一喜一憂する中で、ギルドマスターはこの〝革命〟に戦慄を覚えていた。


(まだ信憑性の低い数字だが……)


 額に汗が滲む。


 まだ仮の話――断じてまだ仮の話ではあるが、今まで魔力を数値として見てこなかった人間からすると、これはまさに革命と呼べる代物であった。


 情報が揃わない限りは一つのデータに過ぎないそれも、大勢の数字を揃えれば、これまで曖昧な基準でしか評価されなかった人々も、正確な優劣が付けられるようになるだろう。


 属性が分かれば、早いうちからそれに準じた修練も可能となるだろう。属性が増えれば戦術の幅も大きく広がる。


「こうしちゃいられん……!」


 慌てた様子でその場を後にするギルドマスター。受付の少女はしたり顔でその背中を見送った。


 

◇◇◇◇◇



 ある日の夜――

 地下工房で一人の少女がほくそ笑んだ。


「しめしめ。今日もたんまり魔力が貯まったわい。これをこうして……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜」


 謎の注射器を腕に刺し、昇天するエブリ。

 

 ここは「魔力測定」の店の地下にある工房。この場所の存在はエブリしか知らず、ここで何をしているかは誰も知らない。


 地下工房には巨大なタンクがある。

 タンクの中は奇妙な液体で満たされていた。

 そう、これらは利用者から抜いた魔力である。


 魔力測定の店の仕組みは簡単で、エレメンタルが利用者の魔力を全て吸い尽くし、その数値と属性を正確に測り可視化させる。奪った魔力はエレメンタルの栄養――にはならず、横取りする形で地下へと送られタンクに溜まる。

 

 一見して人間から魔力を徴収するだけの装置に見えるがそうではない。というのも、魔力を空にすると、回復の過程で補強するように魔力絶対量が伸びる。ちょうど筋トレと同じ要領だ。


 ちなみに、抜いた魔力は信仰心と同じように彼女の力に変換できる。信仰心だけに飽き足らず魔力までも搾取する、正に魔王の鏡である。


「エレメンタルには残酷じゃがこれも大義のためじゃぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 爆発的に利用者が増えているため彼女の魔力許容量(キャパ)が心配されるところだが、今のところ体が爆発したりはしていないようだ。


「っぷ……今日もご馳走様じゃぁ……」


 グロッキーな顔で椅子に沈み込むエブリは、適当なスペースに向けて魔法を行使した。



『クリエイト・ゴーレム』



 そこに精巧な人型ゴーレムが所狭しと召喚された。数は100はくだらないが、場所的な制限でこれ以上創ることができないだけで、エブリの魔力はまだまだ余力がある。


 ゴーレムは自在に四肢を動かし、器用に物を掴んでみせる。これほど精密な動きができるなら、武器を持たせても存分に扱えるだろう。


「くくく。これだけ創れるなら十分じゃな……明日から計画を実行に移してくれるわ」


 仮に寝静まる町に100体のゴーレムで攻め入れば、城を落とすことも不可能ではないだろう。


 地下工房に不気味な笑い声が響く。




◇◇◇◇◇




 翌朝――魔力測定の店。

 本日来店第一号の客が店の変化に気付く。


「あ、店員さん雇ったんだ」


 店頭にはメイド服のゴーレムが立っていた。

 羊皮紙にスラスラと客の名前を書いている。


 受付には同じ格好のゴーレムが二体。

 測定室の中にもゴーレムの姿がある。


(くくく。これでわしが店頭に立つ必要もなくなった。店の業務が円滑になり、お客様満足度も上がるはずじゃ)

 

 バックヤードで不敵に笑うエブリ。


 こうして、各地を転々とする冒険者達によって店の噂は広まっていく。その間にも町民の魔力は日に日に鍛えられてゆき、多くの人が当たり前のように魔法が使えるようになっていくのであった。

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