暗愚と聡明~手紙に隠されていた物語~
先に
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をお読みください。
アーマティア王国最大の暗愚、暗黒の王太子 ギルベルトと
アーマティア王国最大の賢王、光明の王太子 アルベルト。
暗愚のギルベルトに振り回され、虐められていた所を賢王アルベルトに救われたが、
アルベルトの愛を受け入れる寸前に亡くなったという悲劇の令嬢ミディア。
そして、その後王となったアルベルトの悲しみを癒し、最後までアルベルトを支えたとされる王妃ルナマリア。
この国に居る人なら誰もが知っている悲恋と愛の物語である。
そして、当時の資料としてアルティア公爵家にギルベルトからミディア宛に送られた手紙が残されていた。
公開当時は、その意味不明な文字の羅列を見て、人々は暗愚は本当だったと呆れと感動に包まれていた。
しかし、とある文学者がこの手紙にある一種の違和感を覚え研究した結果、
一定の間隔で文字がずれていることを発見したのだった。
これから解読された手紙の文章を公開したいと思う。
これを読んだ後、暗黒の王太子 ギルベルトの印象がどうなったのかは
筆者の与り知らぬ所である。
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〇〇年〇△月×〇日
(※筆者注:メディア嬢と婚約した数日後)
私は今、人生最大の幸福と将来の約束された不幸を得た。
幸福とは貴女を婚約者に出来たこと
不幸とは貴女をいずれ手放せなければならないこと
願わくば幸福は永久に、不幸は我が死と共にあらんことを
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〇〇年〇×月××日
弟が産まれた。
5歳差だ。
父上はとても喜んでいる。正妃の子だからだと母上が言っていた。
これから色々と変わるだろうと。
貴女の方に何も無ければよいけど。
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〇△年△〇月×△日
私の方の勉強の質が変わった。
貴女の方はどうだろうか?
少し前まで、同じ先生だったから貴女の優秀さを聞く事ができました。
今はできません。
変わっていない事を祈ります。
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〇△年〇×月××日
母が死にました。
人は運命を避けられないと、母の死は運命だったのだと語ります。
今日から、運命は嫌いになりました。
父上は、母上の前で泣きました。
そして、涙と一緒に母上とのつながりを流したのでしょう。
もう、父上の中に母上も私もいません。
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〇△年×□月×□日
父上も殆どの大人も私に興味がないようでした。
唯一の繋がりは数年前に発した王太子の名前だけ。
監視も護衛もいないので市井に遊びにいけました。
そして、市井に友人が出来ました。
スラムの子供達や裏ギルドのマスター等も会えました。
いずれ、貴女にも紹介したいです。
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△×年〇□月×□日
貴女と逢って3年が経ちました。
此度、私に従者が2名来ました。
ラシェリア子爵子息のエドウィンとコシェリア子爵子息のピエールです。
2名とも、勉強をしない私に苛立ちを覚えているようで
どうやら監視では無さそうです。
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△×年〇△月〇□日
宮殿内で、私が愚かだという噂が流れています。
エドウィンとピエールも勉強をしない私を知っているので
ある意味肯定しているようです。
昨日、カテディア侯爵が逢いに来ました。
私を小馬鹿にしつつも、どうやらある程度使えそうだと判断したようでした。
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△△年〇〇月×□日
弟が5歳になったので、真面目なエドウィンとピエールを弟の従者にするよう
ラシェリア子爵とコシェリア子爵に監視と称して異動させました。
両子爵も私より弟の方と誼を結びたがってたので渡りに船だったと思います。
市井と裏の面子にカテディア侯爵あたりを調査してもらっています。
もしかすると、クーデータ(恐らくクーデターと思われる)を画策しているかもしれません。
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△△年〇×月××日
帝国に近い土地は、羊を育てて生業としているそうです。
私もそんな生活をしたい。
明日からの学園生活は気落ちさせます。
手紙も更に送れなくなるでしょう。
とはいえ、読まれているか、読めているか分からない手紙が送られなくなるのだから
貴女はほっとするかもしれませんね。
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△〇年〇×月×〇日
マリベルなる女性が付きまとうようになった。
どうやらカテディア侯爵との関係もあるそうだ。
色とりどりの花を飛び回る蝶らしく、
地盤を固めるのに一役かっているらしい。
貴女も気を付けてほしい。
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△□年〇×月×◇日
マリベルなる女性好みの、カテディア侯爵経由からの取り巻きが宛がわれている。
かなり程度が低い。
けれども、私には都合が良い。
アベルが証拠を掴んだ。
カテディア侯爵が何かするのは確定のようだ。
だが、アベルが掴んだのはそっちだけではない。
父、王はそれを知っていた。
アルティア公爵を巻き込み、削る算段のようだ。
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△◇年××月×△日
カテディア侯爵が行おうとしていた事は、
全てアベル経由で弟にわたるようにした
ピエール辺りが気付くだろう。
王は、アルティア公爵の権力を削る方針を崩していない。
さらに、君も手に入れるように暗躍している。
王城に来てはいけない
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△◇年××月×■日
王が動く日付が分かった。
卒業の夜会が終わった後、各人をとらえるようだ。
祝い事ということで皆が緩んでいるからこそ、丸め込めると踏んだのかもしれない。
事実と偽りを混ぜた証拠を多分に用意しているそうだ。
弟には夜会中に動くよう、操作している。
安心してほしい。
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当日になった。
大丈夫。
全て上手くいく。
そして、君も私から解放される。
今までありがとう。
さようなら。
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如何だっただろうか。
さて、最後の二通は、普通の文字で書かれた手紙。
書いた人も違うが、一緒に混ざっていたので紹介だけしたいと思う。
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公爵家並びに、私を想っての行動、とても感謝しております。
手紙、全て読ませて頂いております。
アベル様を介した逢瀬、何時も楽しみにしておりました。
貴方様と、貴方様の本当の貴方様の一時は、宝物です。
宝飾や服飾は、貴方様でなく陛下の色合いなのは、
きっと、貴方様でない貴方様からで貴方様は何も知らない事なのでしょう。
貴方様から頂いた、一つの髪飾りが、私の全てでございます。
知っていますか?貴方様の色のドレス。
私は勝手に用意しているのですよ?
もう、手放さないでください。
どんなところでも 貴方がいれば。
だから、応えてください。
すまない。届けられない。
アベル
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お父様、お母様
白き羊は黒き羊へ
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歴史書には、ミディア嬢死後アルベルト王の功績はこう記されている。
同年に禅譲を受けたアルベルト王は帝国との関係を改善。
しかし、数年後帝国との国境付近で小競り合いが激化する。
結果、帝国と間に羊公と名乗る者が小競り合いを制し
羊公国を設立する。
王国の1割。帝国の3割を羊公国に奪われる。
羊公国に反攻した帝国は、弱体。
残ったはずの大半は独立し、王国・公国の衛星地となった。
王国は、羊公国と和解。
結果帝国の一部を切り崩し王国は栄えたという。