ナナケンジャ5
「ロウエ……何をするつもりなの?」
マリエスは不安そうに僕の顔を覗き込みながら言った。その背中には大荷物が背負われている。
「うん」
マリエスを不安がらせないよう、僕は自信満々に頷いてみせた。
マリエスをサギカに認めて貰う。
それは容易なようでとてつもなく難しい事ではある。
この村では現在、一つ問題が起こっている。
僕自らも襲われた白銀の獣。
本来ならこのあたりには存在するはずがない凶暴な獣。
一晩の間に白銀の獣の出没情報は村全体に広がり、農作を営む者の多い我が村の村民は、恐怖に震え上がっているらしい。
もし、そんな獣を討伐することができたとしたら?
マリエスの進学に反対しているシフィエスはもちろん、サギカや母さんの耳にも届く。
マリエスが獣人であることを知らない村中の人々にその名を轟かせる事になる。
そうなれば、シフィエスもマリエスの進学に反対することが難しくなるだろう____
僕はそう仮定して、白銀の獣、討伐作戦を遂行する事にした。
面と向かって戦えば勝ち目はない。
一度対峙した僕にだからこそわかる。
その為に策は用意した。
「じゃあ、僕とマリエスに屈折をかけてくれる?」
「どうして?」
「これから林に入るんだ。白銀の獣に見つからない為に姿を隠すんだよ」
「エェッー!?」
マリエスはとても驚いた様子で大声をあげたが両手を使い、マリエスの口を塞いだ。
「そんな大声を出したら大人に気づかれちゃうよ」
マリエスは口を塞がれたまま、コクコクと二度頷いたので手を離してやる。
「まさかこのお肉、獣をおびき出す為に使うつもりだったの?」
マリエスの背中に背負われている大荷物はブロック肉。
マリエスの推測通り、白銀の獣をおびき出す為に使うつもりだ。
「そうだよ。その肉を使っておびき出す。そして倒す」
「そんなにうまくいくかなあ?」
「大丈夫。もうひと工夫するつもりだから」
「くふう?」
「心配しなくても大丈夫。相手から僕らの姿は見えないんだから」
マリエスの屈折魔法は、そこにあるはずの物を誤認させる。
あるはずの物がないものへ。普段からよく目にしているからこそ信用できる。
見えはしないがマリエスの耳は今もピクピクと動いているはずだ。
「それはそうだけど……」
マリエスは林に入る事。それを禁じられている事を気にしているようでもあった。
しかし、この禁忌破りはマリエスの夢を叶えるためだ。今動かずしていつ動くのか。
「きっと、これは最初で最後のチャンスだよ。僕はそう思う」
「……うん。そうだよね」
マリエスは一瞬の逡巡を見せるも、一度閉じて開かれた瞳には決意が宿っていた。
「じゃあマリエス。屈折を」
「うん。レフラ___」
「ちょっと待って」
マリエスの詠唱を途中で遮った。意味がわからないとマリエスは疑念の目を僕に向ける。
「お互いの姿が見えなくなってしまったら困るだろ?だから手を繋いでおこう」
言って手を差し出すと、マリエスも納得してくれたようで左手を差し出してきた。
その手を握りマリエスに頷き返すと、マリエスは瞳を閉じ______
「屈折!」
途端に僕の視界からマリエスの姿が消えた。
繋がている感触だけを頼りにマリエスに問いかける。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ。ロウエが一緒だから」
当然、マリエスがどんな表情でそんな事を言っているのかはわからない。
でも気持ちは伝わって来ていた。
強く握られた僕の右手に。




