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秘密のノート

 たくさんの光が進に集まる。進は息遣いを整えるように足を止めると光の方に体を向けた。サーチライトの光の先にあるのはたくさんの銃口だろう。もう逃げきれない。やつらは俺を殺すだろうか。進は手に持った一冊のノートを握りしめた。

 進が日本政府から盗み出したのは「旧帝国陸軍参謀たちの秘密のノート」だった。

 昭和三〇年、高度経済成長の入り口に日本はいた。日本の通産省や財閥は大日本帝国が成しえなかった産業の重工業へのシフト、世界への進出、とくに欧米市場への商品の売り込みを考えていた。それには優秀な頭脳が必要になる。兵隊はいる。二四時間働き続ける企業戦士は、日本中の学校で大量生産されていた。兵隊は作戦をくだせば自分の命を顧みずに突撃を繰り返すだろう。

 旧帝国陸軍の参謀たちは優秀なテクノクラートだった。巨大組織を見事に運営し大東亜戦争を遂行した。巨大な組織を動かす官僚的能力、企画力は総合商社や銀行、鉄鋼、自動車、家電メーカー、紡績、合繊など日本の企業経営者にとっては垂涎の的であった。旧帝国陸軍の参謀たちは「経営企画室」の設立と「人事」の掌握を武器に自分たちを売り込んだ。今や多くの企業で旧軍の参謀は経営の中枢にいた。

 進が手にしたのは旧陸軍参謀本部の作戦課長だった男が記した秘密のリストである。多くの企業に彼らの息のかかった部下たちを送り込む。日本の大企業に入り込んだ参謀たちは再び彼らだけの権力機構を築こうとしていた。

 銃口は進に向けられていた。真実は闇に葬られようとしている。たくさんの光が進の目の前にあふれた。もう誰も何も見えない。思うと涙が流れた。

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