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世界線越のスペクルム  作者: EME(R15)
7/9

第7話 エリさん

ブランチ後。

子供たちの多くは昼寝の時間のようで、先程までの騒がしさが嘘のような、静かな時間が流れていた。


「ユイトさん、GT、マツリ、コーヒーどうぞ。」


そう言ってマツリの姉らしき人がコーヒーを淹れてくれた。

エリさんと呼ばれていた女性は子供たちを昼寝させている間に、一緒に眠ってしまったようだ。


「自己紹介がまだだったね。私はHH。本名はヒナノ。マツリの実の姉です。

ユイトさんの話は伺ってます。これからしばらくの間、よろしくお願いしますね。」


確かに顔立ちなどは似ている。

しかしマツリの姉にしては落ち着いた雰囲気の女性だ。グイグイこないし、話しやすい。


「ユイト?今なんか失礼なこと考えた?私そういうのは分かっちゃう人だからね?」


マツリがじとりとした目でこちらを見て言った。

マツリって本当に俺のことを…いや、考えるのはやめておこう。

俺はコーヒーを一口飲んだ。美味しい。


「美味しい…。」


「よかった!嬉しいわ。ユイトさんはコーヒー好きなの、覚えておきますね!」


そう言って笑った顔はマツリそっくりだった。


「盛り上がってるわね、何より。」


レストランの入り口から昨日散々聞いた声が聞こえた。


「…蝶子…」


俺は彼女の名前を呟いた。また怒りや絶望感が込み上げてくる。


「もうブランチ終わっちゃったよ〜!来るの遅い!寝てた?」


マツリが蝶子に駆け寄る。


「そんなわけないでしょ。ラボに籠ってた。

…ちょっと困ったことが起きてる。マツリ、エリさんを起こしてくれる?」


蝶子が固い声で言った。マツリはそれで何かを察したようで、いつもの笑顔は消え、真剣な面持ちになっていた。


「えっと、蝶子?コーヒー飲む?」


ヒナノさんが席を立ち、蝶子に聞いた。


「お願いします。…それから、タブレットを持ってきてください。おそらく実働作戦になるかと。」


その言葉を聞き、ヒナノの顔が強張る。チラリと目をやるとGTの顔も引き攣っていた。


-------------------------------------


俺、蝶子、マツリ、GT、ヒナノさん、そして起きてきたエリさんでテーブルを囲む。蝶子とヒナノさんは俺の部屋にも置いてあった透明のタブレットを持っている。


「緊急事態よ。キャンセラーを作るためのパーツがもうない。

私たちの計画の為には、早急にユイトの分のキャンセラーが必要よ。


それに計画を進めるうちに、きっとアジトでの潜伏が難しくなる場面が出てくると思う。その際、まだキャンセラーを持っていない子供たちは置いて行くことになるわ。


…だから今回、パーツ倉庫の襲撃を行おうと思います。」


「「「!!!」」」


そう蝶子が口にした瞬間、場に緊張が走るのを感じた。

蝶子が続ける。


「今回もマツリは免除、エリさんは子供たちのお世話、ヒナノさんはオペレーターお願いします。そして実働部隊は、私とナナカ、GT、それからショウタくんで行こうと思っています。」


蝶子の言葉を聞いて、エリさんがすごい剣幕で立ち上がる。


「無理よ!!ショウタはまだ8歳になったばかりよ!!絶対にダメ!!!」


蝶子が一瞬どもるが、すぐに冷静さを取り戻し言った。


「…っ…分かっています。でもどうしても4人は必要なの。」


「なら私が行くわよ!!!」


エリさんが叫ぶ。


「エリさんがいなくなったら、誰が子供たちのお世話をするんですか?

それにこのアジトがいつ危険になるか分からない。いざというとき子供たちを避難させる人が必要です。」


「だからって…なんでショウタなのよ…っ。」


エリさんがその場に崩れる。


「…ごめんなさい。エリさんの実子であるショウタくんを指名してしまって…。

でもショウタくんが子供たちの中では1番年上で、しっかり者だから…。

もうショウタくんを頼るしかないんです。」


「ううぅ…嫌、嫌よおぉぉ…。私にはもうショウタしかいないのに…。」


エリさんはその場に突っ伏して泣き始めた。

その場の皆が悲痛な表情で顔を伏せる。


暫く泣いていたエリさんがいきなりばっと顔を上げ、俺の方を食い入るように見て来た。

まさか…俺に行けってか?


「最終兵器さん…私たちの最後の希望…。お願いです。ショウタを、私の息子を助けて下さい…!

なんでもします!なんでもしますから、どうかショウタを…!」


そう言いながらエリさんは俺の足に縋り付いて来た。

あまりにも必死な形相に恐怖を覚えた。…正直気色悪い…。

頭ではエリさんが必死になる理由も、息子を思う強い気持ちも、理解できるのに…。

必死になって俺に代わりになれと懇願するエリさんが怖くて仕方なかった。


「お、俺は…」


「エリさん!!」


蝶子が咎めるような声でエリさんの名前を呼び、俺の足から彼女を引き剝がし言った。


「エリさんも自分で言っていたけど、ユイトは『私たちの最後の希望』なの。

ユイトがもし死んだら、私たちも全滅よ。

エリさんしっかりして!他の皆の命のことも考えて!」


「でも…でも!私は他の誰よりもショウタに生きていて欲しいの!!

お願い、お願いよ!ショウタだけは、ショウタだけは…!!」


「…っ!」


蝶子がぐっと拳を握りしめている。


「……分かった。」


暫く無言の時間が続いたのち、蝶子が立ち上がり言った。


「今回は、3人で行きます。…GT、ごめんなさい。かなり危険になるけど…来て欲しい。」


「お前が死んでも俺らは全滅だろうが。行くに決まってるだろ。」


そうGTはにかっと笑って言った。


「ううぅ…うう~~~。」


エリさんはまたその場に突っ伏して泣いている。


「蝶子…大丈夫なんだよね?」


マツリが真っ青な顔で蝶子の傍に駆け寄り問い掛ける。

蝶子はいつもの固い声で答えた。


「…なんとかする。マツリはいつも通り、自分のやるべきことをやって。」

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