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世界線越のスペクルム  作者: EME(R15)
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第6話 私たちを助けて

みんなでブランチと言われ、ショッピングモールの一画にあるレストランに案内された。

勝手に大人や同世代が大勢いるのかと思ったが、予想は大きく外れた。

マツリとGTの他2人の妙齢の女性以外は皆子供だった。1番大きい子供で小学生低学年くらいの男の子。1番小さい子供で2歳に満たないくらいの小さな女の子だった。何人かの子供たちはレストラン内で鬼ごっこをし、女性に怒られていた。


「ほーら!みんなお客様に挨拶するんだから、大人しく座って!

GTもマツリちゃんも手伝って!最終兵器さんは奥の席に座ってて下さい!

こんな状況ですみません!」


女性の1人が子供を追いかけ回しながらこちらにそう声をかけて来た。


「エリさん、料理もう運んできちゃいますね。みんなー座って!ご飯食べるよー!」


もう1人の女性も慌ただしく食事の準備をしている。

マツリとGTも慌ただしく子供達を座らせる為子供を追いかけ回し始めた。


レストランの奥からもわさわと子供が出て来て、全員席に着く頃には総勢15名の子供たちに囲まれていた。


「お兄ちゃん誰ー?お客さんー?」


「お兄ちゃん遊ぼー!オレサッカーしたい!!」


「お兄ちゃん絵描いてー!」


何人かの子供が俺に乗りかかったり、俺の髪を引っ張ったりしながら話かけてくる。やばい…子供の相手なんてしたことない。こういう時どうすればいいんだ…!?


「こらー!お客さんを困らせちゃダメでしょー!!座って!!」


そう言って先程子供を追いかけ回していた女性が近付いて来た。

確かエリさんと呼ばれていた女性だ。

子供を俺から引き離しながら、俺に話しかけて来た。


「騒がしくてごめんなさいね。戦いで大人はほとんどいなくなってしまったから…。お会い出来てとても嬉しいです。私たちの最後の希望のあなたに。」


そう言われ、俺の胸に何かずしっと重いものが落ちてきた感覚になった。

俺は拉致られた被害者で、この人たちは加害者だ。

しかしこの人たちは俺を捕虜とは思っていないようだ。

…おそらく俺を救世主や勇者のように思っているのだ…。


俺はなんと表現すればいいのか分からない、複雑な気持ちになった。


この人達に恨みに近い感情を抱いていたはずなのに。

俺をこんな目にあわせた蝶子たちの仲間のはずなのに。

なぜか可哀想だと思ってしまう。


大体、この世界線の人間がこの人たちを攻撃する気持ちもなんとなく分かる。

いきなり来訪者が来て、その来訪者が人を害する存在だったら、排除したいとも思うだろう。そんな存在に味方していいのだろうか…。


俺が黙ってそんなことをもやもやと考えていると、女性がまた話かけて来た。


「あなたからしたら、私たちは加害者みたいなものよね。それなのに助けて欲しいなんて身勝手なこと言っているのは、分かっているの。


ただね、私たちはただ、生きたいだけなの。地位もお金も何も要らない。ただひっそりと静かに生きていたい。この子たちに未来を与えたい。それだけなのよ。


…私たちの世界線では、私が中学生の頃からずっと戦争をしていた。たくさんのものが奪われた。…いきなり、ある日突然、日常が崩れ全て奪われたの…。大切な人といられる時間だけがこれ以上ないほど幸せな時間で、それ以外の時間はずっと不安で…。

生きる為に世界線を越えて来たけど、ここでは人間としてさえ扱って貰えなかった。

でも私たちも同じ人間なの。毎日いろんな感情を抱き、幸せになりたいと願い、大切な人たちの幸せも願う。そうして日々を一生懸命生きているの。そしてこれからも生きていきたい。そんな、ただの人間よ。


お願いします。私たちを助けて。」


この女性は、俺の被害者意識も、俺の哀情も、俺の差別的意識も全部見透かしている。

自分の受け身的な考えや差別的な考えを突かれ、恥ずかしくなった。

そしてこの女性はそれらを飲み込んでなお、俺に縋っている…。


この人たちが生きる為、俺の未来を踏み捻っていい訳はない。

でも、この人たちの状況も切実な願いも、俺は今はじめて理解することが出来た。

厚かましい人たちだなとも本当は思うけれど…。


「俺は……。」


俺が返事に迷っていると、マツリが俺にくっついて来た。


「エリさん!もしかしてユイトを口説いてます?

ダメですよ〜!ユイトは私が狙ってるんですー!」


「はぁ…!?いや、俺彼女いるし!」


いきなりのマツリの告白に俺は気が動転した。


「こらマツリー?何馬鹿なこと言ってるの!」


もう1人、料理を準備していた女性が近付いて来て、マツリの頭を小突いた。


「いたっ!もうお姉ちゃん!暴力反対!!」


「さあ食事の準備が出来たわよー!みんな仲良く食べるのよ!せーの、いただきまーす!」


気がつくと目の前には皿が用意され、テーブルには大皿料理がぎっしり並んでいた。マツリの姉らしき女性の掛け声がかかると、子供たちが一斉に料理をよそいだした。


「おい!それオレの唐揚げだぞ!!」


「うえーん!にいちゃんがオレの唐揚げ取ったー!」


「ねー!あたしの取って!届かないー!!」


「おいトマト残すなよ!お前も食べろよ、ずるいなぁ!」


「もー!喧嘩しないの!仲良く!!」


すごい騒がしさ、すごいスピードで料理が捌けていく。


「ユイト!ぼーっとしてると無くなっちゃうよ?はい、ユイトの分よそったよ!おかわりは自分でしてね〜」


そういってマツリが俺の皿に唐揚げとご飯を分けてくれた。


「…うまい。」


このパラレルワールドに来て初めて食べたご飯は、食べ慣れた唐揚げと白米だった。

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